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金髪コミュ症は勇者になれるのか  作者: やまたぬ


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第22話 「だまらっしゃい!」

「ごふっ」


 ハグのために空けられたスペースに飛び込んできたのは、神速の拳だった。


 的確に、みぞおちのさらにみぞおちを撃ち抜かれた俺は、その場に膝をつく。


 小さい彼女を見上げる俺。

 俺を見下ろす小さい彼女。


 彼女からは「ゴゴゴゴゴ」という効果音が聞こえてきそうなオーラが漏れ出ている。

 

 ――あ、これ、怒られるやつだ。



「なんで!」


「死にかけ!」


「てるの!」


「よっ!」


 俺に頭上から大声を浴びせつつ、言葉に合わせて地団駄を踏んでいる。

 地面からはじかれた砂粒が、俺に襲い掛かる。その一粒一粒に彼女の意思が宿っているかの如く、俺の痛点を的確に刺激する。


 走ってきたからか、大声を出したからか、彼女は肩で息をしている

 息遣いがこちらの耳に届くほどに。


 俺は彼女を刺激することがないよう、動いていることを認識することができない速度で正座へと移行した。星座になることを回避するために。



 彼女は仁王立ちでぷるぷると震えている。

 俺も正座でぶるぶると震えている。


 空気が読める俺は、まだ自分のターンでないことを知っている。

 次の波が来るのを座して待つ。


 彼女は大きく息を吸い込む。

 俺の周りの酸素も吸われてしまったからか、俺は息が詰まる。


「わたしは確かに『一人で頑張ってみて』って言った! でもそれは『一人で頑張って死んでみて』って意味じゃないわ! 目が覚めたら森の中だし、人がいっぱいいるし、あなたは血を吹いて倒れているし、人がいっぱいいるし!」


「人がいっぱいが重複――


「だまらっしゃい!」


 ぴしゃりと遮られると同時に、また砂粒攻撃をされた。

 

 ――それでいいのか、ミストよ。それだと「人がいっぱいいた」ことが一番駄目だったみたいになっちゃうよ? 大事なことだから二回言ったみたいになっちゃうよ?


「あなたは一人であの村の調査を始めた。わたしはお腹がペコペコだったから食べ物を探した。あなたは騙されて、眠らされてしまってグースカピー。あなたは制約で信じてしまうのだから、それはしょうがないと思ったわ。だから助けた」


 ――え? なんだって? さらっと言ったけど、村に入った後にいなくなったのは食べ物探してたの? 初耳なんだけど。


「そこまではいいの。そこまでは。言ったでしょ? 『わたしは失敗した方がいいと思ってる』って。失敗して、自覚して、平穏に暮らしてくれればって」


 彼女はまた息を吸う。

 足は動きたそうにうずうずしている。

 ――来る!


「そ・れ・な・の・に!」


「なんで!」


「失敗して!」


「助けられた!」


「のに!」


「すぐに!」


「死にに!」


「いくの!」


「よっ!」


 さっきよりも長かったので砂粒もたくさん飛んできた。

 もう俺の膝は砂まみれだった。


 彼女はゼーゼーとフルマラソンの完走後みたいだ。


「睡眠薬で眠らされて、助けられた後に、なんでもっと危険な行為をするの! なんで最初の一段も昇れてないのに、三段飛ばしに挑戦しちゃうの! それに……」


 少しトーンダウンする。

 見下ろしていた角度から、さらに俯く。


「……それに、せっかく助けたのに……、せっかく助けたのに、すぐに死んでしまうのは、悲しい……。」


 ――そうだ。俺は森の中、睡眠薬の時と、二回も彼女に助けられている。

 今まで他人を助けてこなかった彼女に。

 不器用なのか、表現をあまり知らないのか。

 感情をそのまま伝えてくる彼女の言葉は重かった


「……名前を。呼び合った仲でしょ。名前を呼び合うってことは、親友……。もう家族でしょ。家族が死んだら、悲しいでしょ」

 

 感情を伝える彼女は、それまでよりも随分幼く映った。

 

 彼女はその大きさに反して成人している。

 しかし、それ以上に大人びて見えた。

 どこか達観しているような、そんな印象を受けた。


 それは感情表現が乏しかったからなのかもしれない。


 少しずつ様々な表情を見せてくれるようになってきたが、基本的には無機質。

その姿勢を冷静だと勘違いして、思い違いをしていたのかもしれない。


 もしかしたら、本当の彼女は……。



 ――くっ! 駄目だ!

 さっきの発言が頭の中をうろちょろしていて気になる!


「家族?」


 見上げて問いかける。


「家族……」

 

 彼女も繰り返す。


「俺、君のことをほとんど知らないんだけど」


「家族にだって秘密はあるでしょう?」


「俺、君の顔もほとんど見たことないんだけど」


「家族にだって見せたくないものはあるでしょう?」


「…………」

「…………」


 ――反論できない! 絶対おかしいのに反論できない!

 

 彼女はふざけていない。真剣そのものだ。

 言っていることも間違っていない。間違っていないどころか正解だ。


 程度だ。程度の問題なのだ。

 秘密も見せたくないものも。


 彼女の理論だと、名前を呼び合っただけで全員無条件に家族になってしまう。

 俺とあいつは家族で、あいつは違う。でもあいつとあいつは家族で、あっ、あいつもこの前家族になったな、って大変なことになるよ! 役所もパンクしちゃうよ! 社会主義ならぬ家族主義の誕生だよ!



「なるほどね」


 俺は奥の手を使って、この場を乗り切った。




 彼女の怒りは踏んだ地面を伝って霧散したようだ。

 そろそろ俺のターンだな。


「助けてくれてありがとう。君がいなかったら、こうして正座することもできなかったよ」


 彼女は黙ったままなので続ける。


「あと、何度も助けていただいたのに、危険な行為をしてすみませんでした」


 彼女は、わずかに残っていた怒りは吐き出すように、ため息をつく。


「いいわ。許してあげる。今回のことに関しては、わたしにも落ち度があるし。あなたのことばかりを責めることはできないわ」


「お腹がいっぱいになって、グースカピーだったもんね」


 膝に積もった砂を払いながら言う。

 親切に表現は彼女に合わせてあげた。


「あ、あ、あれはお腹がいっぱいで眠くなったんじゃなくて、残ってた睡眠薬を飲んでしまったからで、動転してたから飲んでしまったわけで!」


 あわあわしている彼女は放置しておいて立ち上がる。

 痺れかかっていた足に、屈伸で血流を再開させる。



「ナオタロ! 聞いてるの?」


 大事なことを思い出す。


「なるほどなるほど、それはなるほどだったね。……それでさ、ハンナさん……、俺の傍にいた女性から聞いたんだけど、ミストって魔法が使えるの?」



 夕日はもう帰宅直前で、空には星が姿を現し始めていた。



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