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第二十四話

 


 俺は川崎を庇うようにして前に出る。


『健一、こいつら』


 アスカが警戒した面持ちで、こちらに寄ってきた。


『ああ、戦う気満々だな』


 見せびらかすようにしてハンドガンを手にした男がこちらに近づいてくる。


 茶髪に染めたゆるい顔の男で、探索者にしては珍しく服は着崩した状態だ。


 ヘラヘラと笑っているが、いつでもこちらを撃てるような態勢でハンドガンを握っている。


「止まれ」


 俺は殺気を滲ませつつ言う。


 ハンドガンを持った茶髪男は一瞬鋭い目をしたが、残りの三人はびくりと体を震わせるだけだ。


「いや~でも、そちらが狙ってた獲物を「ダンジョン内でかかわりのない探索者同士の接触は推奨されていない筈だ」」


 俺が平坦な声でそう言うと、苛ついた表情でこちらを見る茶髪男。


(こちらに寄らせるわけがないだろう)


「ですが、獲物の取り分とかがありますし」


「その熱鳩(ねつばと)はアンタらにやる。だから、それ以上近づくな」


 出来る限りの警告はする。


 ダンジョン内での探索者同士のいざこざはご法度。


 お互いに武器を持っているし、喧嘩が殺し合いに発展することも多いからだ。


 もしも起きた場合は状況に応じて処罰が課せられる。


「チッ、意外と骨があるじゃないねえか、おっさん」


 そう言って銃口を俺に向けてくる茶髪男。


 残りの三人もじりじりと間合いを詰めてきていた。


(ひとまず、俺の方に意識を向けられたな)


 もしも、川崎を怪我させたら一大事だ。


 万が一にでも死なせてしまったら、悔やんでも悔やみきれない。


「川崎、俺の後ろに居ろよ」


『アスカ、川崎のことを頼む』


 俺はアスカに念話を送る。


 アスカがいてくれて本当に良かった。


 不測の事態にこうやって対処ができる。


『了解、健一も気を付けてね』


 アスカの心配そうな声色で言うが、その中に恐れはない。


『ああ』


 俺は刀にそっと触れ、鯉口を切った。


「死ね」


 破裂音と共に弾丸が射出される。


(狙いは右肩か)


 どうやら、殺すつもりはないらしい。


(まあ、知っていたが)


 キン。


 刀が鞘から弾けるように出ると、弾丸を真っ二つにした。


「ひえっ!」「なっ!?」


 川崎の怯えた声と、発砲した男の驚いた声が響く。


「お前ら、覚悟はできてるな」


 俺は全力で茶髪男へと間合いを詰め、一閃。


 茶髪男はハンドガンで撃った際の反動が大きかったのか、腕が大きく跳ね上がっており、俺の動きに対する反応が遅れていた。


「は?」


 カキンと、金属が断ち切られる音が響く。


 俺が放った電光石火の一撃は、容易くハンドガンの銃口を叩き割っていた。


「お前ら、やれぇ!」


 銃口を斬り落とされた茶髪男はバックステップで離脱する。


 三人の持つ武器は槍、鉈、ナイフ。


 彼らはそれぞれ自身の武器を手に、俺に向かって襲いかかってくる。


(大したことないな)


 三人の体つきは普通で、全員の練度は下の上。


 要するに、雑魚だと判断できる。


 最初に襲い掛かってきた男の持っていた槍を真っ二つにし、続いて二人目の男が持っていた鉈を叩き折る。


「はっ!」


 流れるような動作で、ナイフを持っていた男に、刀ではなく鞘を腹へとめり込ませた。


「ぐぺっ」


 蛙が潰れたような声を出しながら、腹に重い一撃を貰った男が白目をむいて失神する。


 残る二人もへたり込むようにして地面に座り込んでしまった。


「なっ、お前ら!」


 俺に発砲してきた茶髪男が拳で襲い掛かってくる。


 なかなか堂に()っており、かなり習練された格闘技経験者であることが窺えた。


(だからと言って、負ける要素はないんだが)


 刀を振るい、その茶色く染まった前髪を斬る。


 斬られた数本の前髪がはらりと、地面に落ちた。


「諦めたらどうだ」


「黙れっ!」


 俺はそう声を掛けたのが、茶髪男は聞く耳を持たず、重心の乗った前蹴りを放ってきた。


「澄原さん!」


 川崎が声を張り上げるが、俺にそんなもの当たらない。


 鞘を使って蹴りをいなすと、刀の柄、その頭の部分で茶髪男の鳩尾を突く。


「ぐえぇえ、うおぉおっえぇ」


 綺麗に鳩尾に入ったのか、茶髪男は地面を転げまわるようにして悶絶していた。


 その姿を見て既に戦いは終わったと判断した俺は、一滴も血で汚すことのなかった刀を鞘にしまう。


『いや~やっぱり強いわね、健一は』


 アスカは呑気な表情で、そう宣うのであった。





読んでいただき、ありがとうございます。

皆様のおかげで、総合評価1000ptに届きそうです。

更に昨日(2021/09/03)、一日におけるアクセス数が1万を超えました。

作者としては、このように読者の皆様に読んでもらえて、とても嬉しいと思っております。

この場を借りて、改めてお礼申し上げます。

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