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俺は全てを【パリイ】する 〜逆勘違いの世界最強は冒険者になりたい〜  作者: 鍋敷
第三章 商業自治区編

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113 旅の軍資金

 俺が冒険者ギルドに辿り着き、預けている金を「すぐ持っていきたい」とギルドマスターのおじさんに伝えると、「今すぐには用意できないから明日の昼頃に来てくれ」と言われた。


 それで結局、リーンには早朝の出発は待ってもらうことになり、俺は翌日になってから言われた通り昼にギルドを訪ねて行ったのだが。


 いつになく暗い表情のギルドのおじさんに、今まで一度も登ったことのない冒険者ギルドの階段の上から手招きされた。


「ノール。今日はこっちだ」


 そうして俺は言われるまま冒険者ギルドの階段を登り、その奥の部屋に通された。

 途中、俺たちの他に武器を持った男が三人ついてきて、彼らのうちの二人は廊下に残り、一人は俺たちと一緒に部屋の中に入り、ドアの前に立った。

 なんだか物々しい雰囲気だ。


「彼らは?」

「うちの警備員だ。気にしないでくれ」

「そうか。でも、この部屋、随分暗いな……?」


 俺が通された部屋は真昼だというのにほぼ真っ暗だった。

 一切窓がなく、ロウソクの火だけで明かりを取っているからだろう。

 部屋の中心に小さなテーブルと、その両脇に革張りのフカフカした椅子が二つある。


「まあ、まずは座ってくれ」


 ギルドのおじさんはそう言って白髪混じりの頭を掻き、片方の椅子に座りながら俺にも椅子を勧めた。

 いつものように金の入った袋をカウンター越しに受け取るだけだと思っていた俺は、少し面食らいつつ、その革張りの椅子に腰掛けた。


「これがお前さんに頼まれてた金だ」


 おじさんは背後にあった金属製の大きな箱から、大きめの革袋を取り出し、テーブルの上にそっと置いた。

 袋自体は俺が「これに入れてくれ」と渡しておいたものだが、こんなに膨らんだ姿は初めて見る。袋の重みで木製のテーブルが軋む音が聞こえる。


「昨日言われた通り、お前さんが今までに稼いだほぼ全額(・・)をここに用意してある……当面の生活費を除いてな。まあ、実質ここにあるのがお前さんの全財産ってことになるんだろうな」

「そうか、これで全部か」


 これまでの全部の稼ぎが一つの袋に収まるというのは多いような、少ないような。少し不思議な感じだった。

 とはいえ、袋の中身の重さは相当なものらしく、小さな木製のテーブルは今にも崩れてしまいそうだ。今、この状況で横から軽くつついたら、簡単に足が折れてしまうかもしれない。

 そんなことを心配している俺を前に、ギルドのおじさんはゆっくりと口を開いた。


「……なあ、ノール。こんなことは俺の立場上、言っちゃいけねえんだけどよ。でも、本当にいいんだな? これ全部、あっち(・・・)に持ってくってことで。絶対に後悔……しねえんだな?」

「ああ、大丈夫だ」


 昨日から、おじさんは同じことを何度も念を押して確認してくる。

 今回のリーンからの依頼は冒険者ギルドを通しての『指名依頼』なので、ギルドのおじさんにも俺がこれからサレンツァに行くことは伝わっている。

 前の話もあり、不安に思っているというのは俺にもわかるが。


「……まあ、お前さんとしちゃあ、いちいち何度も同じことを聞く俺を、うるさく思うだろうがな。そもそも、これはお前さんの金だ。自力で稼いだ金だし、お前さんがどう使おうと誰にも口を挟む権限はねえ。冒険者ギルド(うちの組織)としても、使途に一切口を出さねえのは絶対の原則(ルール)だしな。俺だってそれぐらいわかってるし、そういうルールを曲げる気はねぇ……でもな?」


 おじさんは小さく息を吸うと、俺の顔を真正面から見据えて言った。


「……お前さんの知人として、これだけは言わせてくれ。これがどんな大金か、お前さん、本当にちゃんとわかっててサレンツァに持って行こうとしてるんだよな?」

「一応、そのつもりではいるが」

「……本当に? はした金とか思ってねえよな?」

「ああ。もちろん、大金なのは知っている。だが王都ではそれほどいい使い道が思い浮かばないしな。俺のところで眠らせておくよりは、いっそ、今回の旅先で全部使ってしまってもいいかと思ったんだが」


 俺は正直に話したつもりだが、おじさんは俺の話を聞くと、ゆっくりと首を横に振りながら小さくため息をついた。


「……あのなあ、ノール。お前さんが王都に来て、もうしばらく経つから、十分わかってるんだとは思うが……おさらいの意味で、もう一回確認してもいいか? 通貨(コレ)の価値」


 そう言って、おじさんは真剣な表情でテーブルの上の革袋を指差した。


「そうだな」


 少額なら金を使うのにも慣れてきたと思うが、高額な取引の時にだけ使う、俺が見たことのない通貨(かね)もあるという。

 そういうのを、ここで教えてもらえるのは非常にありがたい。


「頼む」

「じゃあ、行くぞ。安い方から順番にな」


 おじさんはそう言って、ゆっくりとした動作で革袋の中身を取り出し、一枚一枚、数えやすいように並べてテーブルの上に置いていく。


 まず、よく使う銅の硬貨が100枚ぐらい。

 そして、たまに見る四角い銀色の硬貨が100枚。

 それより大きい銀色の硬貨が50枚。

 丸い小さな金貨が100枚と、大きな金貨が10枚。

 白く輝く見たこともない硬貨が7枚。

 怪しく虹色に輝く少し小さめの硬貨が5枚。


 テーブルいっぱいに大小の様々な硬貨(コイン)が並ぶと、背後のドアの前で武装した警備員が唾を呑み込む音が聞こえた。


 おじさんは硬貨を並べ終えると、まず銅の硬貨を一枚手に持って、俺に見せた。


「これは『銅銭』。飲み食いとかで普通に使うやつだな」

「それはわかる。一番よく使うやつだな」

「そうだ。一枚あれば焼きたてのパンが一個買えて、数枚あればうまい飯が食える。そして銅銭の横にある、小さくて四角いのが『小銀貨』。銅銭の百倍(・・)の価値がある。これぐらいまでなら普段見たことあるよな?」

「ああ、『小銀貨』ならたまに見るし、使ったこともある」

「そうだな。で……ここからが普段、あまり使わねえ硬貨になると思うんだが」


 おじさんは摘み上げた『銅銭』と『小銀貨』をテーブルに戻すと、その脇の見慣れない銀色の硬貨を指差した。


「この丸くてデカいのが小銀貨の十倍(・・)の価値がある『大銀貨』。数枚あれば一生モンのいい武器が買える。結構な価値だな。で、その横の小さい金色の硬貨が更にその十倍(・・)の価値がある『小金貨』だ。コレが一枚あれば、それだけの大抵の冒険者であれば全身分の装備が一通り整っちまう」

「そうなのか」

「ああ、大金だぞ」


 テーブルの上に置かれた『小金貨』は100枚ある。

 コレだけでも、ひと財産という感じがする。


「で、この『小金貨』よりずっと大きいのが十倍(・・)の価値の『大金貨』。コレ一枚あれば小さな家が建つ。まあ、大家族だと狭いかもしれねえが、ひと家族暮らすには十分な立派な一軒家が建てられるぐらいだ。それがここに10枚」

「家か。それは────すごいな」


 この小さなテーブルの上に家が10軒載っていると考えると……ますますガタガタのテーブルが壊れそうな気がしてくる。実際、手に持ってみても重たい。


「……で、ここまでが、まあ、人前で見せられるギリギリのラインだ。大金貨なんて絶対見せねえ方がいいがな。とはいえ、こっからの通貨はワケが違う。見ず知らずの人間に見られたら、本当にやばい」

「まだ上があるのか?」

「……あるだろ、ここに」


 おじさんは少し呆れたような顔で、テーブルの上に置かれた白く輝く硬貨と虹色に光る硬貨を指差した。コレは本当に見たことがない通貨だ。


「いいか、ノール。ここからは、決して人には(・・・・・・)見せちゃあ(・・・・・)いけねえ(・・・・)モンだ。こいつらを信用できない人間に見せたら、その瞬間────命はないものと思え」

「物騒だな」

「そういうモンなんだよ。じゃあ説明するぞ」

「ああ」


 おじさんの真剣な顔での説明に、俺も気を引き締めて耳を傾ける。


「この白いのが『白金貨』。一枚あれば、小さな城が買える(・・・・・)と言われるとんでもねえ代物だ。新たに城を建てるとまではいかねえが、豪邸ぐらいなら建つ。コレは『大金貨』のさらに十倍(・・)の価値がある」

「……十倍か」


 ……そろそろ、ついていけなくなってきた。

 正直、一枚で家が建つと言われた時点でかなり置いていかれている感じがするが、それでも俺は必死に説明に耳を傾けた。


「ああ。普通の生活してりゃあ、絶対にお目にかかることはねえな。こいつ一枚目当てに、そこいらの盗賊団が束になって襲ってきても不思議じゃねえ。それが……ここに7枚もあるんだ」

「それは……すごいな」

「正直、今この瞬間も気が気じゃねえよ。だが、さらにそれすら上回る価値の通貨がある。それが、このちっこい『王金貨』だ」


 おじさんは虹色の小さな硬貨を手に取り俺に見せたが、若干、手が汗ばんで震えている。


「緊張しているのか?」

「……そりゃあな。こいつは、俺も見たことはあるが……手にするのは初めてだ」

「そんなに珍しいのか?」

「ああ。この『王金貨』は『白金貨』の更に十倍(・・)の価値がある、これ以上のモンは存在しねえっていう、最高の価値の硬貨だ。俺も仕組みはよく知らねえが、迷宮由来の技術を使って絶対に偽造ができないと言われ、傷つけようとしても余程の事がない限り傷つかない。国際的にも信用力が段違いの、言ってみりゃあ、名前そのままの『通貨の王』だな」

「……そうか」

「これ一枚あれば、余裕で立派な城が建つぞ。それも結構な庭園付きでな」

「なるほど」


 通貨の王、か。

 確かに、小さいが宝石のような輝きがあり、価値がありそうな感じはする。

 だが、ここまでかなり詳しく説明してもらったが、いまいちピンとこない。結局、俺にはただの硬貨(コイン)にしか見えないのだが。

 まあ、どれも同じ金だということはわかった。


「……なあ、ノール。なんか、さっきからいまいち理解できてないって顔してるな?」

「いや。説明してもらって、大体把握したぞ」

「……本当にそうか? 一応、言っておくと、お前さんが持ち歩こうとしてるのが、大金貨10枚(・・・)。白金貨が7枚(・・)。そして、王金貨が5枚(・・)だ。つまり、新品の綺麗な家が10軒と、豪邸が7軒、ついでに小規模の城が5つ……この小汚ねえ革袋に詰まっていることになる。こういえば、わかるか?」

「ああ。なんとなく、わかる気がする」


 そう言われるとますます、俺にはいらないなという感じもしてしまうが。


「……なんか不安だな。本当に大金だぞ? 言われたから用意したが……これ、こんな風に部屋で広げるのも恐ろしい額なんだぞ。俺だって見たことねえよ、こんなの」


「まあ、最悪の場合……命の危険を感じたら、相手にあげてしまえばいいんだろう?」


 おじさんは顔を片手で覆い、首を振って深いため息をついた。


「それで解決するんであれば、な……でも、それでも命があるかもわかんねえぞ? 口封じに殺されることだってありうるんだ。まあ、金はなくなっても、生きてさえいりゃあ、お前さんならまた稼げる機会(チャンス)はあるかもしれんがな。普通は一生かかってもお目にかかれねえ大金なんだ。大事に使えよ?」


 そう言いながら、おじさんはテーブルの上に広げた硬貨を革袋の中に戻していく。


「……ったく、本当に聞いたことねえよ。こんな大金、こんなにくたびれた革袋で持ち歩くなんて」

「じゃあ、他の入れ物の方がいいのか?」


 俺のとっさの質問に、おじさんは一瞬、手を止めて考え込んだ。


「……いや。むしろ、小ぎれいなカバンよりも、このままの小汚ねえ革袋の方がかえって怪しまれずに済むかもしれんな。下手に小細工するより、このままがいいだろうな……確かに、【隠蔽】のかかってる『魔法鞄(マジックバッグ)』なんて装備も世の中にはあるにはあるが、普通、アレは拠点間の貴重品輸送に使うモンだし、見つかったら貴重品があるって宣言してるようなモンだしな……っていうか、お前さんが使いこなせるかどうか……いや、どうかな」


 ギルドマスターのおじさんはしばらくじっくり俺の顔を見て、また首を横に振った。


「……いや、ここまで口出しするのは俺たちの仕事じゃねえな。結局、コレはお前さんの金だ。あとは自分で考えてもらうしかねえ。俺の立場としては渡したら、もう好きにしろとしか言えねえよ」

「ああ、色々教えてくれて助かった」

「あと、コレは独り言だが……なんに使うつもりか知らねえが、『白金貨』以上を持ってるなんて、絶対人には言うんじゃねえぞ……絶対にな」

「気をつけるつもりだ。心配しないでくれ」

「じゃあ、持ってけ。お前さんの全財産だ」

「ああ……けっこう、重たいな」


 そうして、俺はギルドのおじさんから大きめの革袋を受け取った。

 おじさんはまだ何か言いたそうだったが、何はともあれ、俺は旅の軍資金の詰まった袋を手に入れた。


 この革袋の中身は、説明を受けて改めて大金だということがわかったが、俺にとっては使い道が全くない金だということに変わりはない。

 持ち歩くと悪人に盗まれたり狙われたりする危険があるということだが、知られなければいい、ということだったし、要は、そうなる前に使い切ってしまえばいいのだろう。


 さっさと向こうに行って、欲しいものを見つけて買ってしまえば身軽になる。

 気をつけなければいけないのは、そこまでだ。

 そう思うと少し気が楽だな。


「じゃあ、行ってくる」

「……本当に気をつけろよ」


 俺は重たい硬貨の詰まった革袋を肩に担ぎ、冒険者ギルドを後にしてリーン達と待ち合わせた場所へと向かった。

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― 新着の感想 ―
ただの農家の若者が城が買えるとか言われても、他の使い道思いつかないからへーそうなんだで終わるんだよね。
この貨幣についての解像度、実はめちゃくちゃ高い。 ノールが馬鹿すぎだとか言われてるけれど、例えば現実世界でも発展途上国の教育を受けられなかった成人男性に某Bコイン1枚とその国の貨幣を1万円分どちらか…
ノールの生い立ちを考えれば無理もないかもしれませんね!? 子供の頃は生きるための生き方と、英雄や冒険者の話しか聞かされてないんだから、、、 最低限の読み書きは出来る程度? 醜くい人間社会や欲に絡んだ金…
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