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28.スタートステップ

僕は電車でパインちゃんと鏡くんを先輩の家まで送り届ける。


パインちゃんにはあらかじめ電車では静かにするように言っていたので特に問題もなく先輩の家までつく。


「鍵はパインちゃんが預かってるんだよね?」


「そうじゃ、まあ鍵なんぞ無くても入れはするがの。」


魔法ってピッキングもできるのか……。


「じゃあ、僕はここで、あんまりうるさくしちゃだめだよ。」


「あっ、ちょっと待って松田さん。」


帰ろうとする僕を鏡くんが引き留める。


「どうしたの? まだなにかあったっけ。」


「いや、そうじゃ無くてさ。松田さん、筒香をどうにかしようと思ってるんでしょ?」


「まあ、そうだね。」


「必要があるなら俺を頼ってもいいよ。俺、ケンカとかは全然だけど多分インターネット関連は強いと思う。」


「多分? 思う? 鏡、お主意外と曖昧な言い方するんじゃのう。」


「まあね、俺はもとの世界のネット知識しかないからね。こっちの世界は俺のいた世界より10年くらい進歩してるっぽいんだよ。」


なるほど、それなら鏡くんの言い方も納得できる。


「鏡くん、鏡くんの力が必要になときは頼らせてもらう。ありがとう。」


「松田! 儂も魔法についてならいつでも力を貸すぞ!」


「パインちゃんもありがとう。絶対に筒香を後悔させてやろう。」


二人の協力があれば作戦の成功率がぐっと上がるはずだ。


僕は二人にやってもらいたいことを話す。


「……って感じなんだけど。二人ともできそう?」


「うーん、こっちの言葉とかいろいろ覚えることもあるから今すぐとはいかないけど、でも慣れれば簡単だと思う。」


「儂はできるぞ。」


「わかった、じゃあよろしくね。」


二人は気合い充分って感じだ。


本当に頼もしいふたりだ。


僕はこうして先輩の家を後にする。


そして次の日がくる。


僕や先輩の勤める出版社の名前は雷撃社、そして筒香の本が出版されるのは残月社だ。


今日は僕と編集長で残月社の編集長に会いに行くことになっているため二人で残月社を訪れる。


受付の人が残月社の編集長の待つ応接室まで案内してくれる。


受付の人がドアを開け僕たちは中に入る。


「どうも、お久しぶりですね。白田編集長。」


残月社の編集長が挨拶をする。ちなみに白田とはウチの編集長のことだ。


「それで、君とは初めてだね。」


「は、はい!僕は雷撃社の松田と申します。本日は忙しい中お時間をいただき誠に有難うございます!」


僕は名刺を渡す。


手が震える。やっぱり緊張する。


「松田さんですね、よろしくお願いします。」


残月社の編集長はずっとにこにこ笑顔なので少し緊張が解けてきたかも?


「それで、本日はどういった要件でいらしたんですか?」


「はい、本日はそちらから出版されると聞きました……」


編集長が今日訪れた理由を説明する。


最初は、信じられない、魔法なんてあるわけがないと言った反応をしていたが僕が実際に文字だけをコピーしたものを見せるとーーーー


「これは……。私たちはこんなのもを売ろうとしていたんですか。 たしかにこれは魔法と言われても納得せざるを得ませんね。」


「それで、出版の件なんですが……。」


「ええ、もちろん出版は中止ですとも。こんな本を作る人たちに唾を吐くような行為に手を貸すわけにはいきません。このことを知らせてくれて本当にありがとうございます。」


「ほんとですか! ありがとうございます!」


やはり、会社は違えど同じ本づくりに携わる人間として筒香の行為は許せないようですぐに出版の中止を約束してくれた。


ひとまず目的の一つは達成だ。


とはいえここまではそこまで難しいミッションでもなかった。


話さえ聞いてもらえれば出版が中止になるだろうとは思っていた。




問題はどう筒香に後悔させるかだ。




出版は別の会社でもできる。残月社がダメなら他で出版すればいい。そう筒香が考えていたら意味がない。


だから、筒香がもう二度と本を書きたくないと思うほどに心を折る、それは絶対に必要だ。


僕だけならそれはかなり難しかっただろう。でも、今は鏡くんとパインちゃんもいる。作戦は鏡くんの準備が整い次第開始する予定だ。


仕事終わりに先輩のお見舞いに行く。


おそらく鏡くんもいるだろうからいつ頃決行できそうかも聞いておきたい。


「先輩、お見舞いに来ましたよー。」


「おう、松田悪いな。」


「ってあれ?今日は鏡くん居ないんですね。」


「ああ、今日は儂だけじゃ。鏡はいんたーねっととやらをずっとやっておるぞ。」


「そっか、やっぱり大変か〜。」


無理もないかもしれない。


インターネット世界が移り変わる世界はとてつもなく早い。鏡くんの知識は10年近く前のものだ。流石に一日じゃどうにもならない。


「そういえば先輩、今日メールで話があるって言ってましたよね。」


僕が話をきりだす。


「ああ、筒香のマネージャーを名乗る奴についてなんだが……。」


先輩は昨日おじいさんと会ったらしくその出来事を話してくれた。


「なんかすごい話ですね。」


「そうじゃのう。神にも種類があったとは知らなかったぞ。」


「それにしても、世界が滅ぶってどんな状況なんですかね。なんか想像できませんね。」


「だよなぁ。なんかまだ人類滅亡とかの方が想像できるよな。それに《堕ちた神》がなんで筒香なんかに手を貸しているかもわからない。松田もパインも気をつけろよ。」


なんか複雑な話になってきたな。


病院から出た後は


僕はパインちゃんと一緒に先輩の家による。


「鏡くん、どう? 後どのくらいで作戦を実行に移せそう?」


「うー? 松田さんか、多分明日には作戦を初めて大丈夫だよ、」


鏡くんは目の下に軽くクマができてる。


そうとう頑張ってくれたんだろう。


全ては順調に進んでいる。


みんなのおかげだ。


いよいよ明日、僕らのターンが始まる。

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