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第二十六話 

 


 ダンジョンを出た俺たちはダンジョンの待合にいた職員と警察に事情を説明し終えると、直ぐに帰宅する運びとなった。


 また襲ってくる可能性があったので、家まで送ろうかと川崎に言ったのだが。


 彼女は顔をゆでだこのように真っ赤にして『ちょっと家は・・・恥ずかしいです』と、消え入りそうな声で言ったので流石に止めている。


 それから特に何事もなく数日が経ち、俺とアスカが朝食を取っている時、とんでもないことが起きていた。


『私の息子が皆様にご迷惑をかけたこと、深くお詫び申し上げます』


 テレビをつけてみると、とある探索者の男が謝罪をしているのだが、これは件の探索者の父親である


 この男はテレビの露出も多く、近々選挙に出馬するのではないかと噂されていたAランク探索者であり、世間の好感度も高い男だった。


 どうせ有耶無耶になるだろうと勝手に思っていたのだが、息子の一人(茶髪男のこと)がダンジョン内で暴行、ゆすり、脅迫、殺人未遂などをしていることが判明し捕まった件で、テレビに映っている父親も謝罪するに至ったのだという。


「これって、前に襲ってきた奴の父親よね」


 テレビには探索者の男が何度も深々とお辞儀するのが映っている。


「そうだな、たぶん」


 俺が幻覚を見ているのでなければ、コイツは確かに前に襲ってきた茶髪男の父親だ。


「有名な奴じゃなかったの?」


「だと思うんだけどな」


 抜き取った探索者カードの苗字とは一致しているところから見て、間違いはない。


(どうしてこうなったんだか)


 警察がこちらに深い事情を聞きに来ていない点も踏まえて、今後脅威に晒されることのない俺にとってはメリットしかない。


(だけど、凄いきな臭いんだよな)


 メリットしかなさ過ぎて、逆に怪しいのである。


 精々報復がなければいいと俺は思っていたのだが、まさかの結果であった。


「良かったじゃない。これで悪い奴が一人減ったわね」


 アスカが能天気に言う。


 彼女としては面倒な奴が消えてラッキー程度の心境だろう。


 魔人と戦う精霊であるため、アスカの肝は意外と太い。


「そうなんだけどな」


 実は父親であった探索者の男も様々な黒い噂があったらしく、コメンテーターや評論家が盛んに議論を交わしている。


「ほら、朝食を食べるわよ。味噌汁が冷めちゃう」


 美味しいのか、無言で朝食を口に運び始めたアスカ。


 パクパクと美味しそうに食べる様を見て、俺も食欲を刺激される。


「ああ」


 俺は皿の上に乗っていた卵焼きを箸で挟むと、口の中に放り込んだ。


 今日の朝食は、ご飯、味噌汁、卵焼きというザ・和食なメニューである。


(美味い・・・てか、今回の件、絶対に裏があるよな)


 どうして今までは捕まることがなかった奴が、ここまで簡単に捕まってしまったのか。


 ご飯をかき込みながら、唸る。


(分かるわけないか)


 別に芸能界や政界、財界の事情に明るいわけでもない。


 そんな事情に明るい人たちですら、必死に議論を交わしているのだ。


 俺ではどう考えても、答えが出そうになかった。


(とりあえず、川崎にも聞いてみるか)


 今回の件で関わっている一人だ。


 もしかしたら、警察から何か聞いていることがあるかもしれない。


(ないとは思うが)


 俺はそんなことを考えながら、少し冷めてしまった味噌汁を飲み干し、のであった。



 ♦♢♦♢♦



「澄原さん、少しお話が」


 川崎にそう声を掛けられたのは、昼休憩の時間になり、俺がいつも通り牛丼でも食べようと会社を出た時であった。


「ああ、俺も話したいことがあったんだ」


 俺が直ぐに承諾すると、二人で前に食事をしたイタリアンへと向かう。


 道中では互いに無言で、俺たちの間では妙な緊張感が生まれていた。


「今朝のニュース見ましたか」


 イタリアンに入り、注文を決めた後、川崎の方から切り出してきた。


「ああ、見たよ。正直、驚いた」


 俺は肩を竦めながら言う。


 捕まらないだろうと思っていた奴があっさりと捕まり、父親もつるし上げられたのだ。


 驚かない筈がない。


 俺の言葉を聞くと、川崎は口を何度もごもごもと動かし開くことをためらっていたが、ようやく決心がついたのか、一度深呼吸をしてからこちらを真っ直ぐと見ると口を開いた。


「その件、実は私が関係あるかもしれないんです」


「へ?」


 俺は川崎から告げられた思わぬ一言に、素っ頓狂な声を上げるのであった。




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