第二話
気怠い感覚をかつての気持ちと稼ぎたいという欲で騙しながら、マンションを降りて駅へと向かう。
夕方になりつつある空はオレンジに染まっており、学生時代の練習後に見た夕日を思い出した。
駅に着くと直ぐに改札口へと向かう。
銀行口座と紐付けられた探索者を証明するカードで支払いを済ませ、ゆったりとした足取りでホームへと向かう。
周りには自分と同様に武器や防具類を身に着けた物々しい恰好の人たちが電車を待っていた。
今回探索を行う東京・第三十八ダンジョンは五駅ほど先にあるかなり近めのダンジョンの一つで、俺がよく使う狩場の一つである。
それなりに稼ぎ方も熟知しているし、何より慣れているので死ぬリスクが小さい。
『生きていれば次がある』
昔、探索者を養成する学校で武術の指導をしていた教師がよく言っていた言葉だった。
(それなりに人もいるよな)
駅に電車が到着すると、車両に乗り込み直ぐに席へと座った。
辺りを見回すと、自分と同じような武器防具を装備した探索者しか見かけることができない。
というのも、俺が乗っているのは探索者専用車両と呼ばれる、探索者のみが乗れる車両だからだ。
これは一般市民に配慮されてできたもので、一般市民からしてみれば槍やら剣やら銃やらを装備した人間は脅威であるし、恐怖の対象になる。
そういった人たちに安心感を与えるために鉄道会社が配慮した結果が探索者専用車両である。
現在では法律上も探索者がこの車両に乗ることを義務付けており、探索者として装備をしている場合は、探索者専用車両以外に乗ると罰金が科せられる。
正直、こういった配慮は俺としてはありがたい。
これから命を懸けて戦わなければいけない以上、変なモノが出てしまう。
この車両にもそういった雰囲気を出している者も多いし、こんなのを子どもなんかに見せてしまえば、十中八九怖がらせてしまうだろう。
俺はそんなことを考えながら、本を開く。
こういった暇な時間は読書で時間を潰すに限る。
(んっ、そろそろか?)
ふと車内を見てみると、次が目的の駅のようだ。
俺はキリの良いところまで本を読み進めていたが、興が乗って更に読み進めてしまい、いい場面で駅に着いてしまった。
俺は慌てて本を直すと、なんとか車両からを降りることに成功する。
(集中しすぎているとこういうことがあるんだよな)
ほっと息を吐きながら安堵すると、軽く体をほぐして駅を出ていく。
目的地まで、あと少しだ。
そう認識した時、これからの戦いを想像したのか、身体は微かな強張りを感じていた。
♦♢♦♢♦
歩いて十二、三分ほどすると周囲の人は探索者と思われる装備に身を包んだ人ばかりになった。
東京・第三十八ダンジョンは格別人気があるわけでもないが、人が少ない情報は簡単に入手できるので、それを狙った層がある程度にいるためか、俺と同じようにビギナーもしくは中堅どころな装備をした者が多い気がする。
(人数が多くてもあまり関係ないけどな)
本来、同じような価格帯の装備をした探索者が多い場合は稼ぎが減退する場合が多い。
それは狩場が被ってしまうからなのだが、俺にとってはあまり関係がないというか、むしろ良かった。
俺が狙っている狩場はこのダンジョンの第三階層。
比較的旨味がない階層として知られており、こういった人数で判断している探索者の多くは情報を信用して第三階層には来ないか、来てもスルーする。
(おかげで俺は楽に稼げるんだけどな)
周りにいる同業者を避けながら進んでいくと、ダンジョンの入り口の前にある受付に到着した。
「はい、カード」
受付にいるどこにでもいそうな普通のおじさんに探索者であることを証明するカードを渡す。
探索者カードとも探索者プレートとも呼ばれるもので、改札で料金を支払ったものと同じカードだ。
おじさんは慣れた手つきで認証を行っており、その後ろにはゴツイ体格の警備兵が鋭く目を光らせながら俺のことを見ていた。
(相変わらずおっかねぇな)
ダンジョンの前には武器を携帯した兵が常駐しているのが当たり前で、荒事や不審な人物がいないか常に見張っている。
彼らは対人戦闘にも精通したいわばプロのようなもので、それなりに腕っぷしに自信のある探索者であっても勝つのは難しい。
「Dランク探索者、澄原健一だな。入ってよし」
照合を終えたのか、受付のおじさんはカードを返すと直ぐにこちらから目を離した。
カードを受け取った俺はそのままダンジョンである扉の元へと向かう。
「潜るとしますか」
ダンジョン内に行く方法はいたって簡単である。
行きたい階層を唱えて扉を開くだけだ。
ちなみにこれは行ったことのある階層のみなので、初攻略をするダンジョンには第一階層からしか潜ることはできない。
探索を行った階層しか自由に行くことはできないのである。
だが、一度探索してしまえばいつでも行けるというのは、かなり楽だ。
「第三階層へ」
俺は目的の階層である第三階層を告げ、扉を開く。
すると、扉の先には薄気味悪い洞窟が広がっており、所々にある灯火が光源となって中を照らしていた。
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