第十五話
さて、東京・第二十三ダンジョンの第一階層の安全地帯を抜け、モンスターのいる領域に入ったわけであるが、このダンジョンは前に探索したダンジョンとどう違うのか?と聞かれても、実際のところ、ほとんど違いはないという答えが出てくる。
この世界のダンジョンの難易度は基本的には階層がどれだけ深いか、浅いかに左右されるため、ワシントンにあるダンジョンも、ロンドンにあるダンジョンも、北京にあるダンジョンも、東京にあるダンジョンも、ダンジョンごとの難易度にそこまでの差はない。
ただ、そうは言いつつも、階層別に細かく見ていけば、ダンジョンごとにほんの僅かな難易度の差が生まれている。
この東京・第二十三ダンジョンは、第一階層などの浅い階層の難易度が比較的低いと言われており、初めてダンジョンを探索するような人におすすめのダンジョンとされていた。
『それで、ここを川崎って人と探索するつもりなの?』
当然のことながら、ここに来ているメインの理由は、川崎と探索をするための下見である。
このダンジョンは俺も探索した経験がほとんどなく、川崎とダンジョンに入る以上一度は来ておこうと思っていたのだ。
『ああ、ここは難易度も低いし、第一階層はかなり死ににくいんだよ』
この階層では、モンスターと戦うにもかかわらず、死ににくい、というか怪我自体ほとんどすることがない。
第一階層はどのダンジョンも装備を整えていれば、まず怪我をすることはないが、ここの第一階層はモンスターが初心者でも安心して狩れるほどの強さであり、怪我のこと以外にもモンスターを倒す経験を積みやすいという点でも、初心者向けなのである。
『早速、第一階層のモンスターが来たぞ』
床をはいずるような音が響く。
これは第一階層のモンスターの移動音であり、距離がだいぶ近いことを意味していた。
『これ、スライム?随分と弱そうな個体ね』
黄色い半透明の物体がゆっくりとこちらに接近してくる。
現れたのは、動きの緩慢さから、大した脅威ではないモンスターの筆頭である、スライムであった。
『これは【パラライズスライム】と言ってな、触れるとその触れた部分が痺れてしまうんだ』
パラライズスライムは読んで字のごとく、触れたものを麻痺させるスライムなのだが、自身が触れなければ、麻痺することはないため、ほぼ無害のモンスターとして認識されている。
俺はパラライズスライムのもとに駆け寄り、腰の刀を抜き放つと、一息に突き刺した。
たったそれだけでスライムは光の粒子となり、パチンコ玉サイズの小さな魔玉と透明な粘液を残していく。
『超弱いわね』
『ああ、超弱いな』
(刀、本当に元通りになっているな)
アスカが精霊剣になった時、そのまま刀を修復してくれたのである。
『ちなみに貸し一ね。でも、この貸しは気にしなくてもいいわよ。健一はね』と言っていたが、いつかは払わないといけない貸しだろう。
(この刀に何度も助けられているし、正直泣きそうになるぐらい嬉しかったので、滅茶苦茶感謝したら引かれたんだよな)
俺は刀を一度振るうと、納刀する。
パラライズスライムがどんな感じなのか分かったので、もうこの階層で戦うつもりはなかった。
『さっさと進むか』
『ええ』
パラライズスライムの魔玉は単価も低い。
なので、もっと奥の階層で狩りをしないと稼ぎにはならないのである。
その後、俺たちはパラライズスライムを見つけてもスルーしつつ、次の階層へと向かうのであった。
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