2 鳳凰暦2020年4月8日 水曜日入学式前 国立ヨモツ大学附属高等学校1年職員室
学年ごとに職員室があるということに、私――浦上姫乃はとても驚いた。その部屋で、今日、壇上で読み、校納する宣誓文を確認してもらっている。
「……あー、浦上、内容はこれでいい。新入生代表宣誓、よろしく頼む」
私の宣誓文を確認した学年主任の佐原先生はそう言った。
「ありがとうございます」
「では、冴羽先生、浦上をお願いします」
「はい。じゃ、ついてきてくれ。荷物も、忘れずに」
「はい。失礼しました」
私は立ち上がって荷物を持ち、冴羽と呼ばれた先生と並んで歩く。
「重大な役だが、しっかりな」
「はい。入試でトップが務めるものだと聞きました。それにふさわしい姿で臨みます」
「あ……」
ぽりぽりと冴羽先生が頬をかく。
「……すまん、浦上。ウチの学校の仕組みだと、どうせすぐにわかることだから言っておく。おまえは首席――入試のトップじゃない。次席――2位だ」
「え?」
「まあ、ほとんど差などない。入試より、これからの方がよっぽど大事になる。ウチの学校はとにかく、順位を前面に出す。今から向かう教室の座席も、な。そういうのはすぐに附属中の出身者から耳に入るだろうし、今の順位じゃなく、これからの順位を意識していくといい」
「……はい」
……私は1位ではなかった。一度、大きく気が抜け、すぐにまた燃えるような熱さが頬を赤くする。
「恥ずかしいことを言いました。厚かましくも、1位だなんて……」
「いや、当然そう思う立場だ。浦上ではなく、代表を断った首席の方が、ちょっとおかしいとおれは思ってる」
……断った? 首席の、1位の生徒が断ったから、2位の私に代表が回ってきたのか。
「ウチで代表を務める価値は大きい。代表の資格は順位ではなく、代表としての自覚があるかどうかだ。代表を引き受けた浦上にはその資格が間違いなくある。それを忘れずに頼む」
「はい」
冴羽先生の言葉に嘘はなく、そして温かかった。いつか、こういう大人に私もなれるだろうか。その言葉で私は前を向く。2位でも、1位以外よりは上。そして、この役割を引き受けた私にこそ代表の資格はある。
冴羽先生と共に教室へ入ると、冴羽先生が私の席を示す。
「あの席だ」
「はい」
廊下側、前から2番目の席。冴羽先生は座席も順位だと言っていた。つまり――。
彼が、首席か。入学早々、読書?
この中でただ一人、私の上に立つ者。そして、たった一人とはいえ、私よりも上に立つ者がいる、この環境。私はこれを求めていた。並び立つ者、並び立とうと努力する者がなく、ただ下から妬ましい、羨ましいと陰口を叩く人たちばかりの環境ではなく。
自分の上に誰かがいる。しかし、それは今だけのこと。すぐに追い抜いて見せる。私はそう心に決めた。気分が高揚していたのか、この日、私は首席の彼に対して「……絶対に、負けないから、あなたには。あなたにだけは」などという恥ずかしい言葉を口にしてしまったのだった。




