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金髪コミュ症は勇者になれるのか  作者: やまたぬ


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第15話 「やる時はやる、やらない時はやらない子なんです!」

 聞いた話をまとめると、こういうことみたいだ。


 この村は豊かではないが食べるには苦労せず、平和に暮らしていた。

 魔王城から離れているので魔物は現れない。奪うものがないので、賊に襲われたこともなかった。


 数か月前、ここカルバス王国においてひとつの政策が施行された。それは、これまでは王国軍がすべてを担っていた魔物の討伐を、民間にも一部委託するものであった。いわゆる冒険者制度だ。他国においてはすでに導入されており、それをそのまま輸入したみたいだ。


 ここで問題となったのが労働者の減少だった。魔物討伐における報酬は一般的な労働と比較して破格であったので、腕におぼえがあるものはもちろん、覚えがないものも裕福な生活を夢見て冒険者へと転身していった。


 不足した労働者を補うために、奴隷の売買が盛んになった。もともと禁止はされていなかったが、需要が高まったので価値が高騰した。


 そこで目をつけられたのが、この村だった。


 魔王城からも離れているが、王都からも離れていて、憲兵などはほとんど来ないこの村が標的となった。平和だったこの村に闘う力はなかった。



 最初に子供が別の場所に移された。どんな組織でも、トップにいる人間は頭がまわる。一番村人が嫌がることを、一番簡単に支配できる方法を実践した。村人は初手で鎖につながれてしまった。


 子供が連れ去られたのではなく、移された。人質として。

 村人には子供の居場所は知らされなかった。助けに行けないように。

 

 あとは盗賊団の意のままに動く装置として消費された。食料は最低限を残して徴収され、若い女性は連れていかれた。詳細は省略されたが、「奴隷の生産工場にされた」という言葉がすべてを物語っている。


 すべてにおいて自由はなく、すべてにおいて服従を強いられた。なにかあれば子供の命を天秤にかけさせられた。


 子供の安否を確かめられない状況で、その生存を疑い、反抗を試みた男もいた。その男の子供は連れてこられ、男の前で殺された。男は殺されなかった。男の子供は一人ではなかったから。


 それ以降、反抗心を持てるものは一人もいなかった。


 外部から人が来ることは稀だが、そのための準備もしていた。

 憲兵が来た場合、旅人が来た場合、行商人が来た場合、それぞれに応じた対処が周知されていた。怪しまれないように。利益を積めるように。


 俺は「旅人が来た場合」に該当し、俺以外の旅人は奴隷としてこの村を出ることになったらしい。説明してくれた彼女は、俺が偽村長息子についていくところを見ていたようだ。




 胃が絞られ、胃酸がよじ登ってくる。

 接したことがない「悪」を摂取し、体が拒絶反応を起こす。


 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い――



 それでも理解はしていた。これがこの世界だから起きているわけではないことを。

俺がいた世界でだってあったはずだ。別の国、あるいは昔の日本。いや、背筋が凍るような凶悪犯罪は今の日本でも起きている。


 幸運にも俺は触れてこなかった。知っていても所詮は他人事。

 それが今は目の前にある。目の前にいる。被害が。被害者が。




「大丈夫かい?」


 説明を聞き終わるころには立っていられなくなっていた。

 彼女の優しい声を受け、急いで立ち上がる。


「大丈夫です! 今日は少し歩き過ぎたみたいで、足にきてしまいました」


 無理やりパーツを集めて作った笑顔で言う。

 つらいのはこの人だ。この人たちだ。話を聞いただけの俺がへばってはいけない。


「お話を聞かせていただき、ありがとうございました。つらい話なのに、無関係の俺なんかに説明させてしまって、すみませんでした」


 頭を下げる。

 正直、ここまでひどいとは思わなかった。軽率だった。

 自責の念がのしかかって、頭を上げることを許さない。


「さっきも言ったろ。私は片棒を担いじまってるんだ。どうなるかわかっていて、あんたがついていくのを止めなかった。あんたは被害者で、私は加害者なんだ。説明する義務があるし、謝るのはこっちだ」


 肩を掴まれ、強制的に上体を起こされる。細い体に見合わない力に、俺の心までも拾い上げてもらった気がした。


 

 彼女に謝らせたくはないので話を進める。


「それで盗賊団は今どこに?」


「あの輪の中だよ」

 

 彼女の後ろでうごめく集団を指して言う。


「と、言いますと?」


 ふうー、と呆れたように息を吐く。


「本当に何も聞いてないんだね」


 ん? なんかミストから話を聞いていない俺が悪いみたいになってない? パンのくだりを長々と聞かせてあげたいんだが!


「あんたがあの家に入ってしばらくして、バスク……、あんたを案内したやつが出てきた。それで団員のひとりと話しをしてたんだ。たぶん、奴隷として移送する手順を指示していたんだろうね。そうしたら、あんたが今背負ってるその子がいきなり現れて、二人を倒しちまった」


「なるほど」


「団長が倒されたってことで、賊のやつらは蜂の巣をつついたような騒ぎになった。団長以外はばかだったんだろうね。騒ぎに吸い寄せられるように他のやつらも集まってきて、結局一人残らず倒された。その子一人に」


「なるほどなるほど」


「その子、小さいのに強いんだね。驚いたよ」


「なるほどなるほ……、そうなんです! うちの子強いんです! やる時はやる、やらない時はやらない子なんです!」


 危ない。あまりの衝撃に自動相槌機能がオンになってしまっていた。


 なんか俺が寝ている間に、物語がものすごく進行している。俺の人生の主人公が俺じゃなくなっている。そのうち「眠りのナオゴロウ」と呼ばれて、体は子供、頭脳は大人のミストが人知れず事件を解決するストーリーになってしまう。



「こいつらを倒してくれたことには本当に感謝してるんだけど、なかなか目を覚まさなくてね。子供たちの場所がわからないんだ」


 言いながら歩き始めた先には十数人の男が縛られて、無造作に置かれていた。

 

「結局のところ、私たちが反抗できなかった一番の理由は、子供たちの場所がわからないってことだったんだ。賊のうち一人でも逃がしちまったら、先にそいつに子供たちのところへ行かれちまうからね。でも、こうやって全員倒してくれたから、のんびり目覚めを待てるよ」


 悲しそうに笑う彼女の笑顔が、本当の笑顔ではないことに心が痛む。まだ解決していないのだ、何も。


 縛られているものを見渡す。俺を騙したイケメンこと団長もその中にいた。他のやつらは、見るからに、のやつらばかりだ。俺はこいつらを人だとは思わない。

 


 何かひっかかる。何か嫌な感じがする。第六感なんてものではないけど、思い出さなければいけないことが、思い至らなければいけないことがある気がする。


「これで全部ですか、盗賊団って?」


「たぶん、そうだと思うんだけど、私たちも全員を把握してるわけじゃないから。でもあの騒ぎの時に村から出て行ったやつがいなかったことは、村のみんなに確認してるし」


 問われて、不安げな表情が浮かぶ。


「例えばなんですけど、最初に村が襲われた時はいたけど、それ以降は見てないとか。アニキって呼ばれてる人とか、がっしりとした大男とか」


 血の気の引いた彼女の顔が、質問に対する答えだった。



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