第二十話
会社での仕事やダンジョンでモンスターを狩りつつ、時折豪華な料理を食べたりする毎日を過ごしているとあっという間に一週間が過ぎていく。
(こんな楽しい平日は久しぶりだな)
そして、川崎と探索の約束をしていた週末がやってきた。
「ふう」
(緊張するな)
こういった形で人と会うのも何年ぶりだろうか。
やる気を喪失してからというもの、人との関係は細り一人でいる時間が圧倒的に多くなった。
昔は知り合いと仕合いや技の検証で軽く打ち合ったりなどをやっていたのだが。
(アレ、戦ってばかりで遊んでなくね?)
そんな悲しい過去も思い出しつつ、東京・第二十三ダンジョンの前にある広場で待っていると、川崎が姿を見せる。
「おはようございます、澄原さん」
「おはよう、川崎さん。その恰好、よく似合ってるんじゃないか」
迷彩柄の長袖の服にカーキ色のズボンに、右手には簡素な装いの短槍が握られている。
標準的な探索者用の服装を着ている川崎であったが、元々顔立ちやプロポーションがいいのか、そういった服装もよく似合っていた。
「そ、そうですか?」
川崎が照れながら言う。
何度も触って眼鏡の位置を直しており、これは彼女が照れた時の癖らしかった。
「ああ、立派な探索者って感じだよ」
当たり障りのない言葉でごまかすように言う。
この状況で、容姿を褒めること自体はそこまで悪くはないことではないとは思うのだが、それには理由があった。
『じー』
その理由となっている方へと、視線を向ける。
視線の先にいるのは、川崎と話し始めてからじーっと俺のことを見つめてくるアスカであった。
アスカは今回の探索のサポートとして家を出てから、ずっとついてきており、川崎が来たときは彼女に睨みを効かせていた。
だが、俺が川崎のことを褒め始めると、今度は俺に向かって睨みを効かせ始めている。
「そうですか」
少しシュンとした表情をする川崎。
妙な悲壮感を纏っている姿につい、声を掛けたくなるが。
『いいわよ。別に、その女に甘ーい言葉でも囁いたら?』
『いい年したやつがこんな場所で、そんなこと言うわけねぇだろ』
こんな風にアスカが一々突っかかってくるので、あまり川崎のことを褒めるようなことを言えなかった。
「今日は第一階層を見て、その後行けそうだったら第二階層にもチャレンジしてみようと思うんだけど、それでいいか」
「はいっ」
川崎はグッと握りこぶしを作りながら、気合いの入った返事をしてくる。
「やる気があって何よりだ」
これぐらい意気込みがあるなら、探索はそこまで問題ないかもしれない。
『どうかしらね~』
アスカがそんなことを伝えてくるが、無視して川崎と共にダンジョンへと向かう。
「そっちのアンタはDランク、嬢ちゃんはFランクか。初めてだろうが頑張りな」
受付のおっちゃんから川崎にエールが送られる。
その様子にほんわかしていた俺であったが。
(何で俺を睨むんだよ)
近くにいた警備員はなぜか俺を睨みつけていた。
それが女性といる嫉妬ならば分かるのだが、そういったものではなく危険な人物を警戒するそんな視線だった。
俺はそそくさとカードを受け取ると、そのままダンジョンへの入り口である扉へと向かう。
「ありがとうございます!」
川崎はカードを受け取ると、律儀にお辞儀をしてからこちらに向かってきた。
「じゃあ、行くか」
「はいっ!」
『れっつ、ご~』
「いざ、第一階層へ」
川崎の元気な返事とアスカの気の抜けた声を聞きながら、俺は扉を開ける。
こうして俺たちは、東京・第二十三ダンジョンへと足を踏み入れるのであった。
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