クリームコーンの中華スープ
拙作をお読みいただき、ブックマーク、評価、感想をありがとうございます。活動報告に更新の予定を書きましたのでよろしくお願いします。
林さんにアツくおすすめされた本を読んでいたら、余りにも文字に込めた情報量が多くて、クライマックスにのめり込み過ぎバスを乗り過ごしてしまった。『素馨』『マツリカ』一度だけルビが『素馨』『茉莉花』同じ植物を表現する言葉をここまで使い分けた作品を私は1度も読んだ事が無かった。しかも1400ページ以上ある超大作。そしてデビュー作でメフィスト賞を受賞してるモンスター級の作品だった。クっもっと早く出会いたかった。早急に外伝を注文しなければっっ。
クライマックスを読み終えてこれはもう一度読み直して、自分が気が付かなかった伏線を探さなくては。牛読決定である。頭の中で騒がしく一人感想会をしながらバス停2個分の乗り越した道を歩いて戻る。
夜になると涼しい風が吹くので歩いても苦ではない。長い塀が続く歩道をたらたら歩いていると、LINE電話の呼び出し音。
「もしもし。わらしさまどうしたの?」
「のりちゃん、その塀の長い家、僕が前住んでいた所だよ。」
興奮気味にまくしたてるわらしさま。
「あの小豆ご飯の?」
「うん、小豆ご飯しか出てこなかった家。GPSでのりちゃんがいつもと違う道を移動しているのを確認したから、グーグルマップをストリートビューにして危険な道じゃないか検証してたから分かったんだ。こんなに近くだったなんて僕びっくりしちゃった。」
「心配かけてごめんね。本読んでたらバス乗り過ごしちゃった。」
「気を付けて帰ってきてね。」
「ありがとう。もうちょっと晩ご飯待っててね。」
安全のためにインストールしたアプリは、十分機能していたようです。表札だけでも拝んでいくかと思い塀の切れ目を目指した。
黒い格子の門扉は私の身長よりも遥かに高い。門扉の奥にはイングリッシュガーデンが広がっていた。エントランスが長く続き玄関までは結構な距離がありそうだ。アルファベットが立体的に打ち付けられた壁には『AYANOKOUZI』。名前からしてお金持ちっぽい。綾小路さん、わらしさまをグリンピースご飯でたぶらかしてしまってごめんなさい。どうかこれからは自力で栄華を極めてください。決して没落したりしないようよろしくお願いします。南無南無。神妙な面持ちで札に手を合わせた。
自己満足なお願い事をした後は、不審者に間違われないようさっさと退散して家路を急いだ。
「わらしさまただいま~。」
「のりちゃんおかえり~」
とてて~と駆け寄ってきて、私の顔を見て安心したように笑った。
「さぁ晩ご飯つくろうね。」
「今日は何ご飯?」
「今日は青椒肉絲と、中華スープだよ。」
わらしさまはお肉係になりたいというので、細切りにしたお肉に片栗粉をまぶしてもらっている。その間にピーマンを千切りにして水煮の細切りタケノコの水を切る。
わらしさまはガスコンロの前に立っても危なくない身長になったから今日はフライパンデビュー。
「わらしさま、先にピーマンとタケノコを炒めたら、お皿に移して、お肉だけ炒めて、青椒肉絲の素と絡めたら、ピーマンとタケノコをフライパンに戻して炒めてね。」
「イエッサー。」
初めてのフライパンデビューにワクワク顔。子供って切るより焼くが好きだよね。大人になった気分なんだろうか。
わらしさまの隣で中華スープを作る。
お鍋に水、コーンクリーム缶、鶏がらスープの素を入れて火にかける。沸騰してきたら、塩を入れてひと煮立ちさせ、水溶き片栗粉を加えとろみがついたら溶き卵を回し入れてもう一度ひと煮立ちさせる。これでクリームコーンの中華スープ完成です。
「のりちゃんできたよ。」
「お皿によそって食べよう。」
青椒肉絲のお皿と、中華スープのカップを並べたら、
「「いただきます。」」
初めて炒めた青椒肉絲を、私が食べるのを待っているわらしさま。
「のりちゃん、僕の作った青椒肉絲美味しい?」
身を乗り出して聞いてくる。
「わらしさまの作った青椒肉絲とっても美味しい。」
「本当?良かったぁ。」
青椒肉絲の素使ってるんだから誰が作っても安定した味だがな。うん。白米が進む。
「のりちゃん、このスープ卵がふわっふわ。なんだかとうもろこしの味がする。」
「大正解。トウモロコシをすりつぶしたクリームが入っているんだよ。」
クリームコーンのスープと言えば牛乳で伸ばすレシピの方が多いけれど、私はこの中華スープが一番美味しいと思っている。それからは、今日見てきた綾小路家の感想を言ったり、わらしさまが住んでいた頃の話を聞いたりした。
なんと綾小路家、鹿のはく製が壁にかけてあるんだって。建物自体西洋風だったけど、屋内も西洋風なんだ。でも住んでるのは日本人。想像するだけでシュールだった。




