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金髪コミュ症は勇者になれるのか  作者: やまたぬ


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第18話 「ピーーー!」

 時は少し遡って、まだ村にいた時――。



「それじゃあ、わたしたちは向かうとするよ」


 俺にこの村での出来事を説明してくれた彼女は、覚悟の光を瞳に灯して言う。

 彼女の名はハンナ。彼女も子供を二人、人質にとられているらしい。

 

 村の人たちは俺のまわりに集まって、俺の予想を聞いていた。ハンナはその中での俺との会話の相手役をしていた。


「行ってどうするんですか? さっきも言った通り、痕跡をたどって子供たちに辿り着くことができても、子供たちを盾にされるだけです」


 説明をしてくれた時の優しい表情とは一転して、鋭い眼光が俺を刺す。


「だったらなんだい? 子供たちが連れていかれるのに、手をこまねいてここに鎮座してろって言うのかい! この村はひどい状態だけど、一定の均衡を保っていたんだ。大人の労働と子供の安全の均衡を……。こんなことを言いたくはないけどさ、それをあんたたちが壊しちまったんだろ? もう、動くしかないんだよ……」


 いらだちを隠すことをせず、彼女は声を張り上げた。

 周りの村人たちも、自分も同じ考えだと言わんばかりに、頷き、目を光らせる。


 彼女は大きな見落としをしている。いや、希望を失わないための自己防衛として、あえて見落としている。

 子供たちの安全なんて、まったく保障されていない。あいつらが、こんな非道なやつらが、言葉通りに律儀に行動するとは考え難い。


 それでも彼女たち村の人々は、子供の無事を信じるしかなかった。子供の無事を信じて、日々の辛い日々をやり過ごすしかなかった。唯一の希望として、心が砕けるのを、いや、砕けてしまった心が飛散しないように繋ぎ止めていた。


「すみません、配慮に欠ける物言いをしてしまいました」


「いや、こっちこそすまない。混乱して感情的になっちまった。あんたたちが悪いわけじゃないことはわかってるんだ。ごめん」


 しぼんだように首を垂れる。感情の起伏が彼女の混乱を体現している。

 

 当然だ。この数か月間、毎日恐怖や絶望にさらされ、守ろうとしてきた子供たちが今まさに手の届かない場所へいこうとしている。冷静でいる方が逆に不自然だ。


 俺には子供がいないから、本当の意味で彼女たちの気持ちがわかるとは言えない。それでも、想像をすることはできる。彼女たちの状況、苦労、守りたいもの……。


 だから、もし、子供たちを救えなかった場合のことも想像できてしまう。

 何よりも大切なものを失った人々が混乱し、俺たち、特にミストを非難することが。

 その一端は先程垣間見えてしまった。


 子供たちを救うことが、ミストにかかるかもしれない火の粉を払うことにもなる。

 

 俺の目にも、村人たちと同じ光が灯る。



「作戦を立てましょう。わずかな勝率を、それなりの勝率へと昇華するための」



 ◇◇◇



 そして現在。



 森の中に、夕日と同じ色の光が瞬いている。

 ゆらゆらと揺れる光は、俺の出番の終わりを告げていた。


 「ピーーー!」


 甲高い笛の音が天まで響き渡る。


 次の瞬間、光とは反対方向の木々の間から、人が流れ込んでくる。

 それまで溜め込んでいたかのように、一斉に地面を踏み鳴らして。

 人数はさほど多くないが、怒りがこもったその行軍は、驚くほどの地響きをもたらした。


 そして、子供たちがいる小屋の前に整列して壁となった。

 もちろん村人たちだ。それぞれが農具や木の棒など、到底武器とは呼べないものを携えている。構えはまったく板についていないが、その表情が意志を映す。

 絶対に守り抜くと。

 

 

 俺の立てた作戦はこうだ。

 

 賊の二人の意識が戻っていなければ、子供たちを保護して終わり。

 意識が戻っていたとしても、子供たちのもとにいなければ同様に。

 

 一番可能性が高かったのが、賊が子供たちのもとにいた場合。

 この場合で詰むのは、子供たちを盾にされること。そうされたら、成す術はない。


 だから、まずは俺が一人で先行する。大勢の村人の姿を視認されたら、子供たちはすぐに盾にされてしまうから。俺一人であれば侮られているし、その心配はない。


 もし賊が子供たちのもとにまだ向かっていなかったとしても、村人たちの行軍を確認された時点で競争になってしまう。子供たちの場所を知っている二人との競争では勝ち目はない。


 それゆえの単騎突入、孤軍奮闘、ぼっち作戦。

 村人たちには大体の場所と、地面の痕跡をたどるように伝えた。そしてしっかりと距離をとるように、俺一人だけだと思わせるように、と。これは絶対にだと念を押した。

 

 そして俺が囮を担う。挑発して賊を子供たちからできるだけ引き離す。

 この引き離すことの絶対条件こそが「俺一人だと思わせる」ことだ。


 隙を見て子供たちを確保できたら、あとは総力戦。数の力で押し切る。

 村人たちの実力を知らないので、ここが一番の不確定要素ではある。

 それでも、人質を取られて何もできなくなることに比べれば、十分すぎる勝算だ。

 欲を言えば、村人を見て逃げ出してくれれば嬉しい。



 穴がないわけじゃない。むしろ穴だらけの作戦。

 混乱する村人より少しは判断能力がある、普通の人間が考えた普通の作戦。



 ふと、作戦を説明した時の会話を思い出す。



 ◇◇◇



「作戦については理解できたよ。でもこの作戦だと、あんたが一番危険なんじゃないかい? 仮に成功したとしても、あんたは無事では済まないだろ?」


 一通りの説明を黙って聞いていたハンナが言う。


「まあ、そうでしょうね」


 なんでもないことのように、笑顔で返す。


「だったら、村の人間から囮役を出せばいいんじゃないか? あんたがそこまでする理由はないだろう」


「それは駄目です。あいつらは、今まで支配していた村人が来た時点で複数で来ていると思うだろうし、仮に一人で来たと信じたとしても、苦しめるために、あえて子供に危害を加えるかもしれない。そうする必要がなかったとしても」


 ――「自分たちが楽しむために」の部分は言葉にしなかった。


「それに、俺はめちゃくちゃ強いので、たぶん大丈夫です! あの二人なら昼間に一度倒しているので、俺たちが!」


 親指を立て、笑顔を振りまく。これまでに想像を絶する苦難が与えられた彼女から、わずかでも不安が取りされればと。


「わかった。あんたを信じるよ。作戦についてもね」


 久しぶりに笑った彼女を見て、少し安心する。

 

「俺は大丈夫ですけど、村の人たちは大丈夫ですか? 数の力で最終的には勝てるかもしれませんが、犠牲者がゼロってことは厳しいかと……」


 そう、俺の作戦は犠牲前提だ。とはいえ、この状況、この戦力で無傷での勝利なんて、天地がひっくり返っても無理ではあるのだが。


 彼女は、ははっと笑って言う。


「あんたみたいな若いものには、まだわからないかもしれないけど、親ってのは子供のためなら、命を張るぐらいわけないんだよ。それにこんなに小さな村だ。みんな、子供たちを自分の子のように思っている。つまり……、全員覚悟はできてるってことさ」


 周りを見渡す。

 支配を受けていたとは思えない、勇敢な戦士の顔が、そこにはたくさんあった。


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