47 鳳凰暦2020年4月19日 日曜日午前 小鬼ダンジョン 1層
私――浦上姫乃はダンジョンの壁を背にして座り込み、ひゅ~、ひゅ~、と隙間風のようなか弱い呼吸をしていた。本当に体が動かせない。これではゴブリン相手でも殺されてしまう。
これが、スタミナ切れ、か……。
「やれるだろうとは思ってたけど、38体かー。ソロ討伐でもう50体は超えてたし、最初は19ぐらいが限界だったのかもね。さすがは次席。それと、スタミナ切れの怖さ、わかった? あ、返事できないよねー。この状態でゴブリンに棍棒で殴られるとか、ナイフで刺されるとか、どれだけ危険か、わかった? もっと言うなら、飯干くんとか、宍道くんが今、アンタを襲おうと思ったら、めちゃくちゃされるから」
「いや、やらないし」
「おい、外村……」
「とにかく、そういう、アンタが考えてもないような危険だってあるってこと。同じ女のあたしが一緒のパーティーだったことに感謝しなさいよ、浦上。ソロでやるって、そういうことだから」
言い方はひどいが、外村の言うことには真実がたくさん詰まっている。悔しいが、今の状態では本当に反論できない。
「いつもなら、1時間待って、歩かせるとこだけど、この後、あたしたち3人は3層に行くつもりだから。宍道くん、ライトヒール、お願い」
「え?」
「あ、知らなかった? スタミナ切れは、ライトヒールで歩けるくらいには回復できるの」
「そうなのか?」
「ただし、歩けるレベルでしかなくて、戦ったらすぐスタミナ切れになるけど」
「そうか……なったことなかったから、知らなかったな……」
少し、考え込みながら、宍道が私にライトヒールをかけてくれた。一気に呼吸が楽になり、全く動かせないと思っていた体も、少しずつ力が入っていく。
「ほら、動けるなら、立って。帰りはあたしら3人がゴブリンは倒すから」
「鬼……」
「は? 人の親切はちゃんと受けなさいよ? 厳しさ、ほしかったんでしょ?」
「う……」
この外村という女は、本当に、痛い所を突いてくる。
「あ、もちろん、魔石の分配は等分だからねー」
……本当に鬼だが、それは教科書にもある大原則だ。
帰りに3人で29匹のゴブリンを倒して、魔石は合計で67個、4人で分けて私が16個、3人が17個ずつだ。倒した数から考えるとずいぶんと奪われているが、今までよりも1度のダンジョンでの魔石の数は多い。確かに、パーティーの方が、はるかに効率がいいと理解できる。ダンジョンを理解している経験者がいれば。
「明日も限界までやるからね。たぶん、そのうち、限界が伸びて、そしたら2層に行けるから」
私はその一言に希望を抱いた。そして、その瞬間、外村にうまく乗せられていることにも気づいた。なんて女だ。
「まー、あたしらは今からもう一回入って、3層だけど」
そして、嫌味も忘れない。
いつか絶対、見返してやる。だが、そう思っていることすら、外村にはお見通しなのだろう。そして、ここにも私の上に立つ者がいる。本当にこの学校はいい。最高だと思う。




