20.人生にセーブ機能などない
今日は土曜日。
俺と松田、それにパインは会社の屋上にいる。
もちろん休日出勤ではない。
異世界に行くためだ。
「それじゃ準備はいいかのう?」
そういってジーさんがゲートを開く。
「それでは、扉よ開け! 我が強大な力の前に空間よ、時間よ、ひれ伏しそして従え。ゲートオープン!」
って、あれ?
「ジーさん前はこんな言葉言ってたっけ?」
「いや、なんか呪文みたいなのがあった方が異世界感出るかなーって思って。」
「「「……」」」
「なんじゃその目は……。」
俺たちはゲートに入りしばらく歩く。
今回はすぐに別の世界に到着した。
目の前には草原が広がっている。
「着いたぞ。ここがゲームになってしまった世界じゃ。お主達がこの世界を元に戻したら迎えに来るぞ。」
「ちょっと待て、ジーさん。」
「なんじゃ?r
「この世界はひとりのコミュ症が原因でこうなった、だからそいつを倒す事で元に戻るんだよな。ならそのターゲットがどこにいるかくらい教えろよ。」
そのくらいの情報は必要だ。
「それが場所が分からんのじゃ。一応この世界でのターゲットの名前は ファング じゃ。では頑張ってくれ。」
そう言ってゲートが閉じ消えてゆく。
「場所が分からないって面倒くさいですね。」
「そうだな、まぁ取り敢えずこの世界の事を知らなきゃ何も出来ん。いろいろ調べよう。」
「そうですね。」
「まずはこのステータス画面についてだな。松田、お前もステータス画面表示されてるか?」
「はい、まずはこれから調べてましょう。」
俺たちの視界にはメニューと表示された細長いバーがある。
俺はそれをタップしてみる。
いくつかのメニュー画面が表示される。
①ポケドラ◀︎
②図鑑
③バック
④主人公の情報
⑤レポート
⑥設定
「ゲームってポケドラかよ!」
俺は既視感バリバリのステータス画面につっこむ。
ポケドラとは俺たちの世界の代表的なゲームで、ドラゴンボールと呼ばれるボールでドラゴンを集め各地のジムリーダーを倒したりして最強のポケドラマスターを目指すゲームだ。
「先輩、まずくないですか?」
「何が?」
「確かポケドラって草むらとかで野生のドラゴンとバトルになったりしましたよね。僕ら今手持ちのドラゴン一体もいませんよ?」
「確かにな、さっさと近くの町に行くか。」
流石に生身でドラゴンに体当たりなどされたく無い。
俺たちは草原のすぐ近くにあった町に入る。
「おい、山崎。何かこの町おかしくないか?」
いつもは好奇心マックスファイヤーのパインが少し不気味がっている。
それも無理はないだろう。みんなの目に意思が感じららない。
まるで超精巧に作られたロボットのようだ。
「これが感情が無いって事なんですね。なんか不気味ですね。これからどうします?先輩。」
「まずはドラゴンを手に入れなきゃ話にならんだろう。どこかに最初のドラゴンくれるオーキドラゴン博士が居るはずだ。探すぞ。」
ポケドラでは最初はオーキドラゴン博士から一体のドラゴンを貰うのだ。
俺は町の人に話を聞く。
「ちょっとすいません、オーキドラゴン博士がどこに居るかわかりませんか?」
マッサラタウンのお姉さん
▶︎この町はマッサラタウン。初心者トレーナーの町さ。
「いや、そうじゃなくてオーキドラゴン博士知らない?」
マッサラタウンのお姉さん
▶︎この町はマッサラタウン。初心者トレーナーの町さ。
ダメだ。同じセリフしか言わない。
「松田、そっちはどうだ?」
「ダメです。どうでもいいことを繰り返し言うだけで博士の場所は分からないです。」
「おい、山崎! この男は知って居るらしいぞ!」
「おっ、でかしたパイン!」
男に案内され俺たちはオーキドラゴン博士の研究所にたどり着いた。
マッサラタウンのおっさん
▶︎ここが博士の研究所だ。ルーキー、頑張れよ!
男はそう言うともときた道を戻って行く。おそらくまた同じ所に立ち続けるのだろう。
俺たちは中に入る。
すると見覚えのある人物が話しかけてきた。
オーキドラゴン博士
▶︎君が新しいドラゴントレーナーか。今日は君にドラゴンをプレゼントしよう。
博士に話しかけられると視界に変化が
受け取りますか?
はい◀︎
いいえ
全員もちろんはいを選ぶ
オーキドラゴン博士
▶︎ではこの三体から選びたまえ。
ヒトカゲラ◀︎
ゼニカメ
フシギダヨ
「先輩どうしますか? 好きに選んでいいですか?」
「いや、せっかく三人いるんだし別々のドラゴンを選ぼう。」
「わかりました。じゃあ僕はゼニカメにします。」
「儂はヒトカゲラとやらにする。」
「俺は残ったフシギダヨだな。」
三人で別々の選択をする。
オーキドラゴン博士
▶︎おめでとう。君は今日からドラゴントレーナーじゃ。君にプレゼントをあげよう。ドラゴン図鑑とドラゴンボールを受け取りたまえ。
ドラゴン図鑑とドラゴンボール×5受け取りますか?
はい◀︎
いいえ
はいを選択、図鑑とボールを受け取り俺たちは研究所を出る。
「よし、じゃあ早速ドラゴン捕まえに行きましょう!」
「楽しみじゃのう。どんなドラゴンがあるのじゃろうか。」
松田とパインはワクワクを抑えきれない様子だ。特にパインはこのゲームをやったことが無い。初めてのポケドラなら興奮するなと言う方が無理だ。
しかし今回の目的はゲームを楽しむ事では無い。おそらく最強のドラゴントレーナーになっているであろうターゲットのファングを倒す事だ。ジム戦とか四天王に挑戦とかするつもりは毛頭無い。
「松田、パイン、まずはレベル上げだ。俺らのドラゴンのレベルをマックスにするぞ、ドラゴンを捕まえに行くのはその後だ。」
「へ? でも戦わないと経験値もたまらないしレベル上げなんて出来ませんよ?」
「それが出来る。ちょっと付いて来い。」
俺はマッサラタウンの中央にある銅像に行く。ゲームではここには隠しアイテムのレベルアップの飴があるのだ。
レベルアップの飴は与えたドラゴンのレベルを一つアップさせるものだ。
俺が銅像の周りを探すとーーー
「あった! ほら、これでレベルアップが出来る。」
俺は二人に飴を見せる。
「これでレベル上げするぞ。」
「何言ってるんですか。飴じゃレベル一個しか上がりませんよ? マックスにするなんて無理ですよ。」
「それがな、多分俺の感じゃ無限にレベル上げが出来る。」
「どう言う事ですか?」
「まず松田、パイン、お前達も飴を回収してくれ。」
「はい、わかりましたけど。」
「やってみるかの。」
二人は俺が飴を見つけた場所を探す。するとーー
「先輩、ありました。」
「あったぞ。しかし全員分でも三つ、山崎は何を考えておるんじゃ?」
パインが検討もつかないと言った顔をする。
俺は実行して見せる事にした。
まず松田に自分のポケドラと飴を預ける。そしてメニューからレポートを選ぶ。するとこんな画面が表示された。
日記を書く◀︎
はじめに戻る
俺ははじめに戻るを選択する。
つまりデータをリセットしたのだ。
これで俺はまだドラゴンも貰って無いし図鑑もドラゴンボールも貰って無い事になった。当然レベルアップの飴も見つけてない事になる。
俺は再度銅像の周りを確認する。
そして見つける、レベルアップの飴を。
「先輩これって……。」
「ああ、これを繰り返せばすぐにレベル上げが出来る。」
「それはズルでは無いのか?」
「システムの隙を突いただけだ。賢いと言え。」
俺は何度もリセットをして飴を取り出す。
30分も経つ頃には松田のドラゴンもパインのドラゴンも松田に預けていた俺のドラゴンもレベルマックスで最終進化形態になっていた。
こうして俺たちの二度目の異世界が始まった。




