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座敷童が小豆ご飯に飽きたと言っています。  作者: ヴぃc
第3章 たくさんの幸せを見つけるゾ
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生春巻き

 スマホから大音量で流れる警告音に驚いているとスピーカーから甲高いわらしさまの声が響いた。


「黙って聞いてたら、調子に乗って厚かましい。のりちゃんから離れろっっ。二度とのりちゃんに近づくな。今度のりちゃんに近づいたら人狐(にんこ)を放ってお前にとり憑かせるぞ。」


 唖然としている勝。


「のり子こっちだ。」


 にゅっと伸びてきた小さな手は、お面をはずした稲荷様の手だった。

 稲荷様に手を引かれて電車から降りると改札を出た。街灯もない暗い裏道をどれくらい歩いたか分からなくなる頃、真っ暗な神社にたどり着いた。


「オレだけならどこからでも出入り出来るけど。のり子が通れる大きさの鳥居がここまで来ないと無かった。今日は特別だからな。」


 稲荷様と手をつないだまま鳥居をくぐると、灯りが煌々と照らされている我が家のリビングに立っていた。


「のりちゃんっっ。」


 シュルシュルと小さくなったと思ったら、とてて~っと走ってきて私にしがっみつくわらしさま。放り出されたiPadの画面には地図にポツンとスポットマークが付いていた。


「わらしさまただいま。今日も守ってくれてありがとうね。」

「今日は、みんなが居たから普段の訓練通りに行動できたんだよ。」


 あのゲームにそんな意味があったとは。


「わらし引きこもりだから、スパルタで鍛えた。あのゲームは外でGPSを追跡しながらコントローラー動かす練習に丁度良かった。あいつの家の近所に年中花粉が飛ぶように植え替えしといた。」


 カハクちゃんの嫌がらせ地味そうだけど効果絶大だよね。『カハクちゃんを怒らせてはいけない。』心のメモ帳にそっと記した。


「あたしも人狐にあいつを監視するように命令しました。」


 凄い連係プレイ。あのゲームをさんざんやりこんだ成果を目の当たりにした夜でした。


 ◆◇◆


 一夜明けて外はザンザン降りの雨。3連休初日がコレって、旅行の計画してた人には気の毒だ。我が家は安定の引きこもりだから天気は関係ない。

 リンゴを4等分して薄くスライスしたものを水、砂糖、レモン汁を加えたお鍋でコトコト煮詰めているとゲームオーバーになったのか、カハクちゃんが背伸びをしてお鍋の中をのぞき込んできた。


「のりこちゃん、何作っているの?」

「昨日のお礼にみんなのお土産作ってるんだよ。」

「ふ~ん。」

「お昼ご飯の準備する時は声をかけるからもうちょっとみんなと遊んでおいで。」

「何が出来上がるか楽しみにしてる。」

「楽しみにしててね。」


 煮詰めたリンゴの粗熱がとれたら、冷凍パイシートを縦に切り、麺棒で伸ばしてリボン状にした。そこにリンゴを1枚ずつ並べてぐるぐると渦巻きにして立たせる。ちょいちょいとリンゴの皮が外に開くよう調整して天板に並べていく。並べ終わったらオーブンで焼くだけ。手抜きアップルパイだ。


「そろそろお昼ご飯の用意始めるよ~。」

「「「「は~い。」」」」


『焼き師』わらしさまには牛肉を焼肉のたれで焼いてもらう。紫キャベツ、キュウリ、人参、レタス、アボカド、シソ、パプリカ、プチトマト、サーモン、生ハム、チーズを稲荷様とチコちゃんが切り、カハクちゃんが大皿に盛り付けていく。チコちゃんが増えて、満遍なくお手伝いを割り振れるか心配してたけど、それぞれ適材適所でそんな心配は杞憂に終わった。

 私は、スイートチリソースとマヨネーズを混ぜたり、おばぁちゃんの梅干しを潰してみりん、ナンプラー、スイートチリソースを混ぜたりしてソースを作っていた。


 食卓に着いた4人が真剣な眼差しで私の手元を見つめていた。上手に巻けるかちょっと緊張するぜ。

 霧吹きでお皿を濡らしてライスペーパーを乗せる。表も霧吹きで濡らしてふやけるのを少し待つ。ライスペーパーがふやけたら芯にする具をのせてお手紙巻きを1巻きして、シマシマになるようアボカド、サーモンを置いたら、最後まで巻く。コツは少し引っ張りながら巻く事だ。

 4人はそれぞれに持った霧吹きでライスペーパーをふやかしていた。食べれれば何でもいいとばかりに、わらしさまと稲荷様は不格好な生春巻きにかぶりついていた。もうクレープ巻きでもいいんじゃないかと思うような出来上がりだった。美術担当のカハクちゃんは模様をあれこれ試してぴっちり巻いていた。巻くのが楽しいのか食べずに黙々と美しい模様の生春巻きを生産していた。チコちゃんは1回模様巻きに挑戦したら満足したらしく普通に具を巻いて食べていた。

 生春巻きパーティー大成功でよかった。


 リンゴが薔薇になったアップルパイをお土産に渡したら3人は大喜びで帰っていった。

『チームわらし』のメンバーよ勝から守ってくれてありがとうね。



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