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RDW+RTA ~リアルダンジョンズワールド プラス リアルタイムアタック~  作者: 相生蒼尉
第2章 『RDW+RTA+FUCHU+FUTSU act H3 ~3人のヒドインたちによる、附中とフツーの物語~』

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50 鳳凰暦2020年4月20日 月曜日朝、小鬼ダンジョン3層ボス部屋ほか


 絵ではなく、実物として初めて見るゴブリンソードウォリアーは、1層、2層、3層と、少しずつサイズが大きくなってくるゴブリンよりも、さらに大きくなっています。

 その右手にはバスタードソード、左手には私――平坂桃花と同じ、スモールバックラーシールドです。


 そして、先輩の話だと、最初に――。


「グゥギャオオオオオゥゥッッ!!」


 ――これ、ですか……。確かに、震えが……。


 私はメイスとスモールバックラーシールドを落とさないようにしっかりと握り込みながらも、あまりの恐ろしさに自分に体を抱きしめるようにしてしまいました。そして、そのまま、ストンと尻餠をついてしまいました。先輩が最初は守りに徹しろというのは、言葉だけでなく、こうして体感するまで本当の意味では理解できないのでしょう。


「あー、そっか、初めて、だったかー……」


 誰かに聞かれたらちょっと違った意味で誤解されそうな言葉をつぶやいて、彼はゴブリンソードウォリアー見て、自身の腕時計を見つめます。


「……ん、ごめん。悪いけど、ヤる」


 そう言うと、彼はそのままゴブリンソードウォリアーへと突進しました。


 震えていても、見逃してはいけない、そう考えて、彼の戦いを見つめますけれど、恐怖心から流れる涙で少し視界がぼやけます。


 それでも、見えるもの全てを吸収しようと私は足掻きます。


 彼がゴブリンソードウォリアーの右手をショートソードで斬りつけ、さらにはメイスで叩いて、バスタードソードをファンブルさせました。


 あ、震えが、消えて……。


 さっきまでの恐怖心がまるで嘘のように一瞬で消えていきます。


 ゴブリンソードウォリアーが落としたバスタードソードに手を伸ばそうと姿勢を下げたところで、彼のメイスがそれはそれはすごい音をさせてゴブリンソードウォリアーの頭を破壊しました。


 ボスが消えた後には、魔石と、バスタードソードと、スモールバックラーシールドがありました。


「……マジか。パーフェクトドロップ」


 彼がそれらを拾って私の方へと駆け寄り、あ、という表情になって、それらを左手にまとめると、私に空いた右手を伸ばし、そのまま私の左腕を取るとぐいっと引き上げて、立たせてくれました。あれ、あれあれ? こ、これは『小説版ドキ☆ラブ』にも同じような場面がありました。ちょっとドキドキしてしまいます。


「このボス部屋、初めてだった、平坂さん?」


 私はこくりとうなずきます。


「ごめんな、初めてなのに、奪っちゃって……」


 ……彼が本当に申し訳なさそうな顔をしていますけれど、今は、その発言の方が気になります。それはとても誤解されそうなので、どこか別の場所で発言しないように釘を刺すべきでしょうか?


「それで、入る前に分配の話はしてなかったのを思い出したんだけど、こいつの魔石は譲るな。でも、剣と盾はどっちか、ひとつずつでいいよな? 平坂さんはどっちがいいかな?」


 また、彼が長文でしゃべっています。もう笑いが出てしまいます。


「ふふ……鈴木くん、そんなに長い文章で話せるのですね。いつもは、うん、ぐらいしか言わないので驚きました。あ、盾の方でお願いします。それと魔石は鈴木くんが……」

「いや、魔石もそっちでいいよ。僕、もういらないし」

「え、でも、このボスの魔石は50個集めないと……」

「あ、うん。それ、もう、終わってるから」

「……え?」

「まあ、それはともかく、時間がないから、ドロップを渡すよ。1層で11個、2層で13個、3層はアーチの端数はそっちに入れて、ソードが9で、アーチが5、もうこの小袋に分けて拾っておいたから。この魔石も入れとくね。あと、はい、盾、渡したよ。小袋はそのうち教室の僕の机の上にでも置いておいてもらえればいいから」

「あ、ありがとうございます……」


 あの、さっきの戦闘終了時に拾っている時点で既に袋に小分けにしていたとは思いませんでした。どれだけ余裕があったのでしょうか。


「それにしても、そのリュック……くく……」

「あ、私のリュックが何か?」

「まるで、修行で重りか何かを背負ってるみたいで……」

「ああ……」


 ちょっと恥ずかしい気もしますが、こうなったのは彼が気を遣って下さらなかったからなのです。少しは反省して下さい。ただ、言葉が長く、表情が変化する彼を観察するのはとても楽しいです。そういう意味では今、私はとても満足しています。


「そういや、そんなシーンのあるマンガが、ずいぶんと高く売れたなぁ……」

「マンガを、売る、ですか?」


 彼は普段、いったい何をしているのでしょう……まあ、それはそれとして、ここで、お願いしておかなければ。次の約束を……。


 彼はボスが消えたことで現れた転移陣へと私を誘います。


「……僕、ダンジョンだと、どうもテンションが上がるみたいで、長々としゃべってごめんな」

「いえ、そのようなことは気になさらずに。あの、それよりも、また、こうして、朝、一緒に入らせて頂いてもよろしいですか?」

「それは別にいいけど……」

「では明日……いえ、明後日、また、お願いしてもいいでしょうか?」


 ……明日は設楽と待ち合わせの火曜日でした! く、あのお下げはどこまで私の邪魔を……いえ、邪魔ではありませんでしたね……。今は設楽も親しくしたいと思う友人のひとりです。反省しましょう。


「じゃ、明後日。でも、7時45分までだから。あ、やばい、時間が」

「あ、はい。急ぎましょう」


 ……よし! よく頑張りました、桃花! よく言いました! そして、素晴らしい成果です! これで約束ができました! 水曜日も彼のダンジョンでの姿をもっとも近くで見ていられます! さらには他の曜日も同じように、既成事実を積み重ねていくのです! あ、水曜日はあの交差点で彼を待つことにしましょう、堂々と!


 転移陣の上で、彼が私を見て微笑みます。ダンジョンでは、彼は本当に表情が豊かになるようです。新発見が多過ぎて、今夜の観察記録の記入はいつもの何倍も時間がかかりそうです。


「……ああ、でも、僕の長話と同じで、平坂さんも、今、丁寧語になってるよな。その方がダンジョンではいいと僕は思うけど。心と言葉を一致させた方が、たぶんダンジョンでは力が出ると思うから」

「え……」


 彼の言ったことが一瞬、理解できませんでした。


「だって、そっちの方が平坂さんの素だよな?」


 その瞬間、私たちは出口へと転移しました。


 生まれて初めてのダンジョン転移だというのに、そんなことが全く気にならないくらい、あわあわと戸惑いを隠せなくなってしまった私のことなど全く気にせずに、彼は慌てて外へと向かいます。私は戸惑いながらも、それに続きます。


 3度目の最大の衝撃です。彼は、私の本性を見極めていたのです……いったい、いつからそのことに……そして、どれだけ私を見ていてくれたのでしょうか……まさか、彼も、私の知らないところでずっと私を観察していたのでは……。


 彼を追うようにゲートを通って、ダンジョンの外、広場へ出て――。


「ごめん。待った?」

「いいえ、今来たところです。でも、ギリギリの時間になるなんて珍しいですね」


 ――私が戸惑っている間に、さらに続けて4度目の最大の衝撃がやってきてしまいました。


 ……なんですか、今の『小説版ドキ☆ラブ』の中盤のデートシーンで書かれていたようなそのセリフは。あ、あの場面を思い出すと少しドキドキしてしまいます……。


「今日はちょっと、一緒に入った人がいたから」

「え……?」

「それじゃ、行こうか」


 彼は彼女に向かってそう言うと、回れ右をしてまたダンジョンの方へと歩き始めます。


「じゃ、教室で」


 通りすがりに私にそう言うと、そのまま彼はゲートにダンジョンカードをタッチします。


 彼と待ち合わせをしていたのであろう女子生徒がそんな彼を見て、私を見て、さらに彼を見てから、もう一度私を見ると、そのままぺこりと私に頭を下げて、彼に続きました。


 そして、そのまま、二人で小鬼ダンへと入っていきます。私は放置です。ええ、放置ですね。


 まるで、待ち合わせからのダンジョンデートのようではありませんか⁉ いったい、どういうことなのでしょう……あ、それなら、さっきまでの私と彼のダンジョンアタックも、やはりダンジョンデートみたいなものになるのでしょうか……いえ、私の場合は待ち合わせではなく、完全に待ち伏せでした⁉ 待ち合わせと待ち伏せはよく似ているようで、完全に別物です⁉


 それに何より、さっきの女の子はいったい誰なのです⁉


 どうして彼と待ち合わせて朝からダンジョンアタックをしているのですか⁉


 さっきまでのダンジョンアタックの彼の状態から考えると、私以外では、同学年なら外村ぐらいしか彼について行ける女子生徒はいないと思います!


 それに何より、あの、私とは違って、彼とはずいぶん慣れた会話を……。


 私はしばらくの間、混乱した頭の中で、何やら自分でもよくわからないモヤモヤとしたものがぐるぐると回っていて、そこから動くまでに10分くらいは固まっていたのでした。







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― 新着の感想 ―
[良い点] やっと話が進んだ
[一言] なるほど、寮生だから始まりが遅いのねw いやあ、これはどうなるか楽しみですな
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