エピローグ
本日、三度目の更新です。
あの後、俺は使用人に案内された部屋で川崎と高級料亭ででてくるような夕食を取り終えると、間もなく、行きに乗った黒塗りの高級車へと乗せられた。
運転席、助手席共に黒服が座っており、こちらには一切視線を向けてこない。
彼らが行きの時よりもだいぶ緊張しているため、既に俺と使用人の仕合の情報が伝えられているようだった。
(どうでもいいか)
別にあいつらが怯えていようがいまいが、何かが変わるわけでもないしな。
精々メリットは、変なことをしてこないことが確約されていることぐらいか。
そんなことを思っていると、川崎の全く怖くない怒鳴り声が聞こえてくる。
「全くあの人は!」
川崎は俺の横でプンプンと怒っていた。
実は彼女の父親が夕食になっても現れず、使用人に聞いてみたところ、仕事が忙しく、この場に来れないとのことだった。
招待しておいて来ないという事実に憤慨していた川崎が、未だに怒っているのである。
「それにしても、着物姿の川崎は綺麗だったな」
「きっ!」
俺の言葉にボンッと顔を真っ赤に染め上げる川崎。
薄いピンク色(桜色とでもいうのか)を基調とした着物で、美しさの中に優しさを感じられる色合いだった。
川崎の怒りも掻き消えてから幾分ほど、互いに話す内容もなく黙り続ける。
「なあ、川崎」
「なんですか?」
俺が落ち着いたトーンで声を掛けると、冷静さを取り戻した川崎が返事をする。
息を軽く吐き出した俺が、ちらりと川崎の方を向いて口を開いた。
「あんなことがあったが、これからも一緒にダンジョンを探索しないか?」
言ってみて、割と気恥ずかしくなる。
帽子があれば、深くかぶっていることだろう。
三十五になってダンジョン探索の仲間を誘うのは、なんというか、妙な羞恥心が生まれる行為だった。
「え、それって私をパーティーに入れてくれるってことですか!」
そんな俺の気も知らず、目をキラキラと輝かせながら言う川崎。
そのあまりの勢いにたじろぎながらも、頷く俺。
「ああ、もしよければなんだが」
「ぜひ!むしろ私がお願いしないといけない立場ですよ!」
俺は握手のために右手を差し出す。
その手を両手でぎゅっと包むようにして握る川崎。
(あ)
そうすること十秒、川崎は自分のしていることに気づいたのか、かあっと頬を赤く染めた。
「ははは、じゃあ、これからもよろしくな」
「はいっ」
こうして、川崎の実家への招待は紆余曲折ありながらも、無事終了するのだった。
♦♢♦♢♦
「それで、あの女もパーティーに加わると」
マンションへと戻った俺はリビングで正座の姿勢を保ったまま、頷いた。
「まあ、この【鬼切】って脇差を手に入れたのは評価してもいいけど」
達人並みの巧みな動きで、縦横無尽に鬼切を振るうアスカ。
(ホントに凄いな、精霊)
その動きの数々には一部、俺が実戦で使った技も含まれている。
一通り動かして満足したのか、鬼切を鞘に収めてテーブルの上に置くと、こちらに近づいてきた。
そして前屈みになり、ずいっと顔を近づけてくるアスカ。
彼女の瞳には呆れ、疑い、嫉妬が渦巻いていた。
「いや、だってほらさ、流石に川崎をほっとけないっていうか」
「分かってるわよ。貴方が女性に甘くて、何だかんだ優しいっていうのは」
そう言って優し気な瞳で見つめてくるアスカ。
「あの時も私を守ってくれたものね」
ただ、とアスカは一気に瞳の奥に冷たい炎を宿し、真剣な表情を作り直した。
「貴方は少し甘い。私が行くことを認めたのもあるけど、優しさが過ぎる時がある」
「それは」
「攻めてるわけじゃないわ。勇者にとって、強さ、優しさは必須だもの、だけど」
アスカは俺の頬を両手でつかむと、
ちゅ
俺とアスカの唇が重なり合った。
「ぷは」
優しい口づけだったが、とても長い口づけだった。
「健一は私の契約者で勇者なんだから、そこのところしっかり理解してよね」
そっぽを向きながら言うアスカの顔は、川崎に負けず劣らずな緋色に染まっていた。
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今話で第二章は終わりとなりますが、第三章の方を夕方あたりに投稿いたしますので、今後ともこの作品をよろしくお願いいたします。




