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第十三話

 



 昼休憩の時間となり、探索者としてのアドバイスをするため、俺は川崎と共に昼飯を取っていた。


「いつもこういう場所で食べているのか?」


 洒落たイタリアンでの昼食。


 俺みたいなやつは牛丼かコンビニ適当に買って直ぐに済ませるのが基本だが、川崎は女性社員。


 俺が認識していない、こういったお洒落な店もしっかり把握していた。


「いつもではありませんが、同僚なんかと一緒に来たりはしています」


 値段もそれなりだし、そんな毎回来るような場所ではないか。


 メニューを見ながらそう思う。


「今日は奢りますので、好きなものを食べてください」


 後輩に奢られるのは恰好が付かない気もするが。


「分かった、そうするよ」


 ここは素直に奢られておく。


 そうすることで、川崎も遠慮なく質問ができるだろう。


「ダンジョンについて聞きたいことがあるのですが、いいですか?」


 注文を終えると、川崎が早速質問をしてきた。


「ああ、何でも聞いてくれ」


 そのために来たようなものだからな。


「その、ダンジョンというのはやはり怖いものなのでしょうか?」


 伏し目がちにそう聞いてくる川崎。


(う~ん)


 正直、それがいきなり出てくる時点であまり行くことは進めないのだが。


「恐怖心を煽るつもりはないが、そうだな」


 俺は一呼吸おいて、話し始める。


「よくテレビに出ている探索者がいるだろ」


 Aランク探索者ともなると、メディアへの露出も増え、頻繁にテレビに出てくる。


 Sランクの探索者もテレビには出てくるが、あまり見かけることはない。


「ああいった手合いであっても、ダンジョンは少なからず恐怖の対象だ」


「そうなんですか?」


 Aランク探索者ほどにもなると垂直飛びで十メートルぐらい軽々と飛ぶぐらいの化け物ばかりだが、彼らが相対するモンスターはそういった化け物すら食い殺す化け物だ。


 彼らは貪欲に上を目指し、モンスターを狩りつづける。


 それを続けていくためには、恐怖心というのは重要な要素なのだ。


「恐怖を抱かない奴はいない。そんなのは・・・」


 モンスターぐらいだ。


 そんな言葉を飲み込む。


 これは今回の質問の趣旨には関係ないからな。


「兎に角、探索者は皆恐怖心を持って探索に臨んでいる。それがない奴は早死にするだけだ」


 恐怖心がないから計算が甘くなり、命を落とす。


 探索者というのは時折危ない橋を渡ることもある。


 安全志向の俺も、危険がないわけではないのだ。


「そうなんですね。じゃあ、怖がることは間違いではないと」


 川崎は安堵した表情を見せる。


「間違いではないが、それをコントロールする必要はあるな」


 怖がるのと、恐怖心を持つのは別だ。


 恐怖心を残しつつも、それに打ち勝てるようにしておく必要がある。


 それを伝えると、川崎はぐったりと肩を落とした。


「そうですよねぇ」


 自分の中で答えを見つけていたのか、深く項垂れる川崎。


 その様子を見て、ちょっと言い過ぎたかなと思った、ちょうどそのタイミングで料理が運ばれてきた。


「とりあえず食べましょうか」


「ああ」


 川崎も料理を見てメンタルを持ち直したのか、先程よりも明るい表情で料理を口に運ぶ。


(こう見ると、リスみたいだな)


 川崎は元々童顔で、二十代前半にしか見えない。


 その川崎が小さな口へと料理を運んでいくさまは、妙に癒される。


(俺も食べないとな)


 昼休憩は有限であり、アドバイスにかまけて、昼飯を逃すわけにはいかない。


 そうして、食事を取りながら、探索者に関するアドバイスを続けていたのだが、週末にダンジョンに潜るそうで、一緒に探索をしてくれないかと、頼まれた。


「いいぞ、別に」


 俺自体、そんな危険な場所に行くわけでもないし、週明け会社に行ったら、大けがを負いましたなんて情報が耳に入ってくるのは嫌だしな。


(最悪、死ぬし)


 ルーキーの死亡率は高いので、他の初心者を誘って、ルーキー同士でパーティーを組んで探索をすることが基本だ。


 一応、それも進めたのだが、見知らぬ人と探索するのは怖いのだそうだ。


 そうして食事を終えた俺たちは会社に戻ると、いつもの仕事を再開する。


『ありがとうございます、澄原さん』


 食事を終えて、店を出た後に言われた言葉だ。


(そうやってお礼を言われたのは何時ぶりだろうか)


 俺はそんなことを考えながら、いつも通り淡々と仕事をこなすのであった。







読んでいただき、ありがとうございます。

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