オレとわらしの攻防戦
境内を散策していたある日の晩、膨れ上がった妖気に総毛だった。異様な妖気の流れは、わらしんちの方角。
のり子は大丈夫だろうか?わらしの家主であるのり子は、のん気なのか神使であるオレや妖怪のカハクちゃんまで普通に出迎えてご飯をふるまってくれる貴重な存在だ。この前のお好み焼きもうまかったなぁ。
夜が明けたら一応わらしんちの安全確認に行こう。夜中に家に押し入るような非常識なことはしないオレ様は常識人だからな。
夜が明けてのり子の家に着いたオレは、わらしにLINE通話でドアを開けるように言う。
「いなりどうしたの?」
「わらし、昨日の晩。」
「そうなんだよ。昨日の晩はピザだったんだよ。僕ねお昼間のうちに庭のバジルをたくさん摘んでのりちゃんの帰りを待ってたら、ちぎったバジルに大喜びしたのりちゃんがピザを作ってくれたんだ。」
「ピザってバイクが運んでくるもんじゃないのか?」
「違うよ。ピザ生地に好きな具材のっけて焼くんだよ。だからチーズを多くしたり、カリカリベーコン乗せたり、自分好みにカスタマイズできるんだよ。」
「この前のお好み焼きみたいに具を好きに選べるのか?」
「そうだよ。タバスコもかけてもいいし、かけなくてもいいんだよ。僕は断然かける派だけどね。」
なんだかドヤ顔のわらしにイラッとした。
「そんなことよりも昨日の晩。」
「そんなことじゃないよ。大事なことだよ。のりちゃんは毎日毎日僕に美味しいご飯を作ってくれるけど、ピザは熱々で好きな具をのせた生地が焼きあがる前に食べちゃわないと、冷めちゃうから時間との闘いなんだ。」
「そんなに急いで食べなければならないのか?」
「のりちゃんは、ちょっと焼くの後にしようか?って聞いてくれたけど、僕は次のピザはどんな味だろうって気になって早く食べたくてもう焼いていいよって言っちゃったんだ。」
「そんなにどんどん食べたくなるくらいうまいのか?」
「どんどん食べたくなるくらい美味しかったよ。」
チクショウピザが無性に食べたくなった。
それからは、わらしと対戦ゲームしたり、のり子の電子書籍を二人で読んだりした。
「ただいま~」
のり子が帰ってきた玄関までダッシュする。
「のり子オレもピザ食べたい。」
「稲荷様いらっしゃい。ピザ生地が無いからなんちゃってピザでもいい?」
「許す。」
「のりちゃん、僕バジルちぎってくる!!。」
「オレも手伝ってやる。」
「それじゃぁ2枚ずつ摘んできてくれるかな?」
わらしと先を争うように庭に出る。
「いなり2枚しかちぎっちゃだめだからね!!」
「オレは吟味してちぎるから大丈夫だ。」
「あ、そっちはハゲ坊主にならないようにこっちのバジルちぎりなよ。」
「うるさいなぁ。この葉っぱが大きくて分厚いからこれがいいんだよ。」
「僕はこれとこの葉っぱにする。」
「先に行くぞっ。」
「いなりずるいよ。」
玄関で靴をそろえてたら、わらしに先を越された。
「のりちゃんバジル取ってきたよ。」
「のり子オレのバジルの方が絶対うまいぞ。」
「2人ともありがとうね。テーブルのホットプレート温めてきてくれる?」
今度はわらしに後れを取らないぞとダッシュでテーブルに向かう。僕がやるんだというわらしを押しのけてホットプレートを温めることに成功した。流石オレ様。
餃子の皮にトマトピューレを塗ってオレが摘んできたバジルとコーン、ベーコン、それからチーズをどっさり。だけど、餃子の皮は小さいから具がはみ出ていく。ぐぬぬぬぬ。
「これだけ餃子の皮があるから1枚ずつ違う具を乗せたらいいと思うよ。」
「のり子いい考えだな。」
「この間みたいに陣地争いしないでね。」
「「は~い。」」
「焼けるまでの間にこのドロッとしたソースを野菜につけたり、こっちのオイルと具をバゲットに乗っけたりして食べて待っててね。」
セロリをかじってみたら苦くて辟易したけれど、このドロッとしたものを付けて食べると驚くほどうまかった。パンにしめじと玉ねぎをすくって乗せたのもうまくて、何枚でも食べれそうだ。
そろそろなんちゃってピザも焼けたころか?のり子に聞いたらもう焼けてるというからハフハフしながら食べた。もちろんタバスコも忘れずかけた。そう言えばオレが今日来たのはピザの為じゃなかった。わらしのピザ自慢に煽られて本来の目的を忘れていた。
「昨日の晩、のり子んちの方角から物凄い妖気が発生してたから、心配して見に来たのに、わらしがピザの自慢ばっかりするから、ピザが食べたくなった。」
忘れていたことを悟られたくなくてしかめっ面でそう言えば、
「そんなおどろおどろしい物が漂ってたの?わらしさま何かあったっけ?」
「昨日、のりちゃんちに勝手に上がってきた男の人がいたからぶわってやって追い出したよ。」
そう言いながら両手を下から上にぶわっとあげる動作をした。
「あ~あれかぁ。」
「わらしそんなに妖気出せるようになったのか?なんだか背も伸びてるし。」
「やっぱり私の思い違いじゃなくてわらしさまの身長高くなってるよね?」
「くそ。オレよりちびだったくせに生意気な。」
ピザで口をいっぱいにしながらもごもごしていたわらしは、
「僕、毎日小豆ご飯しか食べれなかった頃はやる気も出なかったけど、のりちゃんの美味しいご飯毎日食べてたら、すっごくすご~~~~くやる気が出たんだ。お手伝いもいっぱいしてるし、ね、のりちゃん。」
「のり子のご飯で背が伸びて妖力も上がったのか。」
「稲荷様、ご飯で妖力上がるの?」
「そんな話聞いたことがないけど、実際わらしの妖力は上がってる。」
「僕いっぱいいっぱいご飯食べて大きくなってのりちゃんの事守るんだっっ。」
スティックキュウリをぶんぶん振り回すわらしを見ていたら、身長抜かされたこともどうでもよくなった。
のり子のうまいご飯を食べて妖力が上がるならオレも足しげく通うことにしよう。それにわらしだけに任せておいたらのんき者なのり子が誰かに危害をくわえられるかもしれない。
いつでも飛んでこられるようにのり子の家に鳥居を建てて帰宅した。




