第三十六話
「いや~それはちょっと遠慮したいかなぁって」
今、一週間ダンジョンにずっと潜り続けると言ったんだぞ、この女は。
モンスターを狩って稼ぐことを目的とする探索者は大抵三、四時間ぐらいしか探索をせず、長くともその倍程度が基本だ。
調査を目的とする探索者であっても、探索する時間は十時間を超えない。
そうした常識がある中、一週間ダンジョンに籠らせようとしているのは、流石に頭がおかしいとしか言いようがない。
「あら、男が一度言ったことを撤回するのですか?」
「俺は男女平等を掲げて生きているつもりだぞ」
「そうですか、ちなみに女が相手でも同じように言いますので、関係ありませんね」
ニコニコと笑みを浮かべ続ける八雲彩。
この女、あのクソ爺と同じ雰囲気がするんだが。
(そっか祖父と孫の関係か)
良心のかけらも持っていないらしい。
「流石に一週間ダンジョンに潜り続けるのは非現実的過ぎないか」
一応、常識を使って攻めてみるが。
「使用人になる者は大抵、特訓として三日間はダンジョンに放り込まれたりしてますから、そこまで非現実的ではないと思います。私も五日間仲間と一緒に潜ったことがありますから」
非常識が常識となっている人間に何を言っても無駄であった。
「それはアンタらが非常識なだけだろ」
「大丈夫です、貴方も強さは非常識ですから」
全く口撃が通じていないどころか、俺にカウンターを返してくる余裕まである。
(これって、飲まないといけない奴だよな)
依然として笑顔の彩は、俺に逃げ道を与えるつもりはないようだ。
(まあ、他に方法がないのは、事実でもあるんだよな)
真っ当なやり方では、真っ当な強さしか得られない。
現実的なやり方で短期間で人より強くなろうとする方が、ある意味、非現実的と言えるかもしれない。
(昔の鍛錬を思い出す)
昔に三日三晩寝ずに素振りをやらされたが、あの練習は本当に非常識だったなあ。
「あらためて、了承いただけますか」
彩の冷たい声で一気に現実に引き戻される。
俺は彩の方を見て、ニヤリと笑った。
「俺、会社の仕事があるんだけど」
俺には最強の切り札があった。
会社の仕事をほったらかして、一週間の休みは取れないという切り札が。
休みが取りやすい(取った分だけ給料は減るが)ものの、そこまで長い休みはいきなり取ることはできない。
内心勝利を確信していると、彩はやれやれといった風に首を横に振った。
「大丈夫です。既に澄原様の上司からメールが来てるはずですよ」
「は?」
嫌な予感がした俺は慌ててスマホを取り出すと、そこには一週間の休みを許可するという、上司からのメールが届いていた。
「これ、拒否権ないじゃん」
完璧にスケジュールを握られており、既に俺の選択肢というものはないようだった。
「はい、ありませんでしたよ。しかし、澄原様の意志があるかないかは結果にも、それなりに影響しますので、できればご自身の意志で選択してほしかったのです」
神妙そうに語る彩であるが、ただのパワハラを宣告する女にしか見えない。
「はあ、そうかい。それで、どこのダンジョンに行くんだよ」
もう何をしても無駄と判断した俺は、行き先を聞く。
ここらでレベル上げの効率が良かったのは、東京・第十一ダンジョンだったか?
どのダンジョンに行くのか、そんなことを考えていると。
「京都です」
意味の分からない言葉が聞こえた。
「東・京・都だよな」
「京・都の清水寺前ダンジョンで、澄原様には修行をしてもらいます。ちなみに拒否権はありません」
こうして、俺の京都行は無慈悲にも決定されるのであった。
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