第三十四話
本日、二度目の更新です
「それは、何か根拠があるのか?」
確率を操作する。
そんなの現実に存在すること自体疑わしい。
「根拠、私の経験であればですが、あります。元々、涼葉お嬢様の周りでは不思議なことがよく起こっていました。なくなったモノをお嬢様が探せば見つかり、お嬢様が僅かに遅れたことで交通事故に遭わなかったこともあります」
それはまた、偶然とは思えないような出来事だな。
この状況で嘘を吐く意味もないので、恐らく本当だろう。
「旦那様、つまり涼葉お嬢様の御父上が異能に対する懸念を示し、ある能力者にお嬢様を見せたのです」
「見せた?」
「はい、その方は、見た対象がどんな異能力を持っているのかを知ることができる能力を持っていました。そして、その方によれば、涼葉お嬢様の異能力は確率操作で間違いないそうなのです」
その能力者がどのくらい信におけるかは分からないが、そういった人間は重宝されているだろうと、推測できるため、ある程度は信じれる。
もしもこの能力者が嘘ついた場合、それが露呈すれば潮が引くように信頼はなくなり、周りからは見限られるだろうからな。
(あとは、八雲の話を信じるかだが)
こいつこそ、俺に嘘を吐くメリットがない。
川崎を俺とくっつけることに何のメリットもないのだから、当然である。
「川崎が確率操作を持っていることは分かったが、なぜそれが俺を結婚相手に推す理由になるんだ?」
彼女がそういった能力を持っているならば、むしろ家で管理した方がいいだろうに。
「先程、確率を操作できると言いましたが、それは涼葉お嬢様の任意ではないのです」
「は?」
マジか。
任意でできるのもそれなりに問題だが。
(任意で使えないということは、いつ暴走するか分からな・・・)
「おい、俺に川崎を殺せってか」
自分でも驚くほどに低い声が出る。
コイツは俺に川崎を殺させることを想定して、結婚をさせようとしているのだ。
(今なら八雲も殺せるだろうな)
たぶん、俺も死ぬが。
「そうならないのが、理想です」
八雲は俺の圧力に、汗を首に伝わせながら、話し続ける。
「涼葉お嬢様の異能が大きく乱れた時が一度あります」
「それはどんな時だ」
「昔に彼女の実の母親が亡くなった時です。あの時は家中の物がなぜか間違って捨てられる程度で済みましたが、今大きく乱れてしまえば、どうなるかは分かりません」
「じゃあ、俺はどうすればいい。何か手はあるんだろ」
俺は川崎を殺すつもりは毛頭ない。
だが、それを未然に防げるのならば、できることはするつもりだった。
「涼葉お嬢様を幸せにしてください」
八雲が今までで一番真剣な表情で言った。
「お嬢様の能力は幸せであればあるほどにバランスを保ちます。欲などに左右はされますが、少なくとも、暴走することはありません」
「川崎が幸せであればいいだな?」
「はい」
なんだ。
それなら、もう達成しているな。
「じゃあ、大丈夫だ。今、あいつはやりたいことをやっている」
「やりたいことをやっている?」
きょとんとした八雲。
どうやら、こいつも川崎が探索者になりたがっていたことは知らなかったらしい。
「あいつ、探索者になりたがってたんだよ」
「それは貴方がやっているからでは?」
「違う。あいつを決心させたのは俺みたいだが、あいつ自身が前からやりたがってたんだ」
「それは、また」
驚きを表情に出す八雲。
「少なくとも今は、恋人を作ったり結婚なんてしなくても、川崎は幸せだと思うぞ」
ダンジョンではすごく楽しそうだった。
川崎と行ったダンジョン探索の話をすると、朗らかに笑う八雲。
それは張り付けたような笑みではなく、孫を想う祖父のようであった。
「そうですか・・・。分かりました。それならば、私も無理して進めるつもりはありません。私の方から、旦那様に涼葉お嬢様と澄原様の結婚を前提としたお付き合いは、なしと伝えておきましょう」
(ふう、良かった)
俺は内心、喜びの声を上げる。
川崎自体に不満はないが、これから探索者として成り上がっていこうというのに、結婚などしてられないからだ。
そうして問題が解決したことに安堵した俺だったのだが。
「ですが、条件として、涼葉お嬢様と共にダンジョンの探索することを約束してください」
「えぇ?」
八雲がとんでもない爆弾を残してきた。
ただでさえ、俺と川崎が一緒に居るのを見ているとアスカが苛ついているのに、これからは常に一緒に居るなんて言ったら、どんな反応をするか。
「当然でしょう。貴方には鬼切も託しています。これからもお嬢様の命を狙う不届き者をバッサリと斬り捨ててください」
「いや、バッサリは流石に」
「では、私はこれから別の仕事がありますので」
「御免」八雲は去り際にそう言うと、本当に人間なのかと疑いたくなるような速さで道場を後にした。
「八雲、あいつ、これを狙ってやがったな」
端から恋人同士の関係にさせることというよりも、俺を川崎の傍に居させるのが目的だったのだろう。
でなければ、あんな直ぐに引き下がるものか。
俺は八雲に上手く誘導されたことを認識し、ぐったりと肩を落とした。
(まあ、とりあえずはいいか)
結婚自体は回避できたし。
俺は無事結婚という窮地を凌げたことで得た、束の間?の安堵を噛み締めるのであった。
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