梅干しおにぎり(後編)
拙作をお読みいただき、ブックマーク、評価ありがとうございます。いつ梅干しおにぎり出てくんだよ!?と引っ張りまくったここで、出てきます。お待たせしました。
無事に帰宅してお土産の箱をテーブルに積み上げて、濃縮レモネードを牛乳で割って飲むのり子さんと僕。1つ1つお土産の説明をしている所の音声はあえて切ってあった。そしてお約束のテロップが「おばぁちゃん、もやしで、ヘタレできょどってる大介だけど、のりちゃんの幸せのためには一生懸命がむしゃらに行動するよ。もちろんボクらものりちゃんが毎日笑って過ごせるように手を尽くすから安心して見守ってね。」
泣きそう。僕はコッソリ膝を抓って涙をこらえた。
おばぁさんと、のり子さんは動画をいたく気に入って手巻きずしを食べる間中何回も再生していた。
わらしさまの畑から収穫したスイカを食後のデザートにして、のり子さんが見送る中おばぁさんを空中散歩に招待した。
わらしさまが、この1年で広げた敷地を指さして説明しているのを聞いて、おばぁさんが、
「わらしさま、大介君これからものり子ちゃんの事をよろしくお願いします。」
と深々と頭を下げた。
「モチロン!」
「こちらこそよろしくお願いします。」
おばぁさんに少しは家族と認めてもらえたようでほっとした。
庭でBBQをしたり、結婚式の写真を見たり、あれもこれもと詰め込まれた3日間はあっという間に過ぎていった。
最終日は、動画を撮影したり警備をしてくれていた稲荷様の弟妹弟子へのお礼に今年漬けた梅干しでおにぎりを握っていた。僕が握っても霊力が増えるわけではないので、僕は黙って汚れものを片付けたりコップにお茶を注いだり雑用係に徹した。
散々おにぎりを握り終えて、試食タイムになった。
「これだけ梅干しも上手に漬けれるようになったなら、おばぁちゃんの梅干しはずっと受け継いでいってもらえるね。」
「おばぁちゃん。ボクも梅干し漬けるのお手伝いしたよ。」
「もうわらしさまと、私はおばぁちゃんの梅干し免許皆伝して貰えるんだね。」
3人ともニコニコおにぎりを噛みしめている。嗚呼、こういう幸せな時間がいつまでも続くといいなぁ。しょっぱい梅干しに顔をくしゃっと縮めて幸せを噛みしめるって変な絵ずらだけどさ。
「のりこちゃんは、これからどんどん家族が増えるだろうし、梅干しも上手に漬けられるようになったし、とっても幸せそうに笑うようになったね。おばぁちゃん嬉しいよ。」
「わらしさまが我が家に来てから雪だるま式に幸せが増えているんだよ。それにね、大介君は高圧的な態度も取らないし、決して無理強いしたりしないで私を尊重してくれるんだ。」
「それは大介君の持っている資質なんだろうね。のり子ちゃんよかったね。おばぁちゃんこれで安心して次の人生へ進めるよ。わらしさま、大介君、のり子ちゃんをよろしくね。」
ざっと血の気が引いた。のり子さんもわらしさまも顔面真っ青だ。
「何言ってるの?まだひ孫の顔も見ていないじゃない。」
「今のりちゃんのお腹にいる赤ちゃんは男の子だから、2番目か3番目に女の子で生まれてきたいわ。それで、今度はのり子ちゃんにおばぁちゃんがお料理習うの。楽しそうでしょ。」
「そんな事もうちょっと後でもいいじゃない。もうちょっと一緒にいてよぉ。」
ボロボロ涙を流してうずくまるのり子さんの肩を僕はそっと抱きしめた。
「のり子さん、おばぁさんは今までのり子さんが心配でしょうがなかったんです。それが幸せなんだって安心してくれたんですよ。これからも笑いが絶えない穏やかな家庭を築いておばぁさんが僕達の家族に転生してくる日を待ちましょう。」
「そうよ。のり子ちゃんあんまり高齢出産になると、のり子ちゃんがしんどいだけよ。おばぁちゃん今から転生の準備しても遅いくらいだと思っているもの。」
「でも、おばぁちゃんが私の子供に生まれ変わっても私達にわからないかもしれないじゃない。」
「そおねぇ。この梅干しの種を握って生まれてくれば、のり子ちゃんにわかるんじゃない?」
といたずらっぽく笑った。
完全にフリーズしているわらしさまのほっぺたをおばぁさんが突っついて
「わらしさまも、私が生まれ変わったら、のり子ちゃんのお手伝い一人占めしないで私にも何か係作ってね。」
「ボク小さい子でも出来るお手伝い考えておくっっ。」
「おばぁちゃん絶対私の子供に生まれて来てよ。」
そっと背中をさすっていたのり子さんが、僕を見上げて
「おばぁちゃんがびっくりするくらい賑やかな家庭にしなくちゃね。」
とくしゃっと笑った。僕は口を引き締めて力強くうなずいた。




