のりちゃんの幸せ家族計画
飯テロがありません。
ボクは、前の家の住人からは目視されていなかった。それでも家を繁栄させてはお供えされた小豆ご飯を食べて住人がステーキや、すき焼きや、ピザなんか食べているのを羨ましく眺める変わり映えのしない毎日を送っていた。
そんな生活がどれくらい続いていたのか判らないくらい時を経た頃、何か美味しいそうな匂いが漂ってきた。ボクはその匂いを辿ってのりちゃん家にたどり着いたんだ。
のりちゃんにはボクの事が見えるし、たくさんおしゃべりも出来る。美味しいご飯やゲーム、映画、漫画等楽しい事が溢れていてとても居心地がいい。のりちゃんは恋人に振られた挙句無職なくせに座敷童のボクにお願い事をしなかった。それどころか一人で留守番をするボクを気にかけてくれた。
だからボクはのりちゃんがずーっとずーーーーーーっと笑顔でいられるようにする為にありとあらゆる事をするって決意したんだ。
いなり、かはくちゃん、チコちゃんにもしっかり協力して貰っている。ある日ドローンで近隣を視察していると上下スウェットを着た青年がぼんやり窓から外を眺めていた。生気のない表情が抜け落ちたその青年はのりちゃんと出会った頃を思い出させた。
何故か気になるその青年の事をチコちゃんに頼んで調べてもらった。山口大介25歳。会社でパワハラにあい退職して心に風邪をひいた対人恐怖症で家に引きこもっているが、親との約束で1日1回の散歩が日課。
コイツだーーーコイツをのりちゃんの家族候補にしよう。人の痛みを知っている人間は相手の痛みも察せられるはずだし無職ならボクが一生のりちゃんを養ってあげれる。ボクは大介ヒモ計画を粛々と進めた。
のりちゃんが休みの日にいなりを呼び出して待機させ、大介が散歩に出たとチコちゃんからLINEが来ると、ドローンを飛ばして大介の様子をうかがう。いつもの散歩コースに通行止めを置き、学生のロードワークコースに誘導した。当然対人恐怖症の大介は具合が悪くなってうずくまってしまった。ボクはすかさずのりちゃんといなりに大介を迎えに行ってもらった。ちょっとえげつない作戦だったかもしれないが、自然な出会いをボク達は演出する事に成功した。
大介が下宿する様になってからは、ヒモである事を口を酸っぱくして教え込み自宅警備員の神髄を伝授した。のりちゃんは最初大介の事を拾ってきた野良猫くらいにしか思っていなかったんだと思う。
何気ない毎日を過ごし、美味しくて温かいのりちゃんのご飯は大介の心の風邪を少しずつ癒していった。
ボクの想像以上に大介はいい奴でお買い得物件だった。
ある日ロードバイクで大介と庭の外周を競争していた時にふと、
「わらしさま、このロードバイクも渡辺家の所有物ですよね?」
「そうだぞ。」
「という事はこれに乗っていたらわらしさま敷地外にも出れるんじゃないですか?」
「よし。実験するぞ。大介ついてこい。」
ボクは恐る恐る現場検証をした。家出にならないよう慎重に実験した結果ロードバイクに乗っていたら敷地外に出れた。無事にのりちゃん家にも帰ってこれた。
そしてボクは大介に1枚のクレジットカードを渡した。
「大介、それで車校に通って車の免許を取ってこい。」
「……僕登校拒否になるかもしれませんよ?」
「どれだけ時間かかってもいいから、リハビリだと思って通え。」
尻込みする大介の背中をグイグイ押して自動車学校へ通わすことに成功した。まだ大勢人がいる場所ではビクビクする大介も、生徒の少ない時間に合わせて車校に通い無事免許を取得できた。
のりちゃんを連れてみんなでいろんな場所へ赴き、たくさんの楽しい思い出を作った。のりちゃんはもう一人ぼっちなんかじゃない。
欲の無いのりちゃんはそれだけでも幸せなんだろうけど肉親の居ないのりちゃんに家族を作ってあげたい。
おばぁちゃんの梅干しや、紅ショウガ、らっきょなんかものりちゃんの子供にも教えてあげて欲しい。きっとそういうのがのりちゃんの『一番の幸せ』なんだと思う。
チコちゃんからの連絡でにっくき勝がこちらに転勤してきたのを知った。
今日、吊り橋効果大作戦を決行する。
待っててねのりちゃん。ボク達がのりちゃんに家族をプレゼントするからね
まだクラマと出会っていないのでわらしさまがクレジットカードを持つのは実際には無理なんですがそこはゆるっとふわっとで宜しくお願いします。




