プロローグ
本日、四度目の更新です。
川崎家に招かれてから約一か月が過ぎた。
俺はいつも通りダンジョンを探索して、モンスターを狩ることでレベル上げや金銭を稼いだりしている。
川崎とは週三回程度一緒に探索をしており、しっかり慣らさせてから徐々にハードルを上げていく予定だ。
とまあ、そんなわけなのだが、現在の俺は京都にいる。
それも京都にある最も有名とされるダンジョンの一つ、清水寺前ダンジョンを探索していた。
京都にあるダンジョンへの扉は、観光名所の近くにある場合が多く、近くにある観光名所の名前にちなんでダンジョンの名前が決められている。
ただ、今回のダンジョン探索はアスカや川崎ではなく、別の女性と探索をしていた。
「何をちんたらしているのですか、早く行きますよ」
目の前を歩く女性、八雲彩が辛辣な言葉を吐きながら、振り返る。
その女性はどこか冷たい美貌を持っており、身長は高く、手足も長いことからモデルに見間違えられそうな、そんな浮世離れした容姿をしている。
しいて欠点を言うなら、常に無表情なので、近寄り難いと感じる点だろうか。
「うるさいな。アンタみたいな超人じゃないんだよ、俺は」
俺のレベルは現在95。
前までレベル76だった頃に比べると、途轍もないほどの進歩だ。
ただ、それはあくまで俺の成長だけを見ればの話であり、目の前にいる女性は俺のレベルの遥か先を行っている。
にもかかわらず、彼女は何言ってるんだコイツみたいな表情をする。
「仕合の時、私のことを翻弄しておいて、よくそんなこと言えますね」
この女性は川崎家に招待された時に戦った使用人の一人、最後に戦ったメイドの女性だった。
そのため、俺のレベルが低いことを知っていながらも、やたらキツイ行軍をするのである。
「あれとこれとは別だろ」
「確かに、貴方はレベルが低いですからね。別と言えば別かもしれません」
上から目線で物を言ってくるが、彼女のレベルは327。
俺のレベルの三倍以上あり、彼女からしてみれば、俺のレベルが低いというのは紛れもない事実だった。
「ほら、早く行きますよ。今回は貴方のレベル上げのために来ているのですから」
彼女が一陣の風のような速さで通路を駆けていく。
俺も全力で走るが、到底追いつける身体能力は持っていない。
(どうして、こうなったんだかなぁ)
俺は事の発端を振り返る。
全ては昨日の夜が始まりだったのだ。
♦♢♦♢♦
『ふう、今日も疲れたな』
『そうね~』
その日は会社での仕事、ダンジョン探索を両方終えており、アスカと共にマンションの自室へと戻ってきたところだった。
いつも通り鍵を開け、ドアを開く。
何の変哲もない家庭の料理の匂いがした。
「さて」
俺は腰に差した刀を抜く。
部屋の鍵は全て閉めており、誰かがこの部屋に居る予定もない。
キッチンの方から、トントントンと、何かを切る音がする。
警戒した面持ちでキッチンに行くと、そこには無表情で料理を作っているメイドがいた。
「人の家で何してんだ、アンタ」
「料理を作っています」
メイドは顔色一つ変えずに、トントントンとテンポよく野菜を切っていく。
彼女はちらりと視線を向けたかと思うと、調理を再開した。
「この前はどうも、澄原様。随分と私をコテンパンにしてくれましたね、正直今でも根に持ってますよ」
食材を切るスピードが急激に上がっていく。
俺に対する怒りを表しているのか分からないが、その姿には並々ならぬ気迫が込められていた。
「どちらかというとコテンパンにしたのは八雲だけどな」
俺は攻撃をいなしたりして、コケにしただけだから。
そう言った俺に、毒気を抜かれたのか、切るスピードが弱まっていく。
「どう考えても貴方の方が酷いでしょう。はあ、全く、強い人は変人ばかりですね」
(たぶん、人の家に勝手に入って料理をする変人に言う資格はないと思う)
「というか、おじい様は仕方ありません。あの人は、昔からああいう人ですから」
ん?おじい様?
「ちょっと待て、今おじい様って言ったか?」
もしかしたら俺の聞き間違いかもしれない。
そんな期待を込めた言葉はあっさりと打ち砕かれた。
「はい、そうですよ」
材料を切り終わったのか、包丁をキッチンの棚にしまい、こちらに向き直るメイド。
「え、アンタと八雲ってどういう関係なの?」
もしかして、職権乱用して部下におじい様とか呼ばせてるとか?
そうだとしたら俺、あいつとは一生喋りたくないんだけど。
俺がそんな失礼なことを考えていると、何かを思い出したような表情をした彼女は両手を合わせ、口を開く。
「あ~、まだ、自己紹介をしていませんでしたね。私の名前は八雲彩と言います。気軽に彩と読んでいただいても、構いません。澄原様の言う、八雲は八雲源蔵と言い、私の祖父に当たります」
「マジで?」
俺は八雲と目の前の女性、彩の関係に驚愕のあまり慄いていると。
「いや、何の話だよ」
蚊帳の外にされていたアスカが、たまらずツッコミを入れるのであった。
読んでいただき、ありがとうございます。




