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38.ひっくり返せ

オダ・レオンとヒット・ラーンプはゲートの中を歩いていた。


「レオン様、よろしいのですか? あのもの達を生かしておいて。」


ヒットがレオンに尋ねる。その口調、態度は二人の間に覆し難い上下の差があるという事を物語っている。


「問題は無いよ、所詮はゲームだ。ある程度妨害してくるやつらがいた方が面白い。」


レオンはこれまで七回の転生を繰り返し、今回は八度目の人生だ。


彼は常に才能に溢れていた。それは、身体能力、魔力、それだけにはとどまらず高いカリスマ性もあった。


地位もそれなりにある家に生まれ、彼は何度も野望を抱いた。しかし、いつも野望を叶える寸前で仲間に裏切られたり、不運な事故にあったりなど、一度も自分の思い通りに世界を変えられたことが無かった。


彼は別にそのことを悲観してなどいない。彼は自分の人生をゲームとしか考えていないのだ。彼の勝利条件は自分の思い通りの世界を手に入れること。失敗したなら次の人生でもう一度。


彼にとって転生とは、ゲームのコンテニューに過ぎないのだ。


「今回は少し物足りない気がしてたんだ。世界を手に入れる前の、ちょっとしたスパイスくらいにはなってくれるといいけどね。」


あとは自分が送り込んだ四人の《堕ちた神》のうち、一人でも感情を奪うことが出来ればそれで勝ちだ。負けはない。彼はそう確信していた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「くそ!」


負けた。


すでに四つの世界に同時に手を出されている。レオンの言う通り今から俺たちが他の世界に向かったところで全ての世界でレオンの邪魔をするのは不可能だ。


俺たち四人では同時に対処できるのはせいぜい二つくらいだろう。


俺は一人じゃ何も出来ない。松田の交渉力。パインの戦闘力。鏡の冷静さ。これらがあったから今までの作戦立案ができたんだ。


二手に分かれる、それならまだなんとか世界を救うことができるかもしれない。しかし、流石に四人に分かれて別々の世界に行くのでは救える世界すら救えないだろう。



「先輩! 大丈夫ですか?」

「山崎さん、大丈夫?」


遠くにいた松田と鏡が走ってこちらに来た。。


「山崎、これは少しまずいのではないか? あのレオンと言う男、相当強いぞ。儂一人では仕留める事はできんかもしれん。」


「かといって四つの世界を回るのは流石に無理ですよね……。」


状況の悪さに頭を抱える一同。


無理もない。将棋で例えるなら王が完全に包囲されているような、絶望的な戦況なのだから。


「あのさぁ、これって俺たちが関わらないといけない問題なの?」


鏡が首を傾げる。


「別に感情を奪われた人たちも死んではいないようだし、わざわざ関わらない方がいいんじゃない?」


鏡の意見は、関係ない世界のものとしては当然の考え方かもしれない。


しかし、それに意をとなえる者がいた。



「このままではいくつかの世界が滅ぼされる。レオンの野望は阻止してくれ。」



ジーさんだ。また、いつのまにか俺たちの背後に現れた。


「ジーさん! 急に現れんなって! てか、見てたんならレオンを捕まえる手伝いしろよ!」


「それは出来ない相談じゃ。レオンについて、少し話したいことがある。取り敢えず元の世界にもどるぞい。」


ジーさんは珍しく、真剣な顔をしていた。


ここはおとなしく従う事にして、ジーさんの開いたゲートから俺たちの世界の、会社の屋上に戻る。



俺たちは屋上のはベンチに腰掛けジーさんの話を聞く。


「これは、はるか昔、ざっと何千年か昔の話じゃ。こことは別の世界である男が死んだ。彼は運良くその世界の神の目に留まり、転生させてもらえる事になった。そして、転生するとき神から、転生をしても、前世で得た知識、能力は失わずに済む、そう言う能力をもらったんじゃ。」


「それがレオンなのか?」


「いかにも。そして、奴は次の世界でも、その次の世界でも、死ぬたびにその世界の神の目に留まり転生を果たした。転生するたび、新しく能力を蓄えながらな。正直、儂でも勝てるか分からんほど強くなっとる。」


「あいつは昔、織田信長だったって言っていた。もしかして、ジーさんもあいつを転生させた神の一人なのか?」


「ああ、あの頃はそこまで転生にも転移にも嫌悪感を感じてなかったからのう。」


なんて事してくれたんだ。ジーさんもレオン転生に関わっていたのか。


「それにしても……、なんでレオンは毎回神様の目にとまるんですかね?」


松田が首を傾げる。


確かに、それは謎だな。


「儂の世界では、死亡一兆人目の記念で転生させた。他の世界でも節目の数字で死んだらしい。」


ひと昔前のデパートかよ。転生を景品がわりにしてたのかこのジーさんは。


てか、レオンの奴、とんでもない豪運だな。



「ジーさんさ、さっきレオンの野望で世界が滅ぶって言ったよね、それって具体的にはどう言う事なの?」


鏡が疑問をぶつける。


「それは、あれじゃな。お前達、風船がぎゅうぎゅう詰めになっている箱を想像するのじゃ。もし、その箱の中に、突然新しい風船が現れたらどうなると思う?」


「それは、他の風船が割れるんじゃないですか?」


「そう言う事じゃ、厳密には違うが感覚的にはこんな感じじゃ。もしレオンが新しく世界を作り出したらランダムでいくつかの世界が滅びる。この世界も、鏡、お主の世界も例外ではない。」


なんて迷惑な話だ。


流石に実害が出るならば放置はできない。



どうにかしてレオンの野望を阻止しなければならなくなった。


しかしーーーー


「問題はどう阻止するか、ですね。」


松田がため息混じりに言葉を発する。


その通り、どう阻止するか、それが問題だ。



レオンの野望を阻止する方法は二つ。


一つはレオンそのものを倒す。しかし、これは神であるジーさんでさえ難しいと言っているので俺たちじゃ不可能だ。俺たちって言っても戦闘力があるのははパインだけなんだけどな。


もう一つはレオンが大罪の感情を集めるのを阻止する事。これも、俺たち四人じゃ無理だ。流石に一人一つの世界を救うなんて成功する可能性が低すぎる。どれか一つの感情を集められるだけでレオンが必要とするエネルギーは集まるのだ。




やはり、レオンに対抗するにも、戦闘力も、人の数も足りない。



ならばどうする。



このまま黙って泣き寝入りか?


運良くこの世界が滅びないことを願うのか。


願うって誰に、 神さまか? それはごめんだ。実質、戦犯みたいな神さまに祈れるか。



考えろ。



状況は詰み寸前。いや、すでに詰んでるか?



すでに飛車角桂香金銀に王手をかけられてるような盤面だ。


何か打開策はないのか?



俺はふと、レオンの言葉を思い出す。


ー君の考え方は大人だね。そして……ひどく窮屈だ。ー



ならば、型を破った子供の発想ならばーーーー!



「はっはっは。なんだ、簡単な話じゃないか。」



「どうしたんですか先輩? 大丈夫ですか?」



「勝ち方が分かった。松田、パイン、鏡、もちろんジーさんも協力してもらう。」



簡単だ。子供はルールなんて気にしない。手番も動き方も無視して好き勝手に駒を動かす。


俺も同じだ。考えついた全ての手段を使う。


遠慮も配慮も必要ない。



次こそはレオンをぶん殴ってやる。











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