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第二十五話

 

 俺はリーダーと思われる茶髪男と、鞘を腹に叩きつけた男から探索者カードを抜き取る。


 これが襲われた際の証明になるからだ。


「とりあえず、逃げるぞ」


 俺は川崎の手を取ると、ダンジョンの通路を一気に走っていく。


「わっわかりました」


 川崎は俺の手をぎゅっと握り返し、必死の形相で俺の速さについてくる。


「こいつらが復活したら面倒だ。早めに戻って、事情を説明する必要がある」


 走りながら、後ろにいる川崎へと伝える。


 銃や他の武器も壊しているし、無力化できている状況的にも先に逃げた方がいいからだ。


 恐らくないとは思うが、他に武器を持っていないとも限らない。


 あの場にいるメリットは一つもないのである。


「で、でも、やっぱり手はその・・・」


 顔を真っ赤にした川崎が何か言っているのか、ごもごもと口を動かしているが良く聞こえない。


『ラブコメしてるわねぇ』


 そんなことを言いながら、アスカは俺よりも速く前を走り抜けていく。


 残念ながら、俺の身体能力に比べ、精霊であるアスカの身体能力の方が数段高い。


 俺のレベルが低いということもあるが、精霊の身体能力が高すぎるのだ。


 封印が解けた当初はそこまでの印象だったが、ある程度時間が経ち、本調子になったアスカはかなり優秀である。


『健一、モンスターが来てるわ』


『了解』


 視界にオレンジ色の羽の鳩、熱鳩が映る。


「ポ!」


「邪魔だ!」


 熱鳩がこちらに襲いかかかってきたが、一刀の元切り伏せ、第二階層を駆け抜ける。


 そうして第二階層の安全地帯を抜け、第一階層を走っている最中だったのだが。


「おいっ何だアンタら!」


 ここはまだダンジョン内であるため、当然のことながら探索者がモンスターを狩るためにうろついている。


 そんな場所を走っているため、途中でぶつかりそうになった探索者から文句を言われた。


「すまん!茶髪に襲われたんだ!アンタらも気を付けてくれ!」


 後ろを振り返ることなく、叫ぶようにして伝えた。


 同業者にはこの程度で通じる。


 モンスターではなく探索者に襲われるというのはあまりない機会だが、全くない聞かない話というわけでもない。


 自身の職業が血の気が多い野郎ばかりの職種だというのは、よく分かっているからだ。


「分かった!アンタらも気を付けろよ!」


 打って変わってエールを送ってきた探索者に振り返る暇もなく、第一階層の安全地帯に戻っていく。


『安全地帯ね』


「おい、どうしたんだ、アンタら」


 様子がおかしい俺たちに、安全地帯を歩いていた探索者の一人が声を掛けてくる。


 他の探索者も気になるのか周囲の探索者の多くが、こちらに視線を向けていた。


「茶髪の男に襲われたんだ」


 俺の言葉に他の探索者のほとんどがギョッとした表情を作る。


「もしかしてそいつ、拳銃を持ってなかったか?」


「ああ、そうだが・・・知っているのか」


 初めに声を掛けてきた探索者、髭を生やした俺と同じくらいの年の男が深刻そうな表情で頷く。


「アイツはかなり有名な探索者の息子の一人でな」


 探索者の男は苦々しい表情で言う。


「それでダンジョンでも自分勝手に色々していると」


「そうだ。無理やりアイテムを横取りしたり、見た目のいい女性を見つけたら強引に声を掛けたり、被害に遭ってるやつは割と多い」


「どうして、そんな奴が野放しなんだ?」


 それが普通に疑問だ。


 そこまで大胆に、色々しでかしていれば、捕まってもおかしくないんだが。


「ギリギリのところを見極めてるんだよ。無理やりアイテムを奪うって言っても、こちらが狙ってた獲物を横取りする形でだし、女性にもかなりしつこく声はかけるが、無理やり襲ったりはしない」


「だが、こっちは襲われたぞ」


「そうです!」


 川崎が同意するように言う。


 探索者の男はちらりと川崎に視線を向け、口を開いた。


「たぶんアンタらが鼻についたんだろう」


 合点がいった。


 確かに、容姿が普通の三十五歳の男が社内でも美人と噂される二十代の女性と一緒に居れば、なんとなくムカつくのも頷ける。


「だいたい、事情は分かったが」


「一応、警察に話は持っていった方がいいわな。捕まるかどうかは知らんが」


 そう言って探索者の男は、ため息を吐き肩を竦めた。


 彼自身もそんな横暴は許したくはないが、どうすることもできないのだろう。


 諦観の念が伝わってくる。


「そんな」


 声を漏らしたのは川崎だ。


 襲われたのはこちらなのに、それが有耶無耶にされるのは納得がいかないのだろう。


(俺も納得はいかないがな)


 たぶんどうすることもできないだろう。


「無事だったんだ。今はそれを喜ぼう」


「そういうことだ。当分はこのダンジョンを使うなよ。アイツの縄張りはこのダンジョンだけだ。他のダンジョンで探索していれば、まず出くわすことはない」


 探索者の男はそれだけ言うと、去っていく。


 他の探索者たちも次々とダンジョンの奥へと進んでいった。


「行くか」


「はい」


 俺たちは心に微妙なものを残しつつも、無事にダンジョンの外へと出ることに成功するのであった。





読んでいただき、ありがとうございます。

少々胸糞の悪い内容となっておりますが、茶髪たちはちゃんと制裁を受けるので、ご安心ください。


とうとう、この作品も総合評価1000ptを突破し、日間ジャンル別ランキングで10位という栄誉をいただきました。

皆様がこの作品を読んで下さっているおかげで、ここまで来ることができました。

改めてお礼申し上げます。

これからも、この作品をよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 別に慌てて逃げる必要などなく、索敵はアスカがいるし、なんかあってもアスカでどうにでも対処出来ると思うけどなぁ。 アスカは一般人には見えないし声も聞こえないが念話で連携可能。しかもアスカ…
[一言] 二度と襲うことができないように親指でも切り落としていたらよかったね。
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