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座敷童が小豆ご飯に飽きたと言っています。  作者: ヴぃc
番外編その2
90/93

梅干しおにぎり(前編)

久しぶりに、お昼休憩にUPできました。お昼ご飯のお供にして下さい。

「おばぁちゃんおかえり~~~。」


 トテテ~とわらしさまが走りっ寄った先には1年ぶりに帰ってきたのり子さんのおばぁさんが立っていた。やわらかく微笑んだおばぁさんの表情はのり子さんとそっくりだった。昨年は、店子だった僕も今年はのりこさんの夫。この一週間緊張して眠れていない。まず何から伝えれば良いだろう?とそればかり考えて答えは出ないまま今に至る。ヤバイ心臓のあばれ具合が半端ない。


「あ、おばぁちゃん、のりちゃんね……。」

「わぁぁぁぁっ。わらしさま、のり子さん本人の口から……。」

「はぁ?今日は手巻き寿司だよって話、誰が言ってもいいじゃないか。」

「……すいません。」


 新しい家族のお知らせかと早とちってしまった。のり子さん至上主義のわらしさまが、のり子さんのお知らせを先にお伝えするわけなどないのに。僕、相当テンパってるっぽい。3日間無事心臓破れることなく生きていられるだろうか……。

 わらしさまがグイグイとおばぁさんを引っ張って自分の畑へと招いていた。自慢のスイカやトマトを始め、収穫が楽しかったカリフラワーの植えたばかりの新芽も披露していた。カハクちゃんに頼めば季節関係なく収穫できるのに、『のりちゃんに美味しく食べてもらうんだ!!』ってアツク農業を楽しんでいる。

 それを尻目に僕は、台所で張り切っていているのり子さんをそっと覗き込んだ。


「のり子さん、刻むだけなら僕でも出来るからそろそろ休憩にしておばぁさんとお茶でも飲んだら?」

「あ。大介君ありがとう。なんだかあれもこれもと思っていたらちょっと根を詰めすぎちゃった。後は茗荷を刻んでクリームチーズと大葉を刻まないのと刻んだのにしてお皿に乗せてもらえば完成だよ。」

「じゃぁ、後はやっておくからゆっくりしていて下さい。」

「は~い。」


 粛々と僕は宴の準備をしてリビングから聞こえてくる笑い声に、そっと幸せを噛みしめた。誰かが幸せな気分に浸って居られる時にサポートできる力がついた僕。きっと散歩の途中で気分が悪くなってがたがた震えていた僕よりは、少し前進できたはずだ。この家に下宿する様になってからニートじゃなくなったし、第三者とだって会話が出来るようになった。もっともっと強くなって、しっかりして、のり子さんも、生まれてくる子供も、守って支えて頼りがいのある旦那さんでお父さんになるんだ。決心を新たに僕は黙々と手巻きずしの具を刻んでお皿に盛り付けていった。

 いつの間にか夕食時になっており、稲荷様や、チコちゃん、カハクちゃんもダイニングテーブルの席に着いていた。

 あれ?そんなに長い時間台所で作業していたっけ?

 酢飯の入った桶を中心に、お刺身各種、コーン、納豆、ツナ、かにかま、大葉、クリームチーズ、茗荷、錦糸卵、きゅうり、肉そぼろ、レタス、アボカドなどが所狭しとテーブルの上に鎮座している。

 コップにそれぞれ好みの飲み物を注いでいざ乾杯の挨拶。


「おばぁちゃん、去年来た時大介君はこの家の店子だったけど、私達結婚したの。それでね、お腹の中に赤ちゃんがいるんだよ。来年の夏はひ孫だっこできるよ。」

「のりちゃん。おめでとう。わらしさまが来てくれた時も楽しそうに笑うようになったと思っていたけど、新しい家族が出来たんだね、おばぁちゃんうれしいよ。」

「一生のり子さんを幸せにできるよう努力しますっ。」


 あ、緊張しすぎて声が裏返ってしまった。


「大介君。のりちゃんと赤ちゃんの事をよろしくね。」

「はいっ。」

「では、かんぱーい。」

「「「「カンパーイ。」」」」

「こほん。おばぁちゃん。こんなもやしで、ヘタレできょどってる大介だけど、のりちゃんの事を思う気持ちはボク達も十分認めているんだよ。そんなヒモな大介のプレゼン動画がこちら。いざ再生!」


 ……聞いてないんですけど。冷汗が背中を伝う。

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