22.動物は責任を持って最後まで飼いましょう
三日目、今日は技USBをゲットする日だ。
俺たちのに必要な技USBは全部で6個。
遠方の街に行くための‘‘空を飛ぶ”
海や湖を渡るための“波に乗る”
通行を妨げる岩を砕く“岩砕き”
崖を登るための“ロッククライミング”
霧を払うための“霧ばらい”
草が生い茂る道を歩くための“草刈り”
面倒な事に全て別々の街でしかゲットできない。今日一日で出来るか怪しい気もするな。
「おい、山崎。こんなにたくさん必要か? 空を飛ぶだけで霧ばらい以外は代用できるのではないか? 海とか崖とか飛べばいい話ではないか。」
パインが質問する。
たしかにパインの疑問はもっともだ。しかしこれはゲームだからな。ゲームに理屈を求めてもしょうがない。楽しむためには多少の不合理だって必要なのだ。
「それにしても、移動技全部を一日でゲットってやっぱり難易度高いですよ。ここはパインちゃんの言う通り便利なモノから優先でとっていきませんか? 」
松田の言うことも正しい。最初に草刈りとか霧ばらいを使えたところであまり意味はない。
「じゃあ最初は“空を飛ぶ”の技USBから取りに行くか。」
「その方がいいと思います。」
松田も頷く。
ところがーーーー
「そもそもなんで全部取らなければいけないのじゃ?」
さらにパインが質問する。
俺は答える。
「ファングって奴がどこに居てもいいようにだよ。」
今のところファングの足取りは掴めていない。それも当然だ。街の人は決まったことしか言わない。いくら聞き込みをしても無駄、見つけるには昨日パインに話たように探知専門の“サテライトン”と言うドラゴンが必要なのだ。
「先にサテライトンとやらを捕まえて居場所を見つければ良いではないか。そうすれば無駄な技USBをとらなくてすむのではないか?」
「……それもそうだな。」
「……全部取る必要無かったですね。」
パインって意外と鋭いんだな。13歳と侮っていたがやはり魔王か、侮れない。
「じゃあ、サテライトンの方からゲットするか。」
「また、草むらに行くのか?」
「いや、たしかサテライトンは洞窟に生息していた筈だ。」
「コウモリタイプのドラゴンですからね。」
「ドラゴンなのにコウモリ? どういうことなんじゃ?」
パインは不思議がる。
ゲームなんてそういうもんだ。深く考えてもしょうがない。
俺たちは今日の目的を技USBゲットからサテライトンゲットに切り替え、サテライトンが出現する洞窟へ向かう。
サテライトンとは松田が言ったようにコウモリタイプのドラゴンだ。基本的には初期のプレイヤーでもゲットできるくらいの強さで出現する。人を探知する技は“サテライトンスキャン”と言いレベルが80を超えないと覚えられない。
しかしその点はまったく問題無い、ゲットしてしまえばこっちのもんだ。
飴はまだ1000個以上残っている。
しばらく洞窟内をウロウロしてると頭にバトルのテーマが流れ出す。野生のドラゴンの出現だ。
テロリリテロリリテロリリテロリリ!
▶︎あっ! 野生のデオキブラコンがとびだしてきた!
▶︎山崎はどうする?
たたかう◀︎ バック
ポケドラ にげる
っておい! また伝説のドラゴンが出てきたぞ!
デオキブラコンとはデオキシスコンと対をなすドラゴンだ。デオキシスコン同様ランダムで一度しか出現しない。
ここは慎重に、前回と同じ失敗をしてはいけない。
俺は“たたかう”を選択し、戦闘用にレベルをおさえていたドラゴンを繰り出す。
「いけ! ダークライジン!」
ダークライジンは相手を眠らせる技を有する。捕獲用にはもってこいだ。俺はダークライジンに“子守唄”を使わせる。
デオキブラコンは……眠った。
俺はドキドキしながらドラゴンボールを投げる。
ボールがあたりデオキブラコンはボールの中に……
ピコン、ピコン、ピコン、カチャ。
▶︎山崎はデオキブラコンをゲットした。
「よっしゃぁぁぁぁぁ!」
デオキブラコンゲット! デオキブラコンゲット! やっぱりこう言った瞬間は大人になっても嬉しいし楽しい!
俺の声を聞いて松田もパインも近寄ってくる。
「先輩! ゲットできたんですか⁈」
「やったのう!山崎!」
俺は自慢げにボールを見せつけてーーー
「おう! デオキブラコンゲットできたぞ!」
「はい? 」
「サテライトンでは無いのか?」
松田もパインもがっかりする。
「先輩、なんでゲットしたんですか?」
「え? なんでって、伝説のドラゴンが出たらゲットしないわけにはいかないだろ?」
「そうですか。それでサテライトンはどうやって捕まえる気ですか?」
「……あっ。」
松田の言わんとしてることをやっと理解した。
この世界はポケドラシリーズの三作目をモデルに作られている。そして三作目ではドラゴンを逃がすこともどこかに預けることも出来ない。つまり俺はこれ以上ドラゴンを捕まえる事が出来ないのだ。
確か子どもの教育上、捕まえたドラゴンを無責任に逃がしたり預けたりするのはよくないとの苦情が殺到したので三作目はそんな仕様になったとか……。
早い話が六匹目を捕まえた俺は戦力外。サテライトンをゲットできない。
「先輩、もう僕らでやるんで休んでていいですよ。」
「すいませんでした……。」
みんなが働く中一人だけ休むのってなんか罪悪感が半端無い。俺は一人寂しく捕まえたデオキブラコンのレベル上げをするのだった。まぁ、飴あげるだけなんだけどな。
その後、20分程で松田がゲットできたようで二人とも洞窟から出てくる。
「ゲットできましたよ! いやー全然出現しなかったから大変でしたよ!」
わかってる、松田は悪気があって言ってるわけじゃ無いのはわかってる。
しかし大変だったと言われると胸に刺さるものがあるな……。
「さて、じゃあ早速技を使いますね。出てこい、サテライトン! サテライトンスキャン、ファングを探せ!」
松田がドラゴンボールを投げる。
ボールから出てきたサテライトンは空高く上昇してゆく。俺たちには聞こえないが超音波のようなものでも出しているのだろう。
「どうだ? 松田。」
「えーと、今、表示されました。ってあれ?」
松田は驚いているようだ。
「なんだ? 表示されなかったのか?」
「いや、表示されてます。ここのすぐ近くに……。」
なんだって⁈ これはありがたい。技USBを取りに行く手間が省けた。
「松田、案内してくれ。」
「はい!こっちです!」
松田は走り出す。俺とパインも後を追う。
しばらく走ると洞窟からそんなに離れていない草むらに一人、今までの人物とは違う、明らかにプレイヤーの動きをするものが。
松田が声をかける。
「おい! お前がファングか?」
「……そうですが。あなたは誰ですか?」
ファングは驚く様子がない。ジーさんの話ではコミュ症らしいから突然話しかけられるとびっくりすると思ったんだがな。
「僕は松田だ。ファング、僕とバトルしろ。お前を倒してこの世界を元に戻す!」
松田がバトルを申し込む……が
「いやです。今忙しいので。」
あっさり断られる。
「どうしましょう先輩。バトルができなきゃ倒せませんよ。」
「なんじゃ、一方的に仕掛ければいいではないか。」
「いやそれはできない。ここがゲームの世界である以上はシステムに則って奴を倒さなければならない。 あいつが勝負を受けてくれない以上倒しようがないんだ。」
「それはめんどうじゃのう。」
パインの言う通り、ほんとに面倒なことになったな……。
会えたはいいが相手がバトルに乗り気じゃないと戦うことはできない。
予想外の事態に見舞われてしまったのであった。




