第二十七話
「警察から何かを聞いたとかではないのか?」
精々、先に川崎へと情報が行っているの程度だと思ったんだが。
「違います。どんなイメージをしてたんですか」
「いや、俺なんかは自衛できるからいいけど、川崎は綺麗だし、狙われやすいから、警察から何かしらの情報を教えてもらっているのかと」
もしかして、凄い見当違いなこと考えてたのか。
「容姿を褒めていただくのは嬉しいですが、違います」
小さな声で言う川崎をよく見ると、その顔が薄くだが赤く染まっていた。
「実は、この前の件を実家に話したんです」
「実家に、それで今回みたいなことになったと」
(ほうほう、そうか・・・いや、え?)
それって、実家がとてつもない権力を持ってるってことか?
川崎に聞くと、曇りない瞳を見せながら首肯した。
「はい、私の実家は資産家で、親族は会社の役員、探索者協会の重役とかをやっています」
「マジで?」
「マジです」
いつになく真剣な表情で言う川崎に、それ以上否定する気力はなくなり、俺は椅子に体重を預ける。
すると、そのタイミングで料理が運ばれてきた。
ウエイトレスがホカホカの料理をテーブルに置いて、去っていく。
(目には目を、歯には歯をって言葉があるが)
権力にはより大きな権力をってか。
(怖すぎんだろ)
今までのうのうと生きてた犯罪者が捕まって、父親も今の立場から引き綴り降ろされたわけだろ。
それもたった数日で。
俺なんて一瞬で存在ごと、消されちゃうじゃん。
「おう、分かった、よ~く分かったぞ。理解したし、この話は終わりだな。いや~良かったなぁ、問題が解決して、さて、熱いうちに料理を食べよう。うん」
俺は目の前にある料理を食べようと、フォークを手に取る。
これ以上は深入りしたらダメな奴だ。
まだ、川崎のことは知らないことが多く、この段階であれば、何かヤバいことに触れずに済む。
そんな直感が猛烈に働き、俺は話を切ろうとしていた。
だが、
「それで、実はですね」
出来立ての料理には目もくれず、もじもじと人差し指を合わせ始める川崎。
普段であれば破壊力満点なのだが、今の俺は背筋が凍り付きそうだった。
「な、なんだ?」
「実は、あの時の澄原さんの話をしたら、父がぜひ会いたいと言い出しまして」
・・・。
なんだそれは。絶対にその話、誇張が混じってただろ。
(じゃないと、俺なんかが呼ばれないだろ)
あの時は確かに大立ち回りはしたけど、ほとんど雑魚だったしな。
川崎を見ると、あの時のことを思い出しているのか、頬を薄く染めつつ少しボーっとしている。
(あ、これは誇張してるわ)
確かにアレは守られる側から見れば、カッコよく見えたかもしれないが、やってるの三十五歳の会社員(本業)だぞ。
普通だったら、まず靡かん。
「いや、流石にそれは実家の方にも迷惑になるというか」
俺はできる限り、川崎の実家には行かない方向に誘導しようとする。
しかし、そこに川崎が待ったをかけた。
「全然迷惑じゃないですよ!」
先程までボーっとしていたのがウソのように、凄まじい気迫を見せながら、いつになく大きな声で川崎は言葉を発した。
そして、そのいつにない大きな声で、周囲の視線が一気にこちらに向けられる。
「あ」
注目を浴びることに馴れてないのか、川崎は再び顔を赤くする。
「ごほん・・・申し出は嬉しいんだが、いきなり家に行くというのはこちらも了承できない」
俺の言葉にシュンとする川崎。
(川崎には悪いが、この件は断らせてもらう)
川崎の実家になんて行ったら、絶対厄介ごとがあるだろ。
ただでさえ、魔人と殺り合ったりしないといけないのに、それは荷が重い。
俺は内心、ホッと息を吐く。
俺としてはこれで話は終わったかに思い、安堵していたのだが、次の瞬間、川崎はとんでもないことを言い始めた。
「そうですか、父は絶対来るようにと言っていたのですが」
(絶対にだと)
それって、こっちに選択肢がないやつじゃないか。
冷や汗がダラダラ出てくる。
俺は必死に精神を落ち着けると、できる限り笑顔を作って、川崎に訂正を入れることにした。
「ああ、すまん。実はちょっと気が変わって、川崎の実家に行きたくなってきたわ」
ここで、言っておかないと不味いことになる。
俺はその一心で、内心血の涙を流しながら必死に言葉を発した。
「ホントですか!」
川崎が目をキラキラとさせながら言う。
その瞳には、俺の引きつった笑いが浮かんでいるのだが、川崎はそれに気付いていないようだ。
(うん・・・何とかなるだろう。いや、何とかなるはずだ)
家に帰ったら、とりあえずアスカに相談しよう。
そう決めた俺は乾ききった喉を水で潤し、冷めつつあった料理を口に運ぶのであった。
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