26.先輩と後輩
僕たちは急いで病院へ向かう。
どうやら先輩は死んではおらず意識もあると言う。
最悪の想定が想定のですんだのは不幸中の幸いというべきなのだろうか。
電話を貰ってからすぐにタクシーを捕まえて20分、先輩のいる病院に着いた。
急いで中に入り一階の受付で先輩がどこにいるか教えてもらい、病室まで急ぐ。
「山崎! 大丈夫か⁈」
パインちゃんが病院に入るなり叫んだ。
「うるせーよ。ここは病室だ、静かにしろ、パイン。」
先輩はいつものような調子で答える。
でもそれは……。
「なんだ、思ったよりもピンピンしてるじゃん。」
「どこがだ、バカ。包帯でグルグル巻きだろうが。」
鏡くんも気づいてないか、まあまだあったばかりだもんね。
「先輩、心配させないで下さいよ。急に病院から連絡が来た時はびっくりしたんですからね。」
「悪いな、まさか筒香の野郎が実力行使に出るとは思わなくてな。まあ、大丈夫だ。」
どこがだよ。
僕は気づかないふりを続ける。
「先輩見た目は大怪我ですけど、入院とかするんですか?」
「ああ、なんか怪我の処置はしてもらったけど脳に影響がないか精密検査するから二、三日入院しなきゃいけないんだと。なんだっけCTスキャンとかいう奴だよ。」
「CTすきゃんとはなんじゃ?」
思ったより元気そうに見える先輩の姿にパインちゃんは少し安堵したみたいだ。
いつもの好奇心が戻ってきてる。
僕は先輩に話しかける。
「先輩、もう筒香に関わるのはやめたほうがいいんじゃないですか?」
「なんでだよ。ここまでやられて引き下がれってのか?」
「そうじゃありません。」
あんた、顔には出してないけどムカついているんだろ?
「先輩、たまにはゆっくり休んで下さいよ。」
パインちゃんや鏡くんの前ではいつも通りに振舞っているけど腹わたは煮えくり返ってるんだろ?
僕にはまだ実績も何もない。
自分で才能のある新人の人を育てる力もない。
でも先輩は違う。
僕はまだ先輩とは少ししか仕事をしていない。
でも、見てきた。
名もない作家さんと、どうやったら売れるか、面白くなるか、関心を引けるか、本にできるか、それを必死に考えて、頑張ってきたことを。
一番近くでそういう作家を見てきたから筒香みたいなドーピング野郎が許せないんですよね?
僕も同じです。
先輩の百分の一にも満たないかもしれませんが。
でも、
だから、
「筒香のことは僕に任せて下さいよ。」
しっかり後悔させてやりますから。
僕も先輩同様、笑顔で気持ちをカモフラージュする。
「鏡くん、パインちゃん、しばらくは先輩と一緒にいて。もしかしたら筒香がトドメを刺しに来るかもしれなからね。」
「演技でもない事言うんじゃねえよ。」
「いや実際ありえるんじゃない? 俺が筒香なら確実に山崎さんにトドメを刺すよ。」
「うるせー、鏡。お前は言われた人の気持ちも考えろ!」
さてとじゃあそろそろ行こうか。
僕は席を立ち病室を後にしようとする。
「松田、まて。」
「なんですか? 先輩。」
「頼んだぞ。」
「はい。任せて下さい。」
松田はそう言って病室を後にした。
俺はしばらく動けそうにないからな。
筒香への反撃パートはあいつに任せるとするか。
頼んだぞ、松田。
ここまで考えて俺は思った。
なんか俺、カマセっぽくね?




