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座敷童が小豆ご飯に飽きたと言っています。  作者: ヴぃc
第1章 アラサー無職彼氏ナシから頑張るゾ
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ごぼうカレー前編

 社長というので結構なおじさんを想像していたけど、職業柄なのか38歳のわりに若々しく、とてもアラフォーには見えなかった。穏やかな笑みが印象的な方で見た目通りというべきか、社長のソフトな話術ですぐに緊張もほぐれた。

 細かい条件を聞いたけど、そこまでスキルが無くてもできる程度の仕事を割り振ってくれるそうなので、やっていけそうな気がして明日から採用されるはこびになった。

 クリエイターさんは取材や打ち合わせがあるのでフレックスタイムだが、私は9~17時の勤務。忙しい時は残業もあるかもという扱いに決まった。明日の仕事内容や、保管場所など説明してもらい、諸々の書類手続きは追々進めてくれるそうだ。

 急展開の1日で疲れたから今晩の夕飯はデパ地下のお惣菜で手を打つことにした。


 デパ地下のお総菜コーナーって何でこんなにウキウキしちゃうんだろう?割高なだけあって、手間暇かかて見栄えも美しいお惣菜が選びたい放題。どれにしようか迷っちゃう。この人込みを押し分けて目当てのお惣菜を探すのは体力を奪われる反面気力がみなぎってくる。

 ローストビーフは絶対買う。わざわざ電車を乗り継いで食べに行ってたお店の手作りローストビーフが、仕入れたローストビーフに変わったから、美味しいローストビーフに飢えていたのだ。三越のローストビーフはパックに入ってると少なく見えるけどお皿に並べるとたくさんになる。そして美味しい。だから絶対に買う。

 後は、いろいろお惣菜盛り合わせのやつにしよう。女性はちょっとずつ色々食べたい欲張りな生き物だからな。

「今から帰るね」とわらしさまのLINEに送信して日曜日なのに都会の電車は混んでいるなぁ、明日からは通勤ラッシュでもみくちゃになるのを覚悟しておかねばなるまい。


 帰宅した我が家に灯がともっている事にほっこりしながら玄関のドアを開けた。


「わらしさまただいま~。」

「のりちゃんおかえり~。」


 とてて~と走ってくるわらしさまの手にはiPad。


「見て見てほら、これレア中のレア。最後ギリでいなりとGETできた。」

「よかったねぇ。」


 なんかイベントの度に稲荷様と2人で合宿してる未来が見えたよ。

 テーブルに総菜を並べてる間に、どれだけレアを手に入れるために苦労したかを切々と語るわらしさまの目はお惣菜にくぎ付けだった。私はコホンと咳払いして厳かに伝える。


「今日は重大な発表があります。就職先が決まったので、奮発して食後のデザートはケーキです。」


 ぱああって効果音が聞こえそうな勢いでわらしさまが満面の笑顔になる。


「のりちゃんおめでとう。僕お留守番がんばるっっ。」

「わらしさまありがとう。お留守番よろしくね。」


 その後は、見た目では味の想像がつかないお惣菜たちをあーでもないこーでもないと感想を言いながら平らげた。久しぶりに食べたケーキもほっぺたが落ちそうなくらい美味しくてちょっぴり贅沢な就職祝いとなった。


 今日はもう一つ重要なミッションが残っている。

 明日の晩ご飯づくり。

 大鍋を出してきて、細かく刻んだごぼう、人参、玉ねぎ、ひき肉、カットトマト、ローリエ、水を入れてしばらく煮込む。缶詰を洗って分別するのが手間なので、私は紙パックを愛用している。

 カレーは時間がない時に作る料理だと思っている人もいるが、カレーとシチューは出来上がったら一旦火を止めて一晩寝かせた方が断然美味しいので、我が家でカレーやシチューを作るのは前日の晩と決まっていた。

 明日の晩が楽しみ。火が通るまでにカレールウ2種類を包丁で細かく刻んでいく。こうするとだまになりにくい。溶け切ってないルウを口にする事故防止対策だ。

 ふたを開けてあくを取ったりローリエの葉を取り除いたりしたら、きざんだルウと焼肉のたれを投入して溶けるまで弱火で煮込んだら今日の作業はおしまい。

 冷めたら朝野菜室にこのお鍋は保管されるのです。

 わらしさまと出会って調度1週間。先週の月曜日は無職だったのに明日からは、正社員。座敷童のもたらすご利益の大きさに頭が上がりません。

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