25.復讐の始まり。
俺は筒香にいまいるカフェの場所を教える。偶然近くにいるようで15分と程で到着できるそうだ。
俺たちはその15分の間で席を移す。
俺は店の真ん中くらいのテーブルに、三人はその隣のテーブルに。
もし筒香がチャームスペルを使うなら魔法がかかっていない俺に対して直接魔法をかけようとするかもしれない。
その時は隣のテーブルのパインに弾いてもらう。
わざわざ別々の席に座ったのは相手に俺以外にも魔法にかかって無いものがいると感づかれないようにするためだ。
今は平日の3時くらいなので周りには客もいない。筒香が魔法を使って迷惑をかけることもないだろう。
席を移ししばらくすると店に筒香が現れた。 筒香は誰かと一緒に来たようだ。黒いスーツに身を包んだ男が隣にいる。
店が空いているため筒香はすぐに俺を見つけ席に座る。
「さて、久しぶりだな、山崎。」
「ええ、久しぶりですね。ところでこちらの方は?」
俺はスーツの男を見る。
「ああ、彼は私のマネージャーだよ。別に気にしなくていい。早く本題に入ってくれ。」
「わかりました、では……」
俺は本を取り出しカバーを外す。
「こちらの魔法陣に関してお話があります。これは魔法ですよね。」
魔法と言う言葉を聞いた瞬間筒香はにやける。
「山崎ぃ、なんでわかったのか詳しく教えてくれないか? 」
否定する気は無いようだ。
俺は適当な嘘をつく。
「実は私は魔法が使える世界からの転生者なんですよ。私は使えませんが感じることくらいはできます。あなたもそうなんでしょ?」
「驚いたなぁ、転生者なんて存在するのか。まぁ、魔法を見抜いてるし嘘ではなさそうだけどね。でも君は勘違いしてるよ、僕は転生者じゃ無い。」
どういうことだ?
こいつも嘘をついているだけか?
「筒香さん、なぜあなたが魔法を使っているか詳しく説明してもらいますよ。」
「構わないよ。 でもここじゃ周りに話を聞かれてしまう。場所を変えさせてもらうよ。」
俺は一瞬ドキッとした。
しかし、筒香は近くの松田やパイン、鏡に気づいたわけではないようだ。単純に警戒しているのだろう。
ここは素直に筒香に従う。
俺と筒香、それにマネージャーを名乗る男は店をでる。
ワンテンポ遅れて松田達も。
筒香は店出た後人通りの全くない路地裏に俺を連れて行く。
「筒香さん、ここなら人に話を聞かれる心配もないでしょう。話してください。」
「いやいや、まだだよ。マネージャー、頼んだ。」
「はい、ワープスペル!」
筒香のマネージャーを名乗る男が魔法を使う。
俺は次の瞬間どこか廃墟のような場所にいた。
「さて、ここなら人も来ない。」
「やっと話してくれますか。」
俺はパインと離れてしまったため魔法に対して無防備な状態になってしまった。
まさか瞬間移動もできるなんて予想外だった、しかしもっと予想外だったことがーーーー
「何言ってるんだ、話しても意味が無いだろ?今から君は死ぬんだから。」
「ハメやがったな……。」
筒香は最初から俺に話す気など無かったんだ。
考えてみれば筒香の態度は最初から少し不自然だった。
あっさり魔法のことを認めすぎだったのだ。普通なら少しはとぼけたりするだろう。
おそらく俺をここまで連れ出し、始末するためにわざわざ魔法の使用を認めたのだ。
そして俺はその罠にまんまとハマってしまった。
ここがどこかはわからないが逃げなければ、俺はすぐに廃墟の出口をめがけ走る。
しかしーーーー
「クラッシュスペル!」
マネージャーが魔法を放つ。
俺はまるで背中に車でもぶつかった様な衝撃を感じる。
そして吹っ飛ばされる。
骨折はしていない様だが、体中が痛い。頭からは少し血も出てる様だ。
「くそっ、なんでこっちの世界で命狙われなきゃならないんだ。」
俺はなんとか立ち上がりまた走る。
魔法が当たらない様に柱や壁で魔法の射線を切って走る。
しかし意味はない様でーーーー
「クラッシュスペル!」
壁越しの魔法でも俺は吹っ飛ばされる。
今度こそどこか骨折したか?
痛みの次元が上がった。
しかしそれでも走る。
こんなのノヴァの試練に比べりゃ大したことねぇんだよ。
筒香達は俺を弄んでるのか、それとも単純に出来ないのか一撃では俺を殺そうとしない。
それが幸いして俺はなんとか外に出ることが出来た。
そのまま近くの大通りにでる。
筒香は人目がある場合を嫌った。流石に人が大勢居る場所では追撃も出来ないはずだ。
俺は近くのベンチに座ろうとするがそこで意識が途切れた。
俺はその場に倒れこんだ。
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僕はパインちゃん、鏡くん とともに先輩の後をつけていた。
先輩は筒香に連れられるまま路地裏に入ってゆく。
僕達も後に続こうとするが……
「しまった! 奴ら魔法でワープしたぞ!」
パインちゃんが焦る。
路地裏には誰の姿もなかった。
「パインちゃん、先輩がどこに行ったかわかる?」
「無理じゃ、一度でもワープされたらこちらからは探しようがないのじゃ。」
パインちゃんは悔しそうな顔をする。
「ねえ、これって不味くない? もしかしてあいつ口封じに山崎さんを連れて行ったんじゃない?」
鏡くんが最悪を想定する。
そしてそれは僕の頭にも浮かんだ想定だった。
「パインちゃん!ワープの魔法って移動できる範囲の制限とかある?」
もしあるならば範囲内で人のいなさそうな場所を探せば……
「ない。ワープ魔法とは魔力を込めれば込めるほど遠くに移動できるんじゃ。」
「じゃあ、魔力次第ではどこまでもいけるってこと?」
「まあ……、そういうことじゃ。」
これでは先輩を探し出せない。
「松田さん、この辺で人気が全くない場所しらない? 僕の予想ではそう遠くには行ってないはずだよ。」
鏡くん?
「どういうこと?」
鏡くんは説明しだす。
「あいつらこっちの来るとき少し時間かかったろ? つまりここに来るときは魔法を使ってない可能性が高い。」
たしかにそれはそうだ。
「もし魔法を使ってないならあいつらはこの辺に住んでるか、仕事してるか、多分土地勘があると思う。」
こんな時間に15分以内で来れるならその可能性も高いかもしれない。。まさかたまたま旅行で近くにいたなんて偶然はないと思う。
筒香は出版社に直接持ち込みをしたらしい。地方の人なら原稿を郵送したりするはずなのでこの辺で暮らしていてもおかしくない。
鏡くんは説明を続ける。
「魔法で移動するには距離に応じた魔力が必要なんだろ? なら山崎さんを殺すための魔力も残さないといけないしそこまで遠くにはワープしないんじゃないか?むしろ近場で人が来ないと分かっている場所にワープするんじゃないか?」
鏡くんの予想はあくまで可能性があるってだけだけど今はもう他にできることはないと思う。
僕は家はここから離れた場所にあるため土地勘はそこまであるわけじゃないけどそれでもパインちゃんや鏡くんと比べたらあるはずだ。
僕はポケットからスマホを取り出す。
どうでもいいけど僕は最近スマホデビューをした。
ほんとにどうでもいいな。
とにかくマップアプリを起動して近くで人の少ない公園や路地裏、廃墟や倉庫をマーキングする。
「じゃあ近い場所から行こう。」
僕たちは走り出す。
もし僕や鏡くんが想像したように筒香が先輩を殺して口封じをするつもりならあまり時間は残ってないかもしれない。
僕たちは思いつく限りの場所に足を運んだ。途中からはタクシーも使ってとにかく沢山の場所を探した。
結局僕たちは先輩を見つけることが出来なかった。
探し始めて一時間程経って僕のスマホに見たことがない番号から電話が。
病院からだった。
僕は己の無力を痛感した。




