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41.勇者タケルと愉快な仲間達

今回はタケル目線で話が進みます。

僕たちは異世界に来るのは二度目だというのに、それでもやはり新しい世界に戸惑いの混じった感動を覚えていた。


僕たちは師匠にこの世界を任された。


「タケル兄貴、この世界って俺たちが転生した世界に似てるっすね。」


僕に兄貴というのはナオトだ。彼は超速再生と瞬間移動が使える勇者。僕の後に師匠に弟子入りをしたからか、よせというのに僕のことを兄貴と呼ぶ。


「初めての転生した事をおもし出しますね。それにしてもパインさんとは別行動ですか、少し残念ですね。」


こっちはアラタ。想像したものを創造できる。天下一武闘大祭でパインという幼女に負けてからというものずっとその子を意識してるようだ。


「ハラ減ったなー、この世界の飯ってどんな感じかな!」


あいかわらずマイペースなのはルーシーだ。ゴムゴムのコーンポタージュでゴム人間になった勇者だ。


「とりあえず、情報でも集めながら腹ごしらえでもしよっか。」



僕はいつも、このバラバラなみんなのまとめ役だ。


とりあえず現状確認からしなきゃ世界を救うなんてできっこないだろうしみんなで食べ歩きをしながら街の人に話を聞く。



しかし、ルーシーは食べる事メインでしか動かない。アラタは幼女にしか話を聞かないし、ナオトは「しゃっす、兄貴!しゃっす、しゃっす!」ってうるさいしーーーー!



「ああもう、お前ら全員ミンチにして出荷してやろうか! 真面目ににやれ!」



おっと、つい感情的になってしまった。いけない、いけない。まとめ役の僕は常に冷静じゃないと。


「ごめん、怒鳴っちゃって。みんな真面目にやろうね!」


僕は慌ててフォローを入れる。


みんなの動きが別人のように変わった。


優しく言っても話を聞いてくれる。やっぱりみんないい奴だ。



そのまま30分ほど情報を集る。


そしてみんなで近くの食堂に行き、話をまとめる。


ちなみに食べ歩きの後に食堂に入ったのはルーシの希望だ。


「兄貴、どうやらこの世界俺たちの世界以上に異世界人特権が酷いです!」


「そのようだね。なんでも異世界人ってだけで貴族になれたり国からとてつもない額のお金が貰えたり。」


「それだけじゃないですよ!異世界人は結婚を相手に強いることも出来るそうです、その相手がたとえ子供だとしても! 子供だとしてもっっ!」


「ムシャムシャ、これ美味えな。ムシャムシャ。」



ルーシー、空気読もうよ……。あとアラタ、感情こもりすぎ。


とりあえずみんなの話をまとめると、異世界人特権は僕らの世界にあったものとはレベルが違った。とにかく優遇されまくる。


そして決定的に違ったのは勇者の親族に対する特権だ。勇者の親族になったというだけで爵位二階級特進、国から一生安泰なだけのお金などが与えられる。たとえそれが奴隷だったとしても。


そのため多くの人は勇者の親族になるため勇者に媚を売ったり、逆に他の人の悪い噂を流したりなど、嫉妬と欺瞞の感情でに溢れていた。



「兄貴、俺はこの世界を放っておかないです! この世界の人達は異世界人特権に苦しめられてる! それに、……一歩間違えれば俺達だってこうなってたかもしれないんです。」


ナオトが立ち上がる。


「ナオトさん、落ち着きましょう。気持ちはみんな一緒です。しかしどうやってこの世界を救うか、問題はそこです。」


アラタが冷静な一言を発する。


「アラタの言う通りだね。これは勢いでどうこう出来る問題じゃない。しっかり計画を練らないと。」


僕もアラタの意見に同意する。


「たしか、この政策を始めたのは現在の国王という話です。おそらく師匠たちの言っていた《堕ちた神》はその近くにいるはず。そいつを直接叩くのはどうでしょうか?」


「うーん、それも悪くないと思うんすけどねー。でもその《堕ちた神》は俺達が師匠を手伝ってるとは知らなくても師匠が来るかもしれないってのは知ってるはずっすよ。警戒して表に顔を出さないんじゃないすか?」


二人の意見は的を射ている。


この世界を救うには《堕ちた神》を叩くのが一番、でも簡単には見つからないかもしれない。


しかし……。


「正直な話、街の人の嫉妬の感情はかなり高ぶっている気がする。もし《堕ちた神》に逃げ回られて時間を稼がれたら終わりだ。」


これが現実だ。



僕らは黙り込む。ナオトの言う通りこの世界は僕らの未来を表しているかもしれない。


師匠と国王のディベート対決で僕ら四人は初めて沢山の人に迷惑をかけていたと知った。


RPGゲーム感覚で他人の家のアイテムをゲット、いや窃盗したり、ノヴァさんの牙を奪ったのだってそうだ。人間の商人はあのあとドラゴン達との商売がかなりしづらくなったらしい。魔王を倒したのも今となっては正解だったかわからない。天下一武闘大祭の後、ノヴァさんから魔王の話を聞いたが、彼が武器を手に取ったのは配下の魔物が人間に殺されていて、それを守るためだったらしい。


自分を正義と信じこむのは危険だと、それが師匠との出会いで学んだ一番の教訓だ。


この世界の異世界人は僕らと違い師匠とは出会わなかった。だから、おそらく《堕ちた神》が仕組んで作ったであろう異世界人特権を当然のように受け入れているのだろう。


「ねーちゃん! これおかわり、すんごくウメーよ!」



「「「空気読めよ!」」」



あいかわらずルーシーはマイペースだ。まったく、彼を見てるとうだうだ考え込むのがバカらしくなってくるな。


「ところで……、」


アラタが気がついたように声をかける。


「ルーシーさん、食堂に払うお金は持っているのですか?」



そういえば。 食べ歩きの時は試食のものだけを食べていたが……。



「やっベー、忘れてた! どうしようアラタ。」



どうやら僕らは無銭飲食をしていたようだ。


僕らって言っても注文しているのはルーシーだけなんだけどね。


「どうします、兄貴。 ルーシーだけ置いて帰りますか? いちおう俺らは何も食ってないんでセーフっすよ。」


再びナオトが席を立つ。


「ま、それがいいでしょうね。ルーシーさんは皿洗いでもして働いてご飯代を払いなさい。自業自得です。」


アラタもそれに続く。


「じゃ、そう言うことだから。問題が解決したら迎えにくるから。ごめんね、ルーシー。」


悪いが僕もルーシーを見捨てることにした。流石にこれはルーシーの落ち度だろう。


そのまま店を出ようとする僕達にルーシーが叫ぶ。


「えっ、まじで? ごめんごめん、真面目にやるから、このままじゃ俺捕まっちゃう!」


僕たちは振り返らない。


ルーシーは焦る。


「なあ、俺達異世界転生してからずっと一緒に頑張ってきたじゃん! その日々をおもいだせよ!」


これがとんでもない失言だった。


「異世界人‼︎ 」

「あなた、異世界から来たんですか⁈」


ルーシーの発言を聞いた周りの人たちが僕らを囲む。


「どう、うちの娘今18歳なんだけどさ、一回会ってくれないかい?」

「異世界人様ぁーん。どう、私と楽しいことしない?」

「いい店知ってんだけどさー、飲みに行かない?奢るから、可愛い子いっぱいいるよ!」



まったく……。僕は頭を抱える。


ルーシーは本当に頭の中に綿棒でも詰まってるんじゃないだろうか。それに街の人も街の人だ。僕らが異世界人ってわかっただけで、その真偽すら確かめず媚を売る。


たしかにこれなら嫉妬も渦巻く世界に……待てよ。



僕は一つ、妙案を思いついた。


















嫉妬の世界編、前半終了です。

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