第十七話
あれから順調に探索を進めていき、第四階層を徘徊するゴブリンを十体ほど倒した。
アスカがゴブリンの居場所を教え、俺が無駄なく倒す。
そうした流れで、スムーズかつ安全にゴブリンを狩ることができた。
(やっぱり、仲間がいると楽だな)
一人での探索となると、どこからモンスターが出てくるのか分からないので、常に気配に気を配らないといけないし、もしも察知が遅れてしまうと怪我をするリスクが高い。
そういったこともあり、一人でばかり探索していた俺は安全志向が必要以上に高まっていたきらいがあったが、こうしてアスカと共に順調な探索ができると、そういった価値観が少しではあるがほぐれていく。
何事もそうなのだが、あまり強く固定観念に縛られると、成長を阻害してしまうことがある。
これから、どんどん上に上がっていく予定の俺にとって、こういった心理的な変化はいい傾向だといえた。
『そろそろ第五階層だな』
ゴブリンを探し回って倒したわけでもないので、そこまで時間がかからずに第五階層への扉を見つけられた。
今日は第五階層まで探索し、今日はダンジョン探索をやめる予定なので、本腰を入れて狩りをする予定の第五階層に早く辿り着けたのは僥倖だった。
『今日帰ったら、何食べる?』
『適当にスーパーで惣菜とかを買おうと思っていたんだが』
『そんなのばっかり食べてたら、身体に悪いでしょ!』
安全地帯をアスカと喋りながら朗らかに進んでいく。
一人で安全地帯を進んでも、何も楽しくないが、こうして誰かと探索していると楽しいし気も楽になる。
『健一さん、いきなりだけど、モンスターよ』
アスカがモンスターの気配を察知し、伝えてくる。
既に俺は刀を抜いており、戦いに備えていた。
『早い!』
アスカが念話越しに叫ぶ。
実際、猛烈なスピードでモンスターが接近しており、俺の視界にもその存在が映った。
(狐か)
第五階層のモンスターは【二尾ノ狐】と呼ばれるモンスターだ。
二尾ノ狐の周囲には赤い炎が一つ、メラメラと燃え盛っており、殺意に濡れた瞳を俺へと向けてくる。
『左よ!』
俊敏な動きで、一気に詰めてくる。
この前戦った魔人とは比べ物にならないぐらいに動きは遅いが、俺はモンスターの動きを読むことはできないので、素の動体視力と感覚に頼らなければならない。
俺が接敵するタイミングで刀を振るうと、二尾ノ狐の首に刀を当てることができたが、その瞬間、宙に浮いていた炎が射出される。
『右に!』
俺はアスカの指令通り、右に避けると、無事炎を回避することに成功する。
勢いがあった炎は地面に当たると、あっさりと霧散し、首を切られた二尾ノ狐も光の粒子となって姿を消した。
『大丈夫!』
アスカが心配そうな表情で、こちらに駆け寄ってくる。
俺は直ぐに左手を上げて、大丈夫であることを伝え、アスカがいるであろう後ろへと振り返った。
『さっきは助かった』
『健一さんが無事なら、それでいい』
薄っすらと涙を浮かべるアスカ。
魔人相手に大立ち回りを演じた俺だが、モンスター相手ではまだまだなのだ。
『ありがとな』
『うん』
俺がアスカの目をしっかりと見つめて言うと、彼女は頬を赤く染めて頷くのであった。
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