エピローグ
病院のベットに横たわる私の周りでたくさんの瞳が私を見下ろしている。孤独だった私がわらしさまと出会ってからの人生は異世界転生チートよりもすごかった。
ある日、わらしさまがドローンにカメラを搭載して操作中に何を見つけたのか「絶対お買い得だから」と喚き散らして急き立てられた私と稲荷様が、マッピングスポットに行けば青年がうずくまっており拾ってくる羽目になった。
「拾ってきたんだから最後までお世話しなくちゃダメ」だと言う謎のわらしさま理念で、下宿させることになった青年山口 大介(25歳)は、生粋のニートだった。すぐさまLINEで『チームわらし』を招集したわらしさまは、「これが本当の『ヒモ』だから」と大介を見せびらかした。ニートだっただけはあり、ゲームや映画、アニメ、小説に精通する大介は『チームわらし』と意気投合していつも何かを一緒に企てていた。そんな代り映えのしない毎日を送っていたある日、我が家にキャンピングカーが納車された。『チームわらし』with大介の様々な実況見分の結果、『我が家に所有されている物』であればわらしさまが移動しても『家出』に該当しないらしい。
それからは、大介の運転であちこち出掛けた。『チームわらし』とのいろいろな経験にインスパイアされた大介は何かが憑いたかのように鬼気迫る勢いでパソコンに向かい、3日3晩キーボードをたたき続けてしあげた作品が1年後には書籍化された。デビュー作の出版記念パーティーで大介にプロポーズをされた時には私が返事をするよりも先にわらしさまが「のりちゃんを一生養うのは僕の仕事なんだからねっっ。」と唾を飛ばしながらまくしたてるから大笑いしてしまった。
それからも、わらしさまの快進撃は続き、「のりちゃんとヴァージンロードを歩くのは僕だ。」と言い張り到頭、結婚式場を買収してしまった。赤ちゃんを授かった時も、「一番にのりちゃんの赤ちゃんを抱っこするのは僕だから。」と床に寝転がって暴れ、自宅で出産するのは何かあった時に処置できないからと、いくら宥めすかしても聞き入れてくれず、わらしさまが3日間のハンストを決行した挙句の果てに買い取ってしまった病院がここだ。
結婚を機にデザイン事務所は退職した。悠ちゃんは、彼氏さんとの結婚と同時に独立して家庭と仕事を両立させていた。カハクちゃんが世話をする庭は、近所でも評判で、オープンガーデンとなって久しく、最近では遠方からも見学に来る始末。史上最年少で尻尾が9本になった稲荷様は、たくさんの弟妹弟子を連れて我が家にご飯を食べに来た。面倒見のいい事である。念願の仙狐となったチコちゃんは日本中の神社で修業を積んではご当地名物をお土産に持ってきてくれた。
妖力を貯めまくったわらしさまは、体長3Mになり、存在感薄い座敷童から、存在感ありまくりの座敷童にジョブチェンジしていた。……よくここまで育ったものだ。
男の子2人女の子1人を年子で産んだ私を相変わらず嬉々としてお手伝いしてくれるわらしさまは、スパダリならぬスパワラだ。
子供たちを育て上げ、時間に自由ができた頃自家用ジェットをわらしさまが買ってきた。この頃になると近隣の土地を買収しまくって広大な土地が我が家の所有地となっていた。昔見た綾小路家の数十倍はあると思う。
いろんな国を『チームわらし』with大介と旅をした。その度にわらしさまが「のりちゃん、あの写真集のおばあちゃんより幸せ?」と聞いてきた。たくさんの思い出とたくさんの約束。天涯孤独で不安に苛まれていた28歳の私に、家族を作ってくれたわらしさま。孫の顔どころか、ひ孫の顔も拝めた。もちろん、ひ孫たちにも『おばぁちゃんの梅干し』は、しっかり伝授してある。だからわらしさま大丈夫だよ。私が死んでも私の家族が小豆ご飯以外の美味しいご飯を食べさせてくれるよ。
ベットにしがみついてわんわん泣くわらしさま。
「のりちゃん死んじゃいやだ。お願いだからいなりが持ってきたこの桃食べてよ。」
不老長寿の桃だそうだけど、私は十分自分の人生を謳歌した。あの世で大介も待っている。
「わらしさま一生養ってくれてありがとうね。私世界で一番幸せなおばあちゃんだよ。次の人生もわらしさまの住む家に生まれて来るから少しの間待っていてね。」
「指切りげんまん?」
「指切りげんまん。」
私はわらしさまと最後の約束をした。
最後までのりちゃんとわらしさまの飯テロにお付き合いいただきありがとうございました。
割り込み投稿がやっと理解できたので、番外編以外にもわらしさまとできなかった七夕エピソードなどもそのうち加筆したいと思っています。座敷童子シリーズ続編『座敷童が毎日小豆ご飯でもいいと言っています。』は、のりちゃんとの最後の約束を心の糧に生まれ変わったのりちゃんとの再会を首を長くして待っている物語です。




