表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/30

エピローグ―親愛なるダニエル

お元気ですか?

私はあなたが想像する通り、毎日のんきに暮らしています。嘘だと思っても、信じるフリをして下さい。


ずいぶん遅くなってしまったけど、とても素敵な報告に、お礼を言わせて。私の心を幸せで満たしてくれてありがとう。


結婚おめでとう。私、ステラさんに会ったことないけど、彼女が素晴らしい人だって知ってるの。だってあなたが愛する人だもの。素晴らしいに決まってるでしょう。

私がどれほどステラとパトリックに会いたいと思っているか、あなたには想像もつかないでしょうね。一応、想像してみて。してみた? 私の気持ちは、その百倍大きいわ。もちろんそんな機会が訪れたとしたら、ダニエル、あなたのことを真っ先にハグしたいと思ってるわよ。当然でしょ。あわててこの言葉を付け足しているわけではないから。本当だってば。




ところで、私が家庭教師になったと言ったら、あなた驚く? 私の立派な家庭教師ぶりをぜひ、見せてあげたい。だけど難しいわよね。本当にすごいんだけど、別の国にいるんじゃ仕方ないわよね。とても優秀なんだけど、だって、ねぇ、残念。凄腕なんだけど。


ランドルフが突然帰郷して驚いたと思うけど、喧嘩の末に国外追放したわけではないから、安心して下さい。


彼はまだ不満そうだったけど、どうしても故郷で少しでも時間を過ごしてほしかったの。そう強く思うようになったきっかけを、あなただけに打ち明けるわ。


まず、悲しいお知らせをしなければなりません。おばあさまが亡くなったの。春の終わりのことよ。とても安らかだった。庭一面に咲いたクロッカスの花を窓から見つめていて、眠るように。


ささやかなお葬式をして、この、異国の地に埋葬した。私はなるべく、おばあさまのお墓を新しい花で一杯にするように心がけてる。


ランドルフはとても優しいの。もう知ってるわよね。


おばあさまとの思い出は少ないはずなのに、彼は私が頻繁に花を買うことに、文句ひとつ言わないのよ。ああ、そうそう、私たち結婚したの。これを最初に言わなくちゃね!


彼はお墓参りにもよく付き合ってくれる。それである日、彼が言ったの。おばあさまに歌を歌ってあげたらって。


私は『それがわたしの全て』を歌った。おばあさまが故郷に帰ってきた気分になれるように。

私いつも、この歌の発音を一か所間違えてしまうの。ランドルフは絶対に聞き逃さないのよ。古代語のこととなると、本当にうるさい!(本人には言わないでね)

だけど安心して。このときは上手く歌えた。


褒めてもらえると思って、ランドルフを見たの。彼、泣いてた。


本人は歌に感動したからだって言ってたけど、そうじゃないって、私には分かる。私も時々同じ気持ちになるから。菩提樹の並木道や、あの川や、ランドルフに古代語を教わったあの部屋や、もちろん、ダニエル、あなたのことも。


無性に帰りたくなることがある。ランドルフは、私よりもっと辛いはず。家族がそばにいないんだから。


私、ランドルフが泣いてるなんて耐えられない。それで、決心したの。彼の涙を止められるなら、何でもしようって。


ダニエル、あなたが私の力になってくれたらすごく嬉しい。ランドルフの話を聞いてあげてくれないかしら。きっと私には言えないことをたくさん抱えてるはずだから。


私もあなたの力になれたらいいのに。でもきっとあなたは、私の何倍も上手に、何でもこなしてしまうんでしょうね。だけどもし上手くいかないことがあったときには、私が遠く離れた地であなたの幸せを祈っていることを、思い出して下さい。


そうそう。叔父さんと叔母さんへの手紙を同封しました。それと、革の首輪と、ちっちゃなくつ下。誰に宛てたものか、当ててみて。


最後にひとつ、へんてこな話をさせて。


おばあさまのお墓参りでランドルフが涙を流したとき、彼、泣いていることをごまかそうとしたのか、こんなことを言ったの。


「涙って、どこからくるか知ってますか?」って。


彼が言うには、目の底には泉があって、その泉の水が涙の元になってるんですって。


まさかランドルフが、こんな不思議な発想の持ち主だったなんて。もっと生物学的な見地で話をすると思ってたので、すっかり拍子抜けしたわ。


聞けば聞くほど謎が深まる話よ。彼はどうやってこんな話を編み出したの? ぜひ、詳しいことを本人に聞いてみてね。


では、また会える日まで、お元気で。


あなたの親友より

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
全部読み終わって改めて作品名を見た時センスありすぎて声出なかったです…脱帽……。素敵な読書体験をありがとうございます。
[一言] はじめまして。 とても楽しく拝読いたしました!映画を観ているような気持ちになり、流れるような映像の合間に、主人公の可愛らしさがあふれてきたり^^ これからの作品も楽しみにしています。 本当に…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ