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座敷童が小豆ご飯に飽きたと言っています。  作者: ヴぃc
第3章 たくさんの幸せを見つけるゾ
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天ぷら

 事務所から地下鉄で二駅目で降りたみゃーみゃー市の玄関は、三連休前の金曜日の晩だけあって、どこからこんなに湧いてくるんだろうと言うくらいの人で溢れかえっていた。このお店の掲載ページの交通手段の欄に『スキップ2分』って書いてあるから、実況見分してみようなんて社長が冗談を言っていたが、こんなにうじゃうじゃ人が居たらスキップどころかまともに歩けやしない。目の前をちんたらちんたら横に広がって歩く集団が後を絶たない。もっとスマートに歩けないのだろうか。

 距離としては駅の近くなのに、人込みに流されてお目当ての店に着くのに時間を要した。


 店内は賑わっていて、活気にあふれていた。みんな美味しいお店をよく知っている。冷たいおしぼりが差し出され飲み物の注文を聞かれた。社長はジンジャエールを頼み、私はウーロン茶を頼んだ。美味しいお店に来て炭酸でお腹を膨らますわけにはいかない。

 天ぷら屋さんだと思ったら、海鮮料理が豊富な居酒屋さんだった。


「手が魚臭くなっても良ければ、『海鮮なかおち焼き』はお勧め。」

「社長のお勧めは食べなくちゃ。」


 どうせ家に帰るだけなんだから手ぐらい魚臭くなったって平気さ。

 天ぷらと、お寿司は数量を備え付きのメモ用紙に記入してオーダーするシステムだった。

 エビは外せないし、サヨリはどんな味だったけ、無難にキスにしておこう。長芋の天ぷら食べたことないや。よし注文しよう。社長と顔を突き合わせて、何の天ぷらを食べるか相談する。4人くらいで来るといろんなメニューをシェアできるけど、今日の胃袋はたった2つ。吟味しないと食べきれなくなってしまう。

 付け出しの『ペペロンチーノ風枝豆』をかじりながら、社長とどうやって皮付きの枝豆にニンニクとオリーブオイルを浸み込ませているんだろうと意見を出し合った。

 壁に貼ってあるお品書きを見つつ、ぐるりと店内を見渡せば、会社帰りのサラリーマンばかりだ。あ、『牛すじと豚もつの土手煮』家で作るには手間暇かかるこいつは絶対頼まなくちゃ。

 バットにデーンと縦に盛られた天ぷらが店員さんによって運ばれてきた。

 で、でかい。


「天つゆはそのポットに入っていますから。大根おろしはこちらです。」


 スプーンが添えてあるタッパーに入った大根おろしをてきぱきとテーブルに置いて厨房へ戻って行った。繁盛店は店員教育も行き届いているんだね。


「社長エビ大きいですね。」

「カボチャも、長芋もおおきいでしょ?」

「食べきれるか心配になってきました。」

「この前来た時『海鮮なかおち焼き大』を頼んだら拷問じゃないかってくらいの尋常じゃない量のなかおちが積まれた皿が来て唖然としたよ。」


 大根おろしをたっぷり入れた天つゆにサクサクのエビ天を浸しながらその時の様子を語ってくれた。

 前回の経験から『海鮮なかおち焼き小』を頼んだはずなのに、小でも結構な迫力のある量だった。カニを食べに行った時のように二人とも無言になり骨に付いた身を黙々とこそげ落とした。

 もうこれ以上は一口も入らないくらい食べた。よくもあれだけの量を2人で食べきったと感慨深い。


 駅で社長と別れて電車に乗った。

 大抵入り口付近でもたれて立つ人が居て窮屈だから、真ん中辺りの座席に座った。始発駅だから座れるので楽ちん。スマホを取り出してLINEに送られてきたダムカレーの写真を見ていると、まだ座席がたくさん空いているのに、隣に誰かが座った。ちらりと横を見ると、勝だった。


「こんな時間までどこに行ってたんだ?」

「私がどこで何をしようと勝には関係ないでしょ。」

「そうトゲトゲするなよ。この前のアレ何?のり子の家に居たはずなのに、突風が吹いたら駅の改札口に俺立ってたんだぜ。お前の家呪われているんじゃないか?」

「ばかばかしい。」


 呪われているんじゃなくて妖怪が住み着いてるんだよ。


「明日、友達の結婚式があるからコッチに帰ってきたんだけどさ、お前三連休どうせ暇だろ?式が終わったくらいの時間に駅で待ってろよ。大阪の俺の部屋に連れてってやるから、部屋片づけて飯作ってくれよ。」


 そのとたんに警告音が鳴り響いた。




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