エピローグ―親愛なるダニエル
お元気ですか?
私はあなたが想像する通り、毎日のんきに暮らしています。嘘だと思っても、信じるフリをして下さい。
ずいぶん遅くなってしまったけど、とても素敵な報告に、お礼を言わせて。私の心を幸せで満たしてくれてありがとう。
結婚おめでとう。私、ステラさんに会ったことないけど、彼女が素晴らしい人だって知ってるの。だってあなたが愛する人だもの。素晴らしいに決まってるでしょう。
私がどれほどステラとパトリックに会いたいと思っているか、あなたには想像もつかないでしょうね。一応、想像してみて。してみた? 私の気持ちは、その百倍大きいわ。もちろんそんな機会が訪れたとしたら、ダニエル、あなたのことを真っ先にハグしたいと思ってるわよ。当然でしょ。あわててこの言葉を付け足しているわけではないから。本当だってば。
ところで、私が家庭教師になったと言ったら、あなた驚く? 私の立派な家庭教師ぶりをぜひ、見せてあげたい。だけど難しいわよね。本当にすごいんだけど、別の国にいるんじゃ仕方ないわよね。とても優秀なんだけど、だって、ねぇ、残念。凄腕なんだけど。
ランドルフが突然帰郷して驚いたと思うけど、喧嘩の末に国外追放したわけではないから、安心して下さい。
彼はまだ不満そうだったけど、どうしても故郷で少しでも時間を過ごしてほしかったの。そう強く思うようになったきっかけを、あなただけに打ち明けるわ。
まず、悲しいお知らせをしなければなりません。おばあさまが亡くなったの。春の終わりのことよ。とても安らかだった。庭一面に咲いたクロッカスの花を窓から見つめていて、眠るように。
ささやかなお葬式をして、この、異国の地に埋葬した。私はなるべく、おばあさまのお墓を新しい花で一杯にするように心がけてる。
ランドルフはとても優しいの。もう知ってるわよね。
おばあさまとの思い出は少ないはずなのに、彼は私が頻繁に花を買うことに、文句ひとつ言わないのよ。ああ、そうそう、私たち結婚したの。これを最初に言わなくちゃね!
彼はお墓参りにもよく付き合ってくれる。それである日、彼が言ったの。おばあさまに歌を歌ってあげたらって。
私は『それがわたしの全て』を歌った。おばあさまが故郷に帰ってきた気分になれるように。
私いつも、この歌の発音を一か所間違えてしまうの。ランドルフは絶対に聞き逃さないのよ。古代語のこととなると、本当にうるさい!(本人には言わないでね)
だけど安心して。このときは上手く歌えた。
褒めてもらえると思って、ランドルフを見たの。彼、泣いてた。
本人は歌に感動したからだって言ってたけど、そうじゃないって、私には分かる。私も時々同じ気持ちになるから。菩提樹の並木道や、あの川や、ランドルフに古代語を教わったあの部屋や、もちろん、ダニエル、あなたのことも。
無性に帰りたくなることがある。ランドルフは、私よりもっと辛いはず。家族がそばにいないんだから。
私、ランドルフが泣いてるなんて耐えられない。それで、決心したの。彼の涙を止められるなら、何でもしようって。
ダニエル、あなたが私の力になってくれたらすごく嬉しい。ランドルフの話を聞いてあげてくれないかしら。きっと私には言えないことをたくさん抱えてるはずだから。
私もあなたの力になれたらいいのに。でもきっとあなたは、私の何倍も上手に、何でもこなしてしまうんでしょうね。だけどもし上手くいかないことがあったときには、私が遠く離れた地であなたの幸せを祈っていることを、思い出して下さい。
そうそう。叔父さんと叔母さんへの手紙を同封しました。それと、革の首輪と、ちっちゃなくつ下。誰に宛てたものか、当ててみて。
最後にひとつ、へんてこな話をさせて。
おばあさまのお墓参りでランドルフが涙を流したとき、彼、泣いていることをごまかそうとしたのか、こんなことを言ったの。
「涙って、どこからくるか知ってますか?」って。
彼が言うには、目の底には泉があって、その泉の水が涙の元になってるんですって。
まさかランドルフが、こんな不思議な発想の持ち主だったなんて。もっと生物学的な見地で話をすると思ってたので、すっかり拍子抜けしたわ。
聞けば聞くほど謎が深まる話よ。彼はどうやってこんな話を編み出したの? ぜひ、詳しいことを本人に聞いてみてね。
では、また会える日まで、お元気で。
あなたの親友より




