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座敷童が小豆ご飯に飽きたと言っています。  作者: ヴぃc
第2章 仕事も私生活も楽しむゾ
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人参のガレット

 両肘に食い込んだスーパーの買い物袋が地味にライフゲージを削っていく。あれもこれもと欲張って買い込み過ぎてしまった。敗因は暑さに負けて買い出しを1回で終わらせようとした事だ。背中にじっとりと汗がにじみ出てきた。熱中症になる前にさっさとお家へ帰ろう。ジリジリと照り付ける太陽を一身に浴びて、アスファルトの照りっ返しを忌々しく思いながらえっちらおっちら歩いて帰った。


「ただいま~。」

「「「おかえりなさ~い。」」」

「稲荷様、カハクちゃんもいらっしゃい。」

「のりこちゃん、ばーべきゅーの後花火もするの?」

「花火も買ってきたよ。」

「線香花火で競争しようぜ。」

「いなりには負けないっっ。」

「私もいなりに勝つ。」


 カハクちゃんまで稲荷様と張り合いだしたよ。何か負けん気魂みたいなオーラをしょっているんだろうか?


「のり子、いつバーベキューするんだ?早くやろうぜ。」

「稲荷様こんなに暑い時間に火を焚いたら溶けちゃうよ。夕方、日が陰り始めたらバーベキューを開催します。」


 3人は夕方まで待ちきれないようでソワソワしているけど、今から始めたら確実に死ぬ。アブナイアブナイ。こんな時は部屋が涼しく感じるように、飢えた白熊がえさを探すために溶けかけた氷を渡る、イギリスのドキュメンタリー映画でも再生しよう。わらしさまが引きこもりでも、世界とは繋がってる。自宅にいながら旅行気分はいくらでも味わえる。いい時代になったものだ。ドローンを買ってあげたら、ガチ勢ばかりの青と緑の陣地を取り合う位置ゲーもプレイできるんじゃないかな?


 人参をスライサーで千切りにしていたら後ろから甲高い声。


「のりこちゃん、何作ってるの?」

「3時のおやつだよ。」

「人参がおやつなの?」

「そうだよ。びっくりするくらい甘い人参のおやつなんだから。楽しみにしてて。」

「私もお手伝いする。」

「じゃぁこの人参に片栗粉と小麦粉かけてくれる?」

「は~い。」


 カハクちゃんは動物の生態を見学するよりお料理する方が楽しいようです。

 人参全体に粉がいきわたったら、後は焼くだけ。バターを溶かしたフライパンにドカッと人参を入れてじっくり焼いていく。焦ってひっくり返すとバラバラになるのでじっくり固まっていくのを見極める。


「のりこちゃんまだひっくり返しちゃダメ?」

「もうちょっとくっつくまで待ってね。」

「こげないの?」

「こげない魔法のフライパンだからカハクちゃん安心して。よし。ひっくり返していいよ。」

「よいしょっと。」

「綺麗にひっくり返せてね。」

「本当に焦げてない。」

「反対側もじっくり焼こうね。」

「どんな味なんだろう?」

「うん。焼き上がりを楽しみにしてね。」


 6等分に切り分けたら、簡単お手軽なおやつもちもちで甘~い人参のガレットが完成です。


「のりちゃん、美味しそうなにおいがする。」

「かはくちゃんと2人で何作ってるんだ?」


 香りにつられて食いしん坊2人組が台所をのぞき込んでいた。


「おやつの時間ですよ~。コップにコーラ注いでね。」

「オレがやる。」

「じゃ、僕はお皿とフォーク出す。」

「今日のおやつはカハクちゃんが焼いてくれたんだよ。」

「私、綺麗に裏返せた。」


 食卓に並んだ6つの瞳が一体どんな味なんだろうと半信半疑で人参のガレットを見つめている。

 では手を合わせて


「「「いただきます。」」」

「わぁ本当に人参が甘い。」


 目を輝かせて食レポを始めるカハクちゃんとは打って変わって食いしん坊2人組は無言でもぐもぐ口だけを動かしていた。

 そうであろう。そうであろう。人参嫌いですらひれ伏する美味しさの人参のガレット。ぐうの音も出ないであろう。

 いたずらが成功したような小気味がいい達成感を味わいながら、バーベキューの下ごしらえにとりかかった。

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