44.強行手段
「手伝うと言っても儂はインターネットには詳しくないぞ?」
パインは鏡や山崎と違いネットの存在しない世界出身だ。詳しくなくて当然だろう。
パインは何も出来ないのでは?と思っていたが鏡にとってはそうではなかった。
「パインは魔法でワープが使えるだろ? それがあれば簡単に全世界にウイルスをばら撒ける。」
「ウイルス? それはどんな奴なんじゃ?」
「全世界のインターネットの機能を停止させる機能を持った奴だ。この世界はほとんどの物がPCを使って自動制御されている。だからそれが麻痺すれば復旧せざるを得なくなる。でも、今のオーバーテクノロジーはこの世界の住人には直せない。だから古い技術に戻らざるを得なくなる。」
パインはやっぱり理解できない。
「よくわからんが取り敢えず儂のワープが役に立つのじゃな? それでどこにワープすればいいんじゃ?」
パインは鏡に言われたことをこなすことにした。
「ちょっと待ってくれ、まずは……ここだ。」
鏡は携帯でマップを表示してみせる。
「ふーむ、だいたいここから南西に……、ふむふむ。 大体の座標は把握したぞ、ではワープするぞ。」
「まった。その前に会計だ。」
二人はファミレスにお金を支払って外に出る。
「ではいくぞ! ワープスペル!」
パインが魔法を使い二人ともワープする。
「ふう、ついたぞ。ところでここはどこなんじゃ?」
そこは大きな金属製の箱が沢山並んだ部屋の中だった。
「ここは大手の回線企業のサーバールームだ。」
鏡がパインにワープさせた場所はサーバールーム。そして、そこで早速作業を始める。
「きちんとした設備があったとしてもウイルスを感染させるのは大変だからね。直接サーバーにダウンロードする。」
鏡がとった手段はかなり乱暴なものではあった。
普通ならサーバーはインターネット世界の軸であるためそのセキュリティも万全である。それをいちいち突破しようとすれば鏡と言えど簡単ではない。だからセキュリティの内側、直接サーバーにウイルスをダウンロードする事で感染させたのだ。
「ここのサーバーはこれでいい。次第にバグを連発して使い物にならなくなる。次はここにワープしてくれ。」
「今度は南じゃな!」
その後もワープを駆使して直接大手のサーバーを感染させていく鏡とパイン。
4つ目の作業が終わる頃にはウイルスは全世界爆発的に広がっていた。
「さて、これで十分かな。ウイルス起動。」
鏡はトドメとばかりにウイルスのプログラムを作動させる。
「これで何が起こるのじゃ?」
パインが不思議そうに尋ねる。
「まぁ、見てなって。」
二人は大きな交差点にいた。
しばらくすると車が全て止まりだす。さらに道を動く清掃ロボット、街灯の大きなテレビ、全てがその機能を停止した。
パインが心配そうに尋ねる。
「鏡、これは大丈夫なのか? 全ての機能をが止まれば病院など大変ではないか?」
周りの機械が続々と停止していく様を見て尋ねる。
パインは山崎が入院していた時に病院にも大量の機械があったのを思い出したのだ。
「大丈夫だよ。」
鏡は答える。
「僕が狙ったサーバーはあくまで人の命に関わらない物を制御してる奴だけだ。車の事故くらいならあるかもしれないけど死人は出ないと思うよ。」
もちろん考慮済みだったようだ。
「さて、これでこの世界は働かざるを得なくなった。これで怠惰ではいられない。」
鏡はニヤリと呟く。
「お主、やっぱり悪人面じゃのう。」
パインがため息をつきながら指摘する。
「さて、パイン。あとは俺だけで大丈夫だ。山崎さんと松田さんのとこに行ってきな。ジーさんのこといつでも呼び出せるんでしょ?」
「鏡? それはできるが……お主はどうするのじゃ?」
パインは鏡に急に言われた提案に少し戸惑う。
「ここは俺の世界だよ、俺はここに残る、そしてこの世界を守る。」
「鏡……。しかし危険ではないか?お主一人では《堕ちた神》に襲われた時に対処出来ないのではないか?」
パインは心配そうにする。
しかし……。
「大丈夫だ。俺は魔法が使えないからな、向こうからは特定のあの仕様がない。目立つことさえしなければ問題は無い。」
パインは鏡の目を見て心配はいらないと判断する。
「わかった。では儂は山崎の元へ向かうとしよう。自分の世界をしっかり守るのじゃぞ。」
そのままジーさんを呼び出して山崎のいる世界へ向かう。
ゲートが閉じ一人になって鏡は再び動きだす。
「さて、この世界の攻略を始めますか。」
彼はとても狡猾だった。
ウイルスの解除プログラムもきっちりと用意していた。
その後、全世界を混乱に陥らせたウイルスの解除をして一躍救済者扱いを受け、その実績をもとに優秀な人材を集め世界最大のit企業の代表となるののであったがそれはまた別の話であった。




