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俺は全てを【パリイ】する 〜逆勘違いの世界最強は冒険者になりたい〜  作者: 鍋敷
第二章 神聖教国編

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60 魔導の鎧

竜滅極閃衝(ドラググレイヴ)

「パリイ」


 俺は全力で王類金属(オリハルコン)の槍を握り込み、次なる一撃を放つ。

 だが槍は即座に奴の剣に弾かれて打ち上げられ、辺りに激しい火花が散る。


「……これでも、届かねえのかよ……」


 ────今ので、両腕の骨が折れたのが分かった。


 既に最初の一撃で両手の骨は粉々に砕け、痛みを無視し、強化された筋力だけで無理矢理槍を握っているというのに。

 槍を支える両腕と、大地を蹴った両脚の筋肉は壊れたように軋み、身体は全ての呼気を使い切り、視界が霞んだ。


 ────たった数撃。


 たった数度の攻撃を繰り出しただけで、このザマだ。

 俺は、これまでの人生で最高の槍を突き出した。

 全力以上の力で、限界を超えた一撃を繰り出し続けた。


 ────だというのに。


 あいつにはまともに届く気配すらない。

 あれだけ無敵を誇った自慢の槍が、奴にはまるで届かない。


「はは…………冗談、きついぜ」


 この男は────本物の化物だ。


 俺が今身につけているのは侵攻してきた皇国軍の置き土産……装着者の魔力を吸うことで凡人を超人に変える魔道具──『魔導鎧(マジックアーマー)』だ。

 それも、オーケンの爺さんが戦場で拾ったものを好き放題に弄り、通常の数倍(・・)の力を得られるように調整を施した頭のおかしい実験作(プロトタイプ)


 ……よくもそんなものを作ろうと思ったものだ。

 人間の身体が普段の『数倍』の力を引き出され、無事でいられる訳がないと言うのに。

 その話を聞いて、即座に持ち出して使おうなんて思った俺も俺だが。


 オーケンは俺がこの鎧を持ち出すとき、試すときはせいぜい、全力の2割増程度にしておけと忠告した。

 それ以上出力を高めれば体が破壊され、命に関わるからと。

 持ち出すときに散々しつこく、うるさい程に説教されたのだが。

 

 ────冗談じゃない。


 目の前のこいつはそんな程度じゃ、とても届かない領域にいる。

 最初の一撃は2割増。

 次は5割。

 その次は、2倍。

 俺は自分の限界を遥かに超えた槍撃を繰り出し、忠告された通り身体が壊れた。


 だが、それでも────届かない。

 俺の槍は奴の体に遠く及ばない距離で、いとも容易く弾かれる。


 この力の差。

 つくづく、嫌になる。


竜滅極閃衝(ドラググレイヴ)


 次の一撃。

 俺は更に『魔導鎧(マジックアーマー)』の出力を上げた。

 もう、身体がどうにかなりそうだ。


「パリイ」


 だが、次の一撃も当たり前のように弾かれる。

 王類金属(オリハルコン)の槍を弾かれ、脇に挟んだ槍の衝撃で肋骨が折れた。


 思い知らされる。

 こいつには、とてもじゃないが、敵わない。


 だが────進展もあった。

 今、俺はこいつに剣を使わせている。


 以前は、あいつは剣すら振らずに俺をあしらった。

 そう、少しは、追いついたんだ。

 この調子で絶対に追いついてやる。

 この化け物に。


竜滅極閃衝(ドラググレイヴ)


「パリイ」


 槍と剣を交わらせる度。

 そんなことは無謀だ、と俺の体が、俺の本能が教える。

 お前などではどうやったって、この目の前の化け物には追いつけない。

 既に全身の筋肉が、骨が、腱が絶叫を挙げている。

 俺の五感全てが、全力で訴えかけてくる。

 これ以上は駄目だ。無駄だ。どうしようもない、と。


 自分の身体が俺の現実を、限界を突きつけてくる。

 こうまでしても、追いつけない隔絶した力の差。


 もう、無理だ。

 そんなこと、俺だって分かっている。

 理性で、ちゃんと把握している。

 分かっているだけに、悔しくて悔しくてたまらない。

 自分の無力さに頭にきている。

 その筈なのに。


 ────同時に、可笑しい。


 自分の非力さへの怒りが全身に溢れ、狂いそうな程に悔しいのに────

 なのに何故、今、俺は笑っているんだろう。

 心の底から、どうしようもない笑いがこみ上げてくる。


「はは、はは」


 なんなんだ、この笑いは。

 俺は、おかしくなってしまったんだろうか。


 いや、違う。

 そんなこと────分かりきっている。


 これは、愉しい(・・・)んだ。

 愉しくて、嬉しくて仕方がないんだ。


 こいつが、目の前にいることが。

 強くなる為の、目標が。

 乗り越えるべき目標(てき)が。

 俺がずっと、求めてやまなかったものが、すぐ目の前にいる(ある)ことが。


竜滅極閃衝(ドラググレイヴ)


「パリイ」


 きっと俺は奴には、相手にすらされていないのだろう。

 まともに、名前すら覚えられていないらしい。

 そりゃそうだ。

 こいつにとって、俺は取るに足らない有象無象に過ぎないのだから。

 こいつには恐らく、俺はそこらにいる雑魚と変わりない──そう、思われている。


 そうだ。

 こいつは、その程度にしか俺を認識していない。


 ──────その事実が、俺の心を奮わせる。


 俺と奴との間にある、絶望的な力量差。

 それを埋め合わせる為、俺は『魔導鎧』に全魔力を喰わせる。

 俺は身体が知らせる危険信号を無視し、更に自分の速度を上げていく────

 悲鳴を上げていた全ての筋肉が切れ、一撃の為に踏み込んだ足の骨が砕けた。


 それでいい。

 そうでなければ辿り着けない。

 この化け物のいる地点には。


 だが────


「パリイ」


 そうして、限界をとうに超えた俺の最速の攻撃を、奴はいとも簡単に弾く。


「はは」


 思わず、笑う。

 笑わずにはいられない。


 ────こんな奴が、いるのか。


 こんなにも命を削って尚────それでもまだ、俺の槍は届かない。

 届く気すら、しない。



「────お前…………まだまだ、余裕、ありそうだな」

「ああ。これぐらいなら、なんとかなる感じだな」


「……そうか。じゃあ、次は──────もっと疾くするかな」

「ああ、頼む」


 俺は自分の身体が軋み壊れる音を聞きながら、再び槍を構えた。


 もう既に、手の感覚がない。

 耳も半分聞こえなくなった。

 目もとっくに霞んで片目だけで焦点を合わせている状態。

 身体が、ぐらつく。

 いよいよ、そこら中がおかしくなり始めたらしい。


 だが────それでいい。

 体が壊れ追い詰められるほどに、自分の槍が冴えてくるのも感じる。


 まだまだ、やれる。

 そうだ、次こそは。




 次の一撃こそが、奴に届き得る────俺の、最高の一撃。




竜滅極閃衝(ドラググレイヴ)




 俺はただ槍を振るうことが楽しくて愉しくて────その日、身体が完全に言うことを聞かなくなるまで槍を繰り出し続けた。

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― 新着の感想 ―
ギルさん…、ノールさんは名前覚えるのが苦手なだけなんだ…! 無理しすぎだ…!
訓練で某髑髏鎧の黒剣士並みに自傷ダメージ食らってるギルなんとかさん可哀想……
[一言] ギル…なんとかさん!めっちゃかっこいいよ!惚れてまうやろ!アルバートさん!
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