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第十四話

 


『それで、週末に会社の後輩と探索デートに出かけると』


 俺とアスカは現在、東京・第二十三ダンジョンへと赴いていたのだが、彼女に週末、川崎さんと探索することを話してから、今までずっと素っ気ない態度を取られているのである


『だから、来たかったら来たらいいじゃないか。別に周りからは見えないんだし』


 俺たち二人は、念話と呼ばれる魔法を使って話しており、もし他の探索者に出くわしたとしても、話の内容を聞かれることはない。


 なので、姿も声も聞こえないアスカであればついてきてもいいと言っているのだが、彼女の機嫌が直ることはなかった。


『それって、私が他の人に見えていて、声も聞こえるんだったら、着いてきちゃダメってことじゃないですか!?』


 念話という魔法は頭の中に直接声が届くため、大声を出されると本当に頭が痛くなる。


 このようにああ言えばこう言う状態であり、何を言っても聞かないのである。


『そりゃあ、そうだろ。俺みたいな年齢のヤツがな、アスカみたいな若い女の子と一緒に居たら痛くもない腹を探られるんだぞ』


 俺みたいな普通の容姿をした三十五歳の男が、十代の女の子と一緒に歩いていたら、周りの人間がどう思うか。


 間違いなく、悪い方向で誤解を招くことになる。


『そうかもしれませんが、乙女である私としてはですねぇ』


 アスカの言いたいことは分からないでもない。


 アスカとは何の関係もないが、会って次の日に別の女との約束を取り付けるなんて、節操がないにもほどがある。


『だけどなあ、見殺しにはしたくないんだよ』


 恐らく、川崎ならば何事もなく、探索を終えることができるだろう。


 知らない人と組むのが怖いとは言っていたが、必要とあらばそれぐらいの選択はできる人間だ。


『信頼してるんですね。でも、それなら尚更、断ったら良かったじゃないですか』


 それも一理ある。


 断っておけば無駄なモノを背負い込まなくていいし、向こうも無理には頼んでこないだろう。


 だが、俺は自分の中に浮かんでいたある本音を吐露した。


『正直なことを言うとな、俺は誰かに期待されたかったんだよ』


 ひたすら強くなることを願って鍛錬に励み、結果として夢は破れ、平凡な人間になっていたわけではあるが、元々人から期待をされていた人間だった。


 祖父からは剣士として、高校の仲間や教師からは探索者として、それぞれ大成することを期待されていた。


 ダメになってからは、誰からも期待されず、ただ時間を消費するだけの毎日を送っている。


 久々に期待されたと感じた俺は、承諾するという選択を選んでしまったのだろう。


 俺がそう伝えると、アスカはたっぷりと溜息を吐いた後、呆れた表情で話し始めた。


『全く、健一さんは子供ですか。人から頼れてほいほい承諾して、超弩級の甘ちゃんですね』


『いやいや、俺はそこまで俺は甘くないぞ』


 流石に確かに子供じみているような気もしないが、甘いという言葉にはムッとしてしまう。


『いいえ、健一さんは甘ちゃんの子供で鈍感です。私は出会った時からずっと期待していますよ』


『そうなのか?』


 特にそんな風には感じなかったが。


『本当に期待していますよ。今も昔も、これからも、でなければ契約なんてしません』


『だが、契約は』


 優先順位の問題なんだろ?という間もなく、アスカが話し続ける。


『優先順位が高かったのは事実ですが、私も精霊ですよ。契約する相手ぐらい自分で決めれますよ』


 俺が意外そうな顔をしていると、アスカがぷんぷんと怒りながら、とんでもないことを言い始めた。


『全くもう、私の時も何だかんだ、助けてくれて、超強いし、かっこいいし、半分惚れてますけど』


『あー、それ以上は言わない方がいいぞ、絶対後悔する』


 もうアウトな気もするが。


『後悔しません!とにかくです。今回は許しますけど、そんな風にホイホイ頼みごとを聞いたりしたらダメですからね!』


 どうやらお許しを貰えたらしい。


『分かりました。以後気を付けます』


 俺が頭を下げると、アスカは満足げに頷いた。


(さて、そろそろ気を引き締めるか)


 ここまで、こんな気の抜けるような会話をしていたのも、安全地帯であるからだ。


 安全地帯を抜ければ、そこからはモンスターが徘徊している。


『行きましょうか』


『ああ』


 先程までの和やかな雰囲気を完全に霧散させた俺とアスカは、ダンジョンでの戦いに臨むのであった。







読んでいただき、ありがとうございます。

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