餃子前編
初出勤から1週間が過ぎ、満員電車の往復にも仕事にも慣れたと思う。林さんコト、イケメン眼鏡とも共通の趣味を通じて苦手意識も克服できた。社長は事務所に居たり居なかったりだけど、アラフォーなのに、ふにゃんとした優しい雰囲気が癒し効果抜群でマイナスイオンみたいな存在だ。
「渡辺さん今日のお弁当も美味しそうだね。」
「缶詰のミートソースぶっこんだ手抜き料理だよ。」
進化した私はタメ口も利けるようになっている。人間の慣れるスピードってマッハだね。今日はなんちゃってタコライスなのだ。ご飯、ちぎったレタス、ミート缶にタバスコ混ぜてとろけるチーズ、目玉焼き。10分もかからず、包丁も使わない手抜き弁当なんだけど、何故だか時たまこのチープさが無性に食べたくなるんだよね。
「のり子一口。」
「ほんとインスタント料理なんだけど、どうぞ。」
悠ちゃんにお弁当箱を差し出す。
「タバスコがきいてて美味しい。冷めた白米が嫌いでお弁当苦手だったけど、こうやってのり子の持ってきている弁当見てると、食べたくなるね。外食やコンビニは飽きてくるもん。」
「悠ちゃんは、毎日っ事務所じゃないからどうしても外食やコンビニになっちゃうよね。事務所には電子レンジもあるんだし、お昼一緒に食べれる日があったら前の日にLINEしてくれれば、悠ちゃんの分も作るよ。」
「のり子アイシテル!!!」
「田中さんだけずるい。」
「いやいや、林さんは彼女さんにでも作ってもらえばいいじゃん。」
「そうだよ。のり子は、私のモノなんだからね。」
「相方料理苦手なんだよ。」
「いっそ林さんが料理男子になればいいんじゃない?」
「そうだよ。林君手先器用だから料理もいけるって。」
「自分でつくっても味気ないじゃん。」
そんなやり取りができるくらいに馴染みました。
◆◇◆
日が長くなって定時で地元に戻ってきてるはずなのに、早退したようで落ち着かない。今晩は何作ろうかなと冷蔵庫の中身を思い出していると
「のりちゃーーーーーん。キャベツ持っていきな。」
「わぁ。大きなキャベツだね。おばちゃんいつもご馳走様。」
「葉物は足が早いから調理してから冷凍しなさい。」
「ありがとう。」
大きなキャベツを2玉も貰ってしまった。
これは餃子パーティーするっきゃないよね。だがしかし、今日は気になってたちゃんぽん春雨の素を使わせてもらうっっ。スーパーでちゃんぽん春雨の素を見つけた私としては、どんなもんか味見したくなったのだ。ひき肉と餃子の皮も忘れず買う。明日は土曜日、引きこもりデーにするんだもんね。
「わらしさまただいま~。」
「のりちゃんおかえり~。」
わらしさまが元気に出迎えてくれるだけで、1日の疲れも吹き飛ぶわ。
「今日は珍しいもの見つけたからこれを作りたいと思います。」
「ちゃんぽん?」
「そう。長崎名物なんだよ。麺が春雨になってるからどんなもんかなと思って買ってきたの。」
「どんな味なんだろう。のりちゃん早くつくろっっ。」
作り方を見ながら手順道理にしていると、明らかに春雨だけじゃぁ量が少ない。
「わらしさま冷凍庫から焼きそば1袋出して1分チンしてくれる?」
「アイアイサー。」
困ったときの冷凍焼きそば。特売の時に多めに買ってはもやしと同様にせっせと冷凍してストック食材にしてる。思い返せば1人ご飯がめんどくさくて、豚肉もやし焼きそばが食卓に上がる回数が多かったな。わらしさまがうちに来てからは、献立を考えるのも作るのも楽しくてしょうがない。
焼きそばの麺を量増ししたちゃんぽん春雨と、わかめスープで今日のおうちご飯完成。
「「いただきます。」」
味は、麺が春雨になっただけで、普通のちゃんぽんの味だった。時間がない時には使えるなと考えながら、
「わらしさま。明日か明後日カハクちゃんと稲荷様を呼んで餃子パーティーしない?」
「餃子パーティー?」
「近所のオクサマにキャベツ2玉も貰ったの。せっかく餃子するならみんなで食べたほうが楽しいと思うんだよね。」
「すぐLINEするっっ。」
「ご飯食べ終わってからでいいよ。」
「餃子パーティー明日したいから今LINEするっっ。」
そんなに楽しみにしてくれるとは思わなかった。皮に包んで焼くだけの地味~な作業なんだけど、前の家で友達を招けなかったわらしさまにとっては、友達が遊びに来るのは一大イベントなのかもしれない。
「明日朝から来るって。のりちゃんお泊りいい?」
「モチロンお泊り大歓迎だよ。」
「やった~~~~~。」
大はしゃぎのわらしさまや、落ち着いて残りの夕飯お食べ。明日の我が家は更ににぎやかな食卓になるようです。




