0 鳳凰暦2020年3月16日 月曜日 山寺市立寺前中学校 校長室
私――浦上姫乃が担任の坂井先生に校長室へ行くように言われたのは、卒業式の2日前のことだった。校長室に呼ばれることなど、普通はない。何事かと教室が騒めいた。
何か呼び出されるようなことをしたような記憶はない。しかし、呼び出されたからには、行かなければならない。
もう授業らしい授業はなく、クラスの思い出作りの時間だ。私はみんなに見送られて、校長室へと向かった。心配そうな表情の下に漏れ出る嫌らしい笑みには目をつぶって。
校長先生が、扉を開けてそこに待っていて、手招きされて中に入ると、ソファを指し示された。座っていいものかどうか悩んだが、座ることにした。
「浦上さん、わざわざすまないね」
「いいえ」
「実は、君が進学するヨモツ大学附属のダンジョン科から連絡があって、君に入学式で新入生代表として宣誓を頼めないか、と言われたのだよ」
本当に驚いた。まさか、代表に指名されるとは考えてなかった。
「どうだい? 君の夢はダンジョンアタッカーで、そのためのエリート校で代表を務めるということは、もうそれだけで名前が売れる。入学式には大学からも、政府からも、大企業からも人が来るような学校だ。これは君の夢への大きな第一歩だと思う。引き受けてくれるかい?」
「はい、引き受けます。大役ですが頑張りたいと思います」
「では、連絡をしておくよ。しっかりね」
「はい」
こうして私は新入生の代表を引き受けた。
そして、校長室から教室へ戻ると、みんなが何の用だったのか、尋ねてきた。心配そうな表情の下に何か困っていればいいのに、という醜さを隠して。
私は新入生の代表に選ばれ、そのことが校長先生から教えられたと伝えた。
「え、それってヒメが一番ってことだよね?」
「代表って、入試の一番の人がなるんでしょ」
「ヒメの学校って、すっごい倍率の、むちゃくちゃ難しいところじゃなかった?」
「そこで一番ってすごいよ、ヒメ!」
「日本一の天才だったりして」
そうか、新入生代表って、一番の生徒がなるのか。
私はそう思い込んだ。
みんなが私を誉めてくれる。しかし、私は知っている。目の前でこうやって誉めてくれるみんなは、私がいない時に私のことを何と言っているのか、を。
だから私は、この人たちが絶対に行かないだろう、難関の国立ヨモツ大学附属高等学校ダンジョン科を目指したのだから。
友人のように、また、仲間のように見えたとしても、それが真実かどうかは別の話。人は結局のところ、一人で生きていかなければならない生き物なのだろうと、私は思っていた。




