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第三十三話

 

「それで、他にも俺を選んだ理由があるんじゃないのか」


「他にもとは?」


 惚けた感じに言葉を返してくる八雲。


 その白々しい態度に、俺は呆れた視線を投げかけた。


「良い所のお嬢様が、本人が好きであるかどうかだけで結婚相手を選ぶわけないだろ」


 普通に考えて、資産家の娘が本人の好き嫌いで結婚相手を選べない。


「もしかしたら、そんな物好きな家庭があるやもしれませんぞ?」


 あるわけがない。


 もしも、変な考えを持った男を婿にしてしまうと、娘を利用して家を乗っ取られる可能性がある。


 ちゃらんぽらんな男を選んでしまえば、家の名に傷が付いたり、財産を使い込まれてしまうこともあるだろう。


 第一、想いなんてものは移り変わるものだし、一時的に好いていても、時間が経てばそこまで好きでなくなるなんてことは当たり前だ。


 資産家である父親が本当に娘の幸せを願うならば、キッチリとした男を、しっかりと審査して選ばなければならない。


 そもそもだ、あれだけたくさんの使用人や警備員、八雲のような傑物を抱えている人間が、娘が好いているという理由だけで結婚を進めるなんて、そんな甘い思考をしている筈もない。


「そうですね。確かに、好いているという理由だけではありません。貴方の強さも私共は評価しているのです」


「そうかもしれないが、俺はその強さを求める理由を聞いていない」


 俺は追撃の手を止める気はない。


 向こうも冗談で結婚はどうかと、言ってきているわけではないのだ。


 俺を選ぶのには、しっかりとした理由がある。


 川崎家というのは少しは知る羽目になった俺は、確信していた。


「川崎家が純粋に強き者を求める家系だとしたら?」


「脇差まで渡してきて、それはないだろう」


 渡してきた鬼切という脇差、これはその理由に関わっている。


 勿論、非礼を詫びる気持ちは本当なのだろう。


 だが、ここまでの流れは予定調和であり、鬼切は上手くいったため、渡された代物に過ぎない。


 でなければ、いちいちこんな代物を渡すのではなく、金一封を渡すだけで問題なかったはずだ。


「いやはや、バレないと思っていたのですが」


 ホント、白々しい爺だ。


「あんな風に十番勝負なんてさせられなければ、思わなかったかもしれないな」


 無駄に勿体ぶられた意趣返しに、少し嫌味を言ってやる。


「おやおや、人が悪い。先ほどの件は水に流してくださったのでは」


(チッ、面倒くさい男だ)


 流石は川崎家の老執事。


 口ではまず、勝たせてくれないようだ。


「そうだったな。じゃあ、さっさと残りの理由を教えろ」


 二人の視線が交錯する。


一分ほど睨み合った後、八雲は俺から視線を切ると、やれやれとしたジェスチャーをして、口を開いた。


「お嬢様が何らかの異能を持っていることには気づいていますか?」


 念のためといった風に、聞いてくる。


 こちらが既にある程度の予測を立てているのは、分かっているようだ。


「ああ、運を良くするとかそんな感じの奴だろ」


 前にダンジョンを探索した時に、川崎がレアアイテムを手に入れたことを思い出す。


 パラライズスライムを一撃で倒し、初めての狩りでレアアイテムを手に入れたのだ。


 アレはひと月に、二、三個程度手に入ればいい代物で、まず手に入らない。


(運を上げる異能力があればそういった物も容易く手に入るはずだ)


 俺をそう当たりをつけていたのだが、八雲は首を横に振った。


「惜しいですが、残念ながら違います」


「惜しい?じゃあ、どんな能力なんだ?」


 運を上げる以外に、確率を変化させるなんて、そんな。


「あ」


 そうか。


 彼女の能力は運を上げるのではなく。


「分かりましたか。運を上げる()()の異能であれば、どれほど良かったことか・・・。涼葉お嬢様の所持する異能、それは確率操作。お嬢様はありとあらゆる確率を弄ることができるのです」


 俺は目を見開く。


 川崎の異能は俺の想像の斜め上を行く、非常に恐ろしい能力だった。






読んでいただき、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] この場合、斜め上ではなく普通に"上"なのでは
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