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35.詰めろ

松田と電話をして数十分、なぜか俺とパインもヒット・ラーンプの家にいた。


「さあさあ、みなさん、遠慮せずに食べてください。」


満面の笑みでヒット・ラーンプはご飯を勧めてくる。


俺たちの前には豪勢な料理、お酒がこれでもかと並んでいる。



「本当に松田さんと鏡さんにはお世話になりました。」


そういってヒット・ラーンプは礼を述べる。


どうやら、彼の子供が迷子になっているところを偶然、松田と鏡が助けたようなのだ。


そしてそのお礼にと、晩御飯に招待されたのだ。



「この頃反政府軍の爆破事件が後をたちませんからねぇ、誘拐でもされたんじゃないか心配になりましたよ。」


なんて言っている。


彼は思ったよりも気さくな人のようだ。


少なくとも街で聞いていた印象とは少し違う。街では彼は横暴な独裁者って評価だった。



しかし、なりゆきとはいえ、まさか敵のボスにご飯を食べさせてもらうなんてな。



さっきまで現政府軍に対して革命を考えてた俺としては少し気まずい。



松田や鏡には俺とパインが反政府軍と接触したことは話せてない。 だから楽しそうに話している。



特に鏡とは気が合うようで、どうすれば効率よく蒸気の力を利用できるか、なんて話題で盛り上がっている。


話の中で俺たちに泊まるところがないと知ると、空いている部屋に泊まっても良い、とまで言ってくれた。


本当に、至れり尽くせりだ。



宿の予約とかはしてないので、お言葉に甘えることにした。


食事が終わり、俺たちのは用意してもらった部屋で今後の方針を話し合う。


まずは俺とパインが反政府軍と接触して、革命を企んでいることを話す。


「革命ですかー、ヒットさんの人柄を知った後じゃ少しやりづらいですね。」


「まあなー、滅茶苦茶いい人だもんな。でも、テロが起きるくらいには民衆に不満を抱かせているんだよな。」


ヒット・ラーンプを革命で殺すなんてことは極力したくない。


「なら、無血革命にはなるようにすれば?」


鏡が提案する。


「反政府軍が現政府軍のトップを捕まえて、民衆の前で政権を譲渡させる。これならヒットさんも死なずに済むよ。」


鏡の提案がベストかもな。


とにかく、《堕ちた神》の手先の能力者がヒット・ラーンプだったとしても、裏にいたとしても、現政府がなくなれば圧政を続ける事はできなくなるはずだ。


みんなが鏡の案に賛成した。


「じゃあ次は、どうやって反政府軍に現政府のトップを捕まえさせるかですね。」


「そうだな。でもそれは多分どうにかできる。」


俺はみんなに作戦を伝える。


「わかりました。じゃあ明日、鏡と僕はヒットさんを説得してみます。」


「よろしく頼む。俺は反政府軍のオダ・レオンにこの事を伝えてくる。」


こうして作戦会議は終わった。


「それにしても、あのヒットという男、異世界から来たって感じではなかったのう。」


パインがポツリと呟く。


それは俺も思った。


おそらく彼ではなく、彼の裏に《堕ちた神》はいるのだろう。




翌日、俺とパインは再び反政府軍のアジトを訪れていた。


「……って作戦なんだけど、これならほぼ確実にヒット・ラーンプを捕まえられる。」


俺は昨日みんなで話あった内容を現政府軍のリーダー、オダ・レオンに伝える。


「ふーむ、たしかにそれなら拙者達にもチャンスはあるな。」


そういって彼は立ち上がる。


「リーダーとして決断しよう。その案、のった!」


「流石の決断力だな。任せとけ、後悔はさせない。」


俺は彼と強く握手を交わした。




ああ、言い忘れたけどしっかりと、無血革命になるように、くれぐれもヒット・ラーンプを殺さないようにちゃんと注意したからな。



松田達の方も上手くいったようだ。


メールで


「ヒットさんを説得できました!」


って送られてきていた。



全ては順調だ。




順調すぎるくらいだ。




とにかく、この時は、俺も、松田も、パインも鏡も、誰一人自分達の作戦に疑問を抱いていなかった。


一週間後、俺たちの作戦の決行日を迎えた。



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