なんでもない日のお雑煮
拙作を読んでいただき、ブックマーク、評価、感想ありがとうございます。遅刻しましたが、評価件数が200件を超えました。今回は、出そうか出さまいか迷っていたあの人が登場です。
先日、わらしさまがドローンにカメラを搭載して操作中に何を見つけたのか「絶対お買い得だから」と喚き散らして急き立てられた私と稲荷様が、マッピングスポットに行けば青年がうずくまっており拾ってくる羽目になった。
その青年、山口 大介君(25歳)は、新卒で入社した会社の上司が、もの凄いパワハラで、入社2カ月で心が風邪をひいてしまい、対人恐怖症も併発して働きに出れなくなったらしい。実家の両親からは、仕事をしなくてもいいから毎日1回は散歩に行くように言われていたらしく、日課の散歩中に部活でロードワークしてる集団に出くわして、自分が襲われると青くなってうずくまっていたらしい。
今の世代の管理職はパワハラの講習会や、適性テストを受けるけど、現在の部長クラスだとそんな講習会も適性テストも受けてない年代が居たりするから、そいつがパワハラをしてしまえば泣き寝入りしかないのだろう。
そんな場所に配属されてしまった、運の悪い大介君が我が家に下宿するようになって1カ月が経つが、わらしさま達は子供サイズで一緒になって遊んでいるから、『チームわらし』と遊んでいる時は表情も豊かで元気だ。
しかし、大人の私とはまだ目が合わせられない。それでも、漫画なんかの話をし出すと早口でウンチクをたれ出したりするので、全く交流が無いわけではない。野良猫を手なづけるくらいの気長な気持ちで接していこうと思ってる。
フードファイトが良く始まる我が家に、大人が一人増えたところで作る量は大して変わらないから、大介君は3食昼寝付きの自宅警備員兼、わらしさまの遊び相手要員という訳だな。
私が仕事に行ってる間もわらしさまが淋しくお留守番をしなくても良くなった事は嬉しいもんね。
さぁ今晩は何を作ろうか。心に風邪をひいてる大介君がホッコリできるメニューがいいよね。とわらしさまと話し合った結果ここ1カ月のメニューは、温かいレシピばかりで冷やし中華みたいな冷たいメニューは、我が家の食卓に上がっていない。
早く元気になってくれるといいんだけど、大介君を拾ったのが夏場じゃなくて本当に良かった。
夏場にホットメニューばかりじゃ作る私がバテちゃうよ。
「わらしさま、今日何が食べたい?」
「ボクお餅が食べたいな。」
「それじゃぁ、なんでもない日のお雑煮にしちゃう?」
「ボクなんでもない日のお雑煮好きだよ。」
「じゃあ、そうしよう。お手伝いヨロシク。」
「イエッサー。」
人参をいちょう切りにしたら、だし汁に薄口しょうゆ、塩、一口大に刻んだ鶏のもも肉、人参を弱火で煮込む。ほうれん草はさっと塩ゆでして水気をぎゅっと絞って、お浸しにするくらいの長さに切っておく。
「のりちゃ~ん。お餅何個食べる?」
「2個食べる。」
「ボクは何個にしようかなぁ?」
「お替りする時に焼けばいいじゃない。お餅冷めちゃうよ。」
「のりちゃんナイスアイデア!じゃあ大介のお餅も2個スタートでいいね。」
「そうだね。」
わらしさまがトースターでお餅を6個無理矢理乗せている。くっついても知らないゾ。
案の定餅同士を剥がすのに悪戦苦闘していた。わらしさま、一つ賢くなれたね。
焼けた餅をお椀に入れて、ほうれん草を乗せた上から先ほど具を煮込んだ澄まし汁をかけて、乾燥ゆずの皮を乗せたらなんでもない日のお雑煮完成です。
「大介君ご飯だよ〜。」
縁側に続く部屋のドアがガチャっと空いてスウェットの上下を着たボサボサ頭が食卓テーブルに着いた。私と目を合わせまいとやや俯き加減。
「いつもご飯作って下さってありがとうございます。」
「大介はヒモなんだから、ヒモらしくボクとのりちゃんが作った料理を食べてればいいんだからなっっ。」
わらしさまよ、いい加減ヒモ扱いやめてあげなよ。大介君はヒモじゃなくてニートでしょう。……アレ?ヒモとニートの違いってなんだったっけ?ウィキペディア先生曰く、15歳〜34歳までの、働いていない、通学していない、家事をしていない人をニートと言うらしい。そして、大介君と私は付き合っていないからヒモじゃないよ。
さらに35歳になったら、働かなくても、通学しなくても、家事をしなくてもニート卒業できちゃうって事だよね。大介君のニート期間は後9年です。
オメデタイ日のお雑煮は人参が飾り切りになりトッピングに三つ葉が加わります。




