46 女教皇
「この度は災難でしたね。皇国の動きには我々ももっと注意を払っておくべきでした。大陸内の同盟国同士でこのように醜く争うことなど、二度とあってはなりません。今後はお互いによく目配せをしておくことに致しましょう」
人より遥かに長命と伝えられる伝説上の存在『長耳族』──その血を身に宿すとされる女性は、実際の年齢に見合わぬ美貌の上に数多の宝石で煌びやかに飾られた法衣を身に纏い、数名の護衛達と共に大きく形の崩れた王都を見回り終えたところだった。
凛とした気品をうかがわせる声を発し、ひと目見て特別な存在と分かる衣装に身を包んだその女性は、かつて王城があった辺りに設置された仮設の応接室で、木製の粗末な椅子に座っていた。
────魔導皇国の襲撃から一月足らず。
クレイス王国は急遽来訪の決まったその『神聖ミスラ教国』からの重要な客人を、急拵えの施設に迎え入れることとなっていた。
「今回の復興への貴国からの多大な支援、大変にありがたく受け止めている。
それだけでなく貴女──教皇アスティラ殿自ら慰問の申し出とは。
クレイス王国を代表して治める者として、心からの謝意を述べたい。
その姿にミスラ教の信徒のみならず、多くの国民が勇気付けられたことだろう」
この国の主──クレイス王国の王が頭を下げると、教皇と呼ばれたその女性は彫像のように美しい顔に静かに笑みを浮かべた。
「礼には及びませんよ、クレイス王。我々は隣国として古くからの付き合いがあります。隣人として当然のことをしたまでです」
「そうか。そう言ってくれると助かる。今すぐには何も返せるものがなくてな。だがいずれ、我が国は必ず貴国の助けとなろう」
「そのお言葉だけで十分です。これからも、変わらずに良い関係を保ちたいものですね」
「ああ、そう願いたいものだ」
王とその女性は互いの顔を見て笑いあった。
何も知らない人間が見れば、それはまるで親しい友人同士の何気ない会話にも思えただろう。
だが、二人のにこやかな表情とは裏腹に、その部屋の空気は張り詰めていた。
神聖ミスラ教国を統べる存在────『教皇アスティラ』。
彼女は大陸中に拠点を擁するミスラ教会を取り纏める神聖ミスラ教国に於いて、象徴としても、また権威としても揺るぎない頂点に君臨する人物。
長らく覇権を争っていた魔導皇国の隆盛の勢いが削がれた今となっては、大陸でナンバーワンとなる権力者がそこに佇んでいた。
「どうかしましたか、クレイス王。私の顔に何か?」
その視線の意味を、おそらくは理解しているであろう教皇は何食わぬ顔で首を傾げた。
「いや、いつまでたっても貴女の姿は若々しいままだと思ってな」
「ふふ、お上手ですね。それは世辞と受け取っておきましょう」
クレイス王国が魔導皇国の襲撃を受けてから、一早く王都復興への支援を名乗り出た彼女に対し、王は感謝の念がない訳ではない。
実際に、ミスラ教国からは大きな金銭的援助と再建に役立つ資材の寄付を受け、復興は進んでいる。
それに関しては、王は教皇に感謝の念を持っていた。
だが、そんな古くからの隣人を前にして今、王は最大の警戒心を持ちながら接していた。
────先の皇国の襲撃に教国が関わったとしか思えない『証拠』が、山ほど出てきたからだ。
「世辞ではないぞ。いつまでたっても美しいのは事実だろう。凄いものだな、『長耳族』の血というのは」
本当に、彼女は自分が若かった頃から、何一つ変わっていない。
彼女はいつ見ても若々しく、美しい姿を保っている。
だが、美貌を湛えた若々しい見た目と裏腹に、とうに二百は超えている筈。
伝説の『長耳族』の血が混じっているが為に長寿である、と言われているが──魔物が化けていたと言われても、何ら不思議ではないな、と王は思考を巡らせる。
────実際、魔物よりも厄介かもしれない。
どこまでも真意を隠しながら事を運ぶこの女に、今までどれだけの煮え湯を飲まされてきたことか。
この女の表層の姿や言葉を信じると、痛い目にあう。
とは言え、この女の化けの皮はそう易々とは剥がせないし、策を弄したところで、自分はこの女の足元にも及ばない────。
それを身を以て知る王は、単刀直入に本題へと切り込んだ。
「そう言えば、少し、気になることがあってな──今回、皇国の襲撃には貴国の重要産出品『悪魔の心臓』が驚く程に多数、使われていたらしいのだ。何か、心当たりはないだろうか?」
その場の空気が緊張に張り詰めたのがその場の全ての人間に伝わった。
教皇は優しい笑みを顔に貼り付かせたまま、ゆったりとした調子で答えた。
「────おそらく、それは、盗まれたものでしょう。貴重品であるが故に持ち出しや輸出は厳しく取り締まっているのですが、国内で盗難被害にあったものがいくつか見受けられました。きっと、それが用いられたのでしょう。本当に遺憾なことです」
それは王が予想した通りの受け答えだった。
あくまで、それは盗まれたものである、と。
それならば、こちらも予定していた通りの反応を返すのみだ、と王は思う。
「そうか、盗まれたものであったか。それは、貴国にとっても災難であったな。互いに重要な資源を狙われたとあって、な」
「ええ、お互いに災難でした」
王と教皇は静かに声を上げ、笑い合った。
だが────そこにはおよそ、人の情の温かみと言えるものはない。
互いに穏やかな笑みが仮面でしかないことを証明するように眉ひとつ動かさず、刺すように張り詰めた空気の中、その部屋にはただ乾いた笑い声だけがこだました。
────二百年の長きを生きる老獪な女狐。
────決して信用ならない政治の世界に巣喰う怪物。
それが王のミスラ教国の女教皇アスティラへの揺るがざる印象だった。
教皇とは数十カ国に拡がる信徒を束ねる宗教勢力の頂点であり、彼らミスラ教徒が崇める『神』へと連なる最高位の聖なる巫女。
そして、伝説の『長耳族』の血をその身に宿し生きる『半不死族』は生まれながらにして聖なる者であり、特別な力を宿し、神にもっとも近き者。そう云われる。
だが巷に流布されている常識と、直接対峙した時の実際の印象が大きく違っていることを王は識っている。
王がそれと実際に対峙した印象は。
────魔物よりもずっと恐ろしい、人の形をした『何か』。
それが彼女と何度も相見えた王の経験からの印象だった。
彼女の内面を覗き込もうとしても、いつも暗闇の中を覗き込むように昏く何も見えない。
まるで『深淵の魔物』と向き合っているようだ、と王は思う。
「そうそう そういえば、風の噂に聞いたのですが」
王の心の内を見透かしたかのように冷えた視線を投げかけ、教皇は薄く微笑みながら言葉を続ける。
「王国が『魔族』を市民として受け容れた、と──それは事実でしょうか」
瞬間、張り詰めた空気が凍てつき、そこに居合わせた者は重圧にぐらついた。
尋常ならざる空気感の中、王は笑顔を保ちながら努めて冷静に言葉を返した。
「ほう……そうか、既に聞き及んでいたか。流石は、大陸中に耳があるだけのことはある。もちろん、事実だ。訳あって魔族の少年の身柄を我が国は一時的に保護している。それが、どうかしたのか?」
王の言葉に、笑顔を貼り付けた教皇の表情が軋んだ。
何かが、彼女の神経に触ったようだった。
「……それが、どうかしたのか、ですか……?」
次に彼女の口から出てきたのは恐ろしく温度の低い言葉だった。
殺気とも取れる冷たさを孕んだ教皇の重圧が、部屋全体を覆う。
「……それも、よりによって……『保護』、ですか。クレイス王。言葉をもう少しお選びになられては。魔族がそこにいるというのに、まるでそれが人間であるかのような扱いですね。それは貴国と我が国が結んでいる条約の中にある『魔族警戒条項』に抵触するのでは? 即刻引き渡しを。魔族は我々人類全ての敵です。それが大陸の条約加盟国全ての見解──違いますか?」
「条約にそこまでの強制力はない。あくまで、各国の意思を尊重する形で結ばれたもののはずだ」
「ですが約束は約束──国際的な取り決めによるものです。無視すると、良いことにはなりませんよ。そもそも『ハース大陸軍事同盟』の加盟国には、魔族を発見次第、我が国に供出する義務が課せられています」
「そうだったな──だが、残念ながらその同盟には我が国は現在、加盟していない──確か、貴国らの反対にあってのことだと思ったが」
女は声をあげて嗤った。
そうか、そんなことは忘れていた、とでもいうように。
「それは失礼いたしました──では、今からでも推薦状を書いて差し上げます。加盟すれば多大な恩恵が得られるでしょう。無駄に魔物退治に兵士団の手を煩わすこともない」
「ご配慮、痛み入る。考えておこう」
互いににこやかに、穏やかに会話は進む。
その表面上だけ見ていれば。
「そうやってまたずるずると逃げるおつもりでしょう? いけませんよ。由緒あるクレイス王国の王ともあろうお方が、そんな優柔不断では。先代は、もう少し柔軟に対応くださいましたのに」
「我が国が加盟するに足る理由があれば検討する。ご不満のようだが、そこまで我が国のやり方に干渉される謂れはない────いくら、貴国が『魔族』を欲し、『悪魔の心臓』を独占したいからとてな」
王が口にした言葉に、教皇アスティラの頬が引き攣った。
変わらず端正な笑みを貼り付かせながら、その奥に激しい感情が蠢くのが誰の目にも明らかだった。
「────クレイス王?
いったい、それは、何の冗談でしょう」
まるで、漆黒の闇そのもののように昏い声が部屋の中に響く。
同時に背筋が凍るような冷たい感情の渦がその部屋を満たし、その場に居た人物全てを呑み込み、呼吸をすることすら難しくさせる程の重圧がその明るい筈の部屋の温度を引き下げた。
「──我々が『魔族』を欲している? それは、どういう意味でしょう? それに、『独占』ですか。なんのことをおっしゃりたいかは存じませんが……『悪魔の心臓』の産出法は我が国の最高峰の機密に関わること。事と次第によっては──」
「事と次第によっては、その産出方法についての文書が出回るかもしれない、ということだ──あまり強引に突つかれると、こちらも出したくないものも出さざるを得ない。できれば、穏便に済ませたいのだ。分かっていただけるな?」
途端に教皇の工芸品のように美しい顔に亀裂が走った。
「────誰が。
そんな与太話を信じるのでしょうね」
身体の奥底から臓腑をえぐるように昏く沈んだ声を放つその姿は、闇そのものだった。
あいも変わらずその顔には笑みを浮かべていたが、そこには親愛の情もなく、可笑しみもなく、ただ、どこまでも昏い深淵を垣間見せるような表情で────それは声もなく、カカ、と嗤ったように見えた。
「──それはつまり、クレイス王ともあろうお方が我が教会に刃を向けると?
それが、どんな意味を持つのかお分かりでそのような世迷言を?
それは、あまり賢くないことですよ、クレイス王。
あんまりでしょう。あまりに傲慢な物言いです。
すぐにでも態度を改めなければ、いずれ『神罰』が降りますよ。
かつて我々に刃を向けた、あの呪われた愚か者達のように」
既に部屋の中に渦巻く暗雲は殺気の嵐となったが、王は笑顔を崩さない。
「──何も、教会の権威に真っ向から逆らおうなどとは誰も考えておらんよ。我々は現時点で貴国に可能な限りの協力はしているし、今後もそうするつもりだ。だが、教会側の都合ばかりを押し付けられても少々困ってしまう、と言っておるのだ。
我が国は建国以来、他国の干渉を受けずに自主独立を保っていることを誇りとしている。それさえ尊重していただければ、何も事は荒だたない──それだけのことを申したつもりなのだ。我々は付き合いの長い間柄だ。そこはご理解、いただけるな?」
「そうですか。尊重、ですか。尊重────面白い言葉をお使いになられますね」
不意に教皇から発される怒気が鎮まったように見えた。
どういうわけか、一瞬で暗雲の気配は消え、その部屋は和やかな雰囲気を取り戻した。
────かのように見えた。
互いの表情だけを、見ていれば。
「わかりました。貴国の些細な不正には目を瞑りましょうか。今回だけ、特別ですよ。せっかくの私たちの間柄ですからね──お互いを尊重しあわなければいけませんものね。そうでしょう、クレイス王?」
教皇はにこり、と、先程までとは打って変わって、愛嬌のある人の良さそうな笑顔を浮かべた。
すると周囲を覆っていた重圧は嘘のように消え去った。
まるでそんなもの、最初から何処にも無かったのだと言わんばかりに。
「ご理解いただき、ありがたく思う。やはり、持つべきは理解ある隣人だな」
「ええ、長い付き合いですからね。それぐらいの融通はあって然るべきでしょう」
先ほどとは別人のような表情を見せる教皇に、王はいつもながら感心する。
そんな仮面を用いながら「互いを尊重」などと悪びれもせずに、よく云うものだ、と。
「なので──代わりと言っては何ですが、一つお願いがあるのです。
そちらは聞いていただけますか? 本当にとても、小さなお願いごとなので」
「お願い?」
王は教皇の言い方に不安を憶えた。
この女が穏やかな表情で穏やかな言い回しをするとき──それが、一番性質の悪いことを言い出す兆しであることをよく知っているが故に。
「お願い、か。貴女にしては珍しい言い回しだな」
言葉の裏に背筋を寒くするものを感じ、王は僅かに身体を硬くした。
そんな王の姿を見て、教皇は笑みを浮かべた。
それは、子供を弄び嘲笑うかのような、可笑しみを含んだ嗤い。
その優し気な表情は一層、王を不安にさせた。
「いえ、そんな風に警戒することはありません。
なにぶん、個人的なことですから。
こんなことを申し上げるのはお恥ずかしいのですが──息子が、少々寂しがっておりましてね」
「ご子息が?」
教皇アスティラの後代────『魂継の神子』。
『長耳族』の血を引く長命種族『半不死族』はあまり子供を作らず、最近になってやっと授かった一人息子だと聞いている。
歳は娘、リンネブルグとそう違わなかった筈だ。
確か、名前は────
「確か、お名前はティレンス皇子、でしたかな」
「ええ。私の息子があなたのご息女にぜひ、もう一目お会いしたいと申しておるのです。それを叶えてあげられたらと」
「我が国の王女に? 留学中に世話になったとは聞いたが、そんなに懇意だとは初耳だな」
「はい、私もついこの間話を聞いて驚いていたところだったのですが、実は息子はご息女──リンネブルグ様にとても惚れ込んでいましてね。それはもう、随分な入れ込みようで。慕う心で胸が張り裂けんばかりだと。なので、自分の成人を祝う席で、是非、お会いしたい、と」
淀みなく息子、ティレンス皇子の心情を語る教皇だったが、その言葉から王は濃密な嘘の匂いを嗅ぎ取った。
この女は、何か嘘をついている。
それが一部なのか、全部なのかを測りかね、王は言葉を濁しながら返した。
「そうか成人か、もうそんな時期になるのか。それはめでたいな。
ぜひ、我が国も祝福に赴かねばならん──だが、私がこんなことを言うのもなんだが、王女が皇子の慕う気持ちに答えられるかどうかというのは、な。
そればかりは本人が乗り気でなければ何とも言えぬが────」
子供の恋愛話に慣れない様子で言い淀む王の姿を、可笑しなものを見るように教皇はクスリ、と嗤った。
「ふふ……いえ、それは大丈夫ですよ。
きっと、ご息女も悪くは思われていないはずです」
「また、唐突だな。なぜそう思われるのだ?」
相手に動揺を読み取り、教皇は口の端を大きく吊り上げた。
王はその表情を見た瞬間────
────そうそう、それでいい、と。
目の前の魔物が嗤ったように見えた。
まるで、今日はその質問が一番欲しかった、と言わんばかりの満面の、心からの笑み。
そして、その魔物のような存在は今や不吉の兆しでしかない明るい表情の奥から、同じく王にとっては不吉にしか聞こえない音を吐き出した。
「なぜなら────彼らは、『婚約者』なのですから」
────婚約者。
そんな話は娘からは微塵も、何一つ、聞いていない。
おそらく、それは、嘘だ。
「────それは初耳だな」
だが、王はそう切り返すのがやっとだった。
おそらく、婚約者というのはこの女の嘘────だが、この場で即座に否定もできない。
本人がここにいないからだ。
もしかしたら、本当かもしれない。完全には否定できない。
そんな僅かな迷いが王の言葉を鈍らせた。
既に相手の手の平の上で転がされていると知りつつ、そう答えるしかなかった。
教皇は王の困惑した表情を読み取ると、満足気に、大きく頷いた。
「そうでしょう。私も寝耳に水でした。ですが、お互いが決めたこと──口出しはできませんね。若い世代の逢瀬の橋渡し役をするのが、私達年寄りの役目ではございませんか? ねえ、クレイス王?」
教皇は王の心中を察しているのだろう。
これ見よがしな親愛を示す身振りをし、不敵に嗤いながら言葉を続けた。
「ご心配はいりません。決して悪いようにはいたしませんので。王女にいらしていただければ、国を挙げての素晴らしい催しとなるでしょう────というのも、今回は息子の成人祝いを兼ねた華やかな舞踏会を開催したいと思っているのです。
パーティはすでに各国の卒業生に祝賀会の『案内状』は送付済み──各国要人もお招きしてあります。あとは、貴国のご息女のお返事を待つのみ、です。長い歴史を持つ我が国と貴国の間柄ですから、失礼のないようにと敢えて準備が整うまでここまで秘密にして来ましたが──。すぐにお返事、いただけますね?」
しまった。
ここに来て、王は失策を思い知った。
社交の場に疎い自分はこういう部分で粗が出る。
────これは、明らかに罠だ。
簡単に言うことを聞かない我が国の弱い所を誘う為に仕組まれた罠────。
何らかの手段で陥れる意図があるとしか思えない。
もちろん、申し出を断ることはできる。
王女に行くな、と言うことはできる。
だが────
「お分かりとは思いますが、ゆめゆめご欠席、なさらぬよう。今回のような社交の場を逃したとあれば、お名前に要らぬ傷がつきますので。王女の今後にとっても、それは良からぬことかと」
既に卒業生と各国要人への『案内状』を送付済み。
それはつまり、各国要人が集まる中、本人がその場にいなければ幾らでも『醜聞』を作り出せるということ。
────この女なら、それぐらいやりかねないし、そうする。
今回に限っては、やる、と宣言したに等しい。
事を進めるために先立って逃げ道を塞ぎ、断れない状況を作っている、ということを自分から伝えてきた。
もう簡単には、逃げられない。
────相手は今、王女の『将来』を交渉のテーブルに載せたのだ。
「もし、道中がご不安なら是非ともお仲間を連れ立ってお越しください。
その分のお食事や宿泊場所はご心配なさらなくても大丈夫です。
皆さま、王女の晴れ着姿を楽しみにしておりますので、それぐらいはこちらで喜んでご用意いたします。それと────」
再び、教皇は嗤う。
不吉な笑みを顔の全面に張り付けながら。
「この際です。その『魔族』の子供とやらも客人としてご招待いたしましょう。
今や、それは貴国の立派な『市民』なのだそうですからね。
勇気ある貴国の試みに心からの敬意を評して晩餐会へと招待いたします。
──ご息女の『ご友人』として。それなら、何も問題はないでしょう?
くれぐれも、よろしくお伝えください。歓待の準備は整えておきますので」
「ああ……伝えておく。だが、どうするかはあくまで本人に決めさせることになるが」
己の完膚なきまでの敗北を悟り言い淀む王だったが、それも予期していたかのように教皇は笑う。
「────必ず、ですよ。
聡明なご息女のこと、必ず良いお返事をいただけるものと信じております」
教皇はそれだけ言い残し、連れ立って来た従者達と共にその場を後にし────ミスラが保有する世界有数の『飛空挺』に乗り込み、未だ復興の途上にある王都を後にした。






