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魔王のすゝめ  作者: ぷにこ
第五章 魔王と猫の国 後編
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第84話




「ホント、アンタってば話題に事欠かないわよね。退屈しなさそうで羨ましいワ」


「そんなに良いことばかりでもないぜ」



 肩をすくめ、呆れたようにため息をつくガーランド。少女を抱いて路地裏を出たところで運良く合流を果たした俺達は、ひとまずエリザベスが休んでいる宿屋へと向かっていた。


 ちなみに、あの衛兵たちはガーランドと共に居たロジャーに事情を話して引き渡し、後処理を任せることにした。


 曰く、彼は言葉の中の嘘を見抜く力を持っているらしく、包み隠さず見たままの情報を話した所、するりと信用してもらうことが出来た。あいつらは、怪我の治療が済み次第、追放処分になるだろうとのこと。


 姫が人攫いの一団に攫われたかもしれないという話もしたが、それについては既に把握しているらしい。流石は魔眼王の息子である、が、どうやらあの連中も手練であることは間違いないらしく、詳しい足取りは掴めていないという。


 こちらについては、この国で一番の魔術師であるクロマが復帰しないことにはどうしようもないと。全く、突然忙しくなった。少し前までは退屈だったのにと、ロジャーはくたびれた様子でため息をついていた。


 恐らくは難民たちの世話をするにも手一杯であろうロジャーの気苦労を考えると、少し同情してしまう。


「……ところで、ガーランド。見覚えのある宿が見えてきたんだが」


「ええ、そうよ。言いたいことは分かるワ。ま、そういうこともあるわよね」


 ため息をつく。連れられるままたどり着いたその宿は、先程俺がリリアとエミリーと共に訪れたまさしくその場所であった。


「このお宿、ここらじゃ一番評判のいい宿なのよ。お部屋も綺麗で、ゴハンも美味しいってネ。エリーはそういうトコじゃなきゃ嫌だって言うから、あたしたちの宿もここにしたのよ。まさか、ギルバートがちょっと見ないうちに知らない女の子連れて来るとは思わなかったケド」


「確かに評判が良かったからここにしたんだが……まさか本当に同じ宿だったとはな。どうしてもっと早く言わなかった」


「言うタイミングが見つからなかったのヨ。さ、入りましょ」


「あ、あぁ」


 宿の前で顔を見合わせて肩をすくめ、並んで足を踏み入れる。それと同時に焼いたケモノ肉の野性味に溢れる匂いが鼻を掠め、受付の猫が頭を下げた。


「いらっしゃいませにゃ。三名様で…………っと、失礼致しました。おかえりにゃさいませ、ですにゃ。お部屋の追加は」


「必要ない。ところで、この匂いは」


「あぁ、ちょうど今、夕食の用意ができた所でして。お連れ様を食堂にご案内(あんにゃい)したところですにゃ。ささ、どうぞ。そちらの一回り大きにゃ扉でございますにゃ」


「分かった。ありがとう」


「う~ん。いい匂い。たまんないわ」


 指し示された扉を開け放つと同時に、押し寄せる強い香り。広々とした食堂の中央、轟々と燃え盛る火柱に炙られる肉塊と、それを囲むようにして並ぶ席とテーブル。皿を手にした客たち。床から一段高い肉焼き場には剣を手にした猫が踊り、その華麗な剣さばきで切り落とした肉片を刺し貫いてポーズを決める。わっと歓声が上がった。


「あら、あらあら。楽しそうじゃない。あたしもお皿もらってこようかしら」


「あ、あぁ」


 ガーランドが軽やかに立ち去り、俺は賑やかな雑踏から少し離れたところに立ち尽くす。



「……」


 さてどうしようかと胸に抱いた少女に視線を落とすと同時に、俺のものではない腹の虫が盛大に声を上げる。俺を見上げるその顔が赤く染まり、その体がぎゅっと強ばる。


「どうやら、食欲はあるらしいな。元気な証拠だよ」


「……っ」


 くっと笑うと、少女は赤い顔を背けて身を丸める。その時、見覚えのある人影が視界の端に写り込んだ。


「ギルバートさま!おかえりなさ――――」


「ギルバート、遅いわよ!アンタどこ行っ――」


 肉を積み上げた皿を手にしたリリアとエミリー。それぞれ言葉を吐き出そうとしたその表情が強ばる。その視線は、俺が胸に抱く見知らぬ顔に。そして俺が抱く少女もまた、どこか緊張した面持ちで二人を睨む。そしてすぐさま、三つの視線が俺に突き刺さる。思わず、ぎくりとしてしまう。


「……」


 そうして俺がぎこちなく笑うと、いつの間にか背後に居たエリザベスが大きなあくびをしてからくすりと笑った。


「また何か拾ったの?ギルバート」


「エリザベス。あぁ、怪我人を拾ったんだ。この子の手当をしてやってくれないか」


「はいはい、手当ね……もう、あと何人診れば良いのかしら」


 エリザベスはため息を付き、食堂の端に置かれた大きめのテーブルを囲む椅子に腰掛ける。その手がぽんと叩いた椅子に少女を座らせると、エリザベスは手慣れた様子でその四肢に触れ、無数の傷を一つ一つ確認してゆく。リリアとエミリーも席についた。


「怪我人を助けたってわけ?ギルバート、アンタさては相当なお人好しね」


「ギルバートさまは優しいんです。眼の前で怪我してる子がいれば、放っておかないのですよ」


「まあ、そう……そうだな。確かに……」


 俺の隣にいち早く座り、どこか自慢げにその平らな胸を張るリリアを横目に、俺はため息をつく。ちらりと目を向けると、エリザベスに撫で回されながら縮こまる少女が顔を上げた。



「君には、色々と聞きたいことがある。そうだな、まずは―――」

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