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金髪コミュ症は勇者になれるのか  作者: やまたぬ


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第39話 「それでも行きます」

「本当にもう行くんですね」


 町の境界まで見送りに来てくれたライスが言う。


 あの後ライスは、納得としぶしぶが半々の承諾をした。


 それでも、止んだ涙の後には晴れやかな笑顔を咲かせていた。


「行くって言っても、どうせすぐ戻ってくるけどね。次の町に行くには、またここを通って行くようだから」


「そうですか。それなら、それまでに結婚の準備しておきますね!」


 片目の前でピースをつくり、ウインクする彼女。


「…………」


 南極、北極にも劣らない俺極の寒さの視線を送る。


「……何か言ってもらっていいですか?」


 慣れていないことをしたであろう彼女は、固まったまま頬だけを染めていく。


「……それじゃあ、俺たちは行くよ」


 そう言って振り返ろうとした俺の腕が掴まれる。


「あなたが言ったんでしょうが」


 笑って細まった目の隙間から殺意が顔を見せている。

 俺の腕には指が食い込んでおり、この先、使い物にならないかもしれない。


「なるほど」


 とりあえず腕が痛いので、緊急回避を試みる。


「納得したふりするな。絶対忘れてるだろ」


 彼女は笑顔を崩さず、言葉遣いを崩して言う。


 ――俺の「なるほど」が通用していないだと! まずいな。そろそろ彼女の指が皮膚を突き破る。

 ってか、なんだっけな。色々あったし、いつも適当なことを言ってるから、いちいち覚えてない。


「もちろん覚えてるよ! ただなあー、二択なんだよね。二択で迷ってる! どっちかなー。ヒント貰っていい?」


 俺は言いながら、必死に腕を振りほどこうとする。

 しかし、振りほどこうとすればするほど彼女の指が食い込む。血管の何本かはもう息をしていない。


「じゃあ、その二択を言ってみろ」


 笑みが消え、開かれる瞼。

 露わになった瞳は漆黒。すべての色を飲み込む闇。そこに広がる宇宙。


 俺はとんでもない怪物を相手にしていた。


「…………」


 俺は黙秘権を行使した。



 はあ、と息を吐く彼女。その目には光が戻ってきた。


「もういいですよ。あんまり言うと、こっちが本気で言ったみたいになりますので」


 ようやく解放される腕。状態を確認するために手の開閉を行う。動きはするが痺れが残っている。


 ――これは神経がやられたな。後でミストに治してもらおう。


「そんな大げさですよ。私の細腕じゃなんにもなりませんって」


 笑いながら俺の肩をバシバシ叩く。


 ――はっ? パン屋で鍛えた握力を自覚しろ! 俺は平凡な一般市民なんだぞ!


「それじゃあ今度こそ行くよ。五体満足であの村に辿り着きたいから」


「なんか引っかかる発言ですが、今回は見逃してあげます」


 両手を腰にあて、ふん、と鼻を鳴らす彼女。


「元気でやれよ」


 振り返ろうとしたところ、今度は両手で腕を掴まれる。

 そこに先程のような痛みはなく、温もりが伝わる。


「今回のこと、本当に感謝しています。直太郎さんたちが来なかったら、私は今、生きていなかったかもしれません。それほどに追い込まれていました」


 彼女の手に力がこもる。


「だから、もし、困ったことがあったら頼ってください。私にできることはないかもしれないけど、どこへでも駆け付けます。必ず」


「わかった。困ったことがあったらライスを頼らせてもらうよ。俺ほどの人間だから、もしかしたら魔王と対峙しているときに呼ぶかもしれないけど」


 俺は、ははっと笑う。

 しかし、彼女は笑わなかった。

 

「それでも行きます」


 まっすぐに俺の目を見据えて言う。

 そこには冗談なんてものは微塵も入り込んでいなかった。


「うん。ありがとう」


 俺の腕から彼女の手が離れていく。

 今度こそ振り返って歩き出す。

 一連の流れを黙って見ていた子供たちも俺に続く。


 ――あの村までは三日はかかる。子供たちの体調やメンタルにも気を配らなければ。

 

 そんなことを考えながら足を動かしていると、ちょんちょんと後ろから可愛くつつかれる。

 振り向くと、子供の一人が町の方を指差している。


 指の先には、深々と頭を下げるライスがいた。

 ポニーテールは頭を乗り越えて、こちらに垂れている。


 彼女に掴まれた腕には、温度ではない温もりが残っている気がした。




◇◇◇




「はい。じゃあ交代な」


 迷うことが不可能な道。ただひとつの村に繋がる一本の道を歩く俺たち。

 当たり前のことだが、来たときとは左右が逆。左には木々、右はなにもない。むき出しの地面があるのみ。


 先頭を歩く俺。それに続く子供四人。

 俺は生まれて初めてカルガモの気持ちになれた。


 ちなみに、はぐれた子ガモことミストは、距離を置いて木々の中を進んでいる。

 

 子供たちは、最初こそ怯え、警戒していたが、それもだいぶ和らいできた。

 ただ、子供の体力で歩き続けることは厳しいので、順番におんぶしながら進んでいる。


 気になるのは、子供たちがほとんどしゃべらないことだ。話すとしても消え入りそうな小さな声だ。きっとセルドのところで何かあったのだろう。俺に対しても怯えが抜けきらないのがその証左だ。


 しばらくの間は、大人、音、他人の動作など様々なことに怯えてしまうのだろう。

 

 それでも、四人の子供の未来を取り戻すことができてよかった。

 背中に感じる温もりと重さが、救ったものの大きさを教えてくれた。



 俺は一人で話し続けた。

 あの村で俺たちがやっとこと。あの村はもう安全であること。

 子供たちはきちんと聞いてくれているようだった。

 同じ話を何回も何回も繰り返した。

 村に戻ることの恐怖が少しでも取り払われるように。



 道の先、遠くの方で何かが光った。

 とっさに背中から子供を降ろし、他の子も後ろに下げる。


 ――あれ? なんか既視感がある光景だ。


 到底、人のものではない高さ。眩しいほどに光を反射している白銀。


 数日前に出くわした、口ひげ御一行と再会した。

 道は一本しかない以上、再会するのは時間の問題だった。


「おお! お前はこの前の男か!」


 俺の横まで来たところで馬を止めると、口ひげの方から話しかけてきた。

 数日前には怒り心頭だったが、一転して、つきものでも取れたみたいに上機嫌だった。


「ご無沙汰しております。どうもどうも、お日柄もよく、おひげ柄もよく、何よりです」


 へりくだろうとしたら、意味不明なことを口走ってしまった。


「ん? ああ? そうだな……。それよりもあれを見ろ! たっぷりとお灸を据えてやったわ」


 口ひげは豪快にガハハと笑った。


 口ひげが差し示した方を見ると、隊列の中ほどの馬が荷台を引いている。

 目を凝らして見ると、荷台にはすし詰めにバスクたちが押し込められている。


 ――あー。あいつら、だいぶ男前になってるなー。しかもかれてる。下着を残して剝かれてる。


「さすが口ひげ……、騎士様。お見事にございます! よっ! 世界の口ひげ! ひげひげパラダイス! ひげちゃびん!」


「んん? おう? おお。それではな」


 目一杯おだてたおかげで、口ひげは満足して去っていく。


 ――危ない危ない。こんなやつらの機嫌を損ねたら、何されるかわからないからな。

 おだてのデパートと呼ばれる俺じゃなかったら死んでたな。


 口ひげは子供たちを一瞥したが、特に何かを言うことはなかった。

 瑣末さまつなことで、自分の領分ではないと思っているのかもしれない。


 口ひげに続き、他の騎士たちもぞろぞろと通り過ぎていく。


 最後の一頭。近づいて来たところで、あの態度の悪かった騎士だと気付く。

 その視線は俺ではなく、後ろにいる子供たちに向けられていた。



 馬上から見下し、汚物でも見るような視線を送っている。

 子供たちはその視線に気付き、小さくなって震える。

 先程までの少し和らいだ雰囲気はどこかへ消え去ってしまっていた。


 セルド商会のやつらや、バスクたちに散々浴びせられてきた視線なのだろう。

 ゆえに体が恐怖を覚えてしまっている。



 そして目の前まで来たとき。


「ちっ。汚いガキどもだ」

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