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30.折れろ。

松田が筒香と打ち合わせをした次の日、異例の速さで筒香の小説は雷撃社のネット販売サイトで販売が始まった。


常識的に考えて昨日の今日で販売される筈はないのだが筒香は別にそのことに疑問を抱いてはいなかった。


筒香の頭の中にあるのは成功した後、富と名声を手に入れ自分が夢を叶えるという未来予測図だけだあった。


筒香は販売が始まって、半日ほど経ったところで自分の作品がどの位評価されているか調べるためサイトにアクセスする。


サイトには読んだ人によるレビューがあるのだ。


筒香は期待に満ちた表情でレビュー一覧を見る。


⚪︎レビュー★☆☆☆☆



1. 見る価値ない。ただのオタクの妄想。


2.こんなのが販売とか雷撃社大丈夫か?


3.タイトル、生身、キャラクター、全て面白くないと思います。


4.つまらん。


5.なんだこれ。



「ど、どういうことだ? なんでこんなひどい評価なんだ⁈」


レビューには批判のコメントが殺到。評価も最低の星一つ。


「おかしい、どうなってるんだ! おい、邪神! どういうことだ!」


筒香は憤る。


「これは……、何者かが魔力を解除しているな。」


魔力を解除? まさか……


「山崎か。」


筒香は唇を噛みしめる。


「何度も何度も何度も何度も邪魔をしやがって。邪神、決めたぞ。山崎をぶっ殺してやる。」


筒香はもう怒りでどうにかなりそうだった。



「今すぐか?」



「ああ、今すぐだ。山崎の病院は調べてあるすぐにワープするぞ!あいつは目の前で殺さなきゃ俺の気が晴れない。」



「では、ワープスペル!」



邪神が魔法を発動させる。すぐに病院の前まで転移する。


流石に病室までは分からないのでピンポイントでワープは出来ない。しかし関係ない。そんなものは聞けばわかる。


筒香はすぐに山崎のいる病室を特定しそこへ向かう。


ガラガラガラッ


「おい、山崎。やってくれたな。」


掴みかかりたい気持ちを抑えゆっくりと歩く。


流石に病室で殺すわけにはいかない。どこか別の場所ワープしてから実行するのだ。


「誰かと思えば筒香か、久しぶりだな。なんかようか?」


山崎はスマホから目を離し筒香を見る。


「とぼけるな白々しい。お前だろ? 本の魔力を解いたのは。」


筒香は憤る。


「落ち着けよ、三流。ここは病室だ。」


「三流だと?」


「そうだ。 魔法が無ければお前の評価なんてこんなもんだ。」


山崎は筒香にレビュー一覧を見せる。


「随分とボロクソに言われてるじゃねーか。所詮お前なんてそんなもんなんだよ。」


「山崎、貴様! 前回で学習しなかったらしいな。次はぶっ殺してやる。」


「殺す? 笑わせんな。魔法なしじゃここで俺を殴ることすら出来ない意気地なしが。」


山崎は松葉杖をついてベッドから立ち上がる。


「殴れるもんなら殴ってみろよ。俺は逃げも隠れもしない。」


「上等だよ。そんなに殴って欲しいなら殴ってやるよ。」


筒香はもう怒りを抑えきれなかった。力任せに山崎を殴る。


殴れ、地面に倒れた山崎は少し笑ってこう言った。


「だからお前は三流なんだよ。」


その瞬間、筒香が消える。いや、正確には強制的にワープさせられる。


「貴様、どういう事だ。筒香をどこにやった。」


邪神が尋ねる。


「あんた《堕ちた神》ってやつだろ?安心しな、筒香は俺の後輩のいる場所にワープしただけだよ。それより自分の心配しな。」


「どういうーーーー⁈」


「バインドスペル。」


邪神は次の瞬間縛られていた。


「ふー、上手くいったな、ジーさん。」


「ああ、餌役ご苦労じゃ。」


「囮って言えよ。」


邪神は状況が掴めずにいた。なぜ自分は縛られている? 魔法も使えない。


こんなことが出来る存在などあるわけが……、いや、一人だけいる。


「老いぼれ、貴様、この世界の神か?」


「そうじゃ、お主儂の世界でなにやら良からぬ事を企んどったじゃろう。話は後でじっくり聞かせてもらうぞ。」


邪神はさらに重たい衝撃を感じ意識を手放す。


「ではな、山崎よ。儂はこいつを調べなきゃならないからもういくぞい。」


そう言って邪神と共に消えてゆく。


「さてと、あとは松田、頑張れよ。」


山崎はゆっくり立ち上がり静かにベッドに戻った。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




筒香は困惑していた。山崎を怒りに任せて殴ったと思ったら周りの景色がガラリと変わったのだ。


「ここは……僕はワープさせられたのか。」


筒香はそこに見覚えがあった。山崎を痛めつける時に利用した廃墟だ。


「おや、奇遇ですね、筒香さん。こんなところで会うなんて。」


後ろから話しかけられる。



聞いたことのある声だ。


「松田さん、いや、松田。そうか、お前は山崎とグルだったのか。どうやって僕をここにワープさせたんだ?」


「簡単ですよ。先輩に触れたらここにワープするように魔法をかけておいたんですよ。先輩の挑発に乗ってまんまと殴ったりしたんでしょう? 」


「なるほどな、ならネット出版の話も、山崎が挑発してきたのも全て罠だったってことか。」


筒香は全てを理解する。


「まあ、そうなりますね。あなたが思ったよりも単純だったおかげで簡単にあなたと《堕ちた神》も切り離すことが出来た。」


筒香にはまだ余裕があった。


「ふんっ、この程度で切り離せたと思っているのか? 邪神よ、来い!」


筒香は叫ぶ。あらかじめ邪神は筒香が呼んだらすぐにワープして筒香のもとへ来れるよう、魔法で契約していたのだ。


しかしーーーー来ない。 当たり前だ。すでに拘束されているのだから。


「なんでだ? どうしてこないんだ!」


焦る筒香に松田が一歩ずつ、近づく。


「筒香、自覚しろ。お前は既に詰んでるんだよ。」


「うるさい、邪神さえいれば僕は……」


「魔法がないと何にも出来ない、お前にも、お前の書く小説にも価値なんてない。」


「うるさい、うるさい、うるさい!」


筒香が恐れていること、それは自分に価値がないと知ることだった。


そして松田はそれを見抜いていた。ただ文章を書くのが好きなだけならわざわざ邪神の力に頼ろうなんて思わなかっただろう。



「さてと……」



松田は筒香の前で止まる。


そして構える。



「作家としてのお前は殺した。次はお前自身だ。」


「ひぃぃぃぃい!」


松田は思いっきり振りかぶり筒香を殴ーーーー筒香の顔面すれすれで止める。



筒香の心を折るには充分すぎる一発だった。




筒香派その場で倒れこむ。




松田はそのまま廃墟を後にした。





筒香編、取り敢えず決着です。


今日、新しく《お客様の半分が明らかに人間じゃない件について》を投稿し始めました。


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